だから人は人を愛することができない。

自我の構図 感想
お互いがお互いにやましいことがあるから、一歩踏み出せない人間のすれ違いを巧みに描いた一冊
300P弱と短いながらも読み応えがあった

それまで平穏に続いていた日常が藤島の自殺により、一気に不穏になっていく物語
意外にもこの藤島壮吉という人物は序盤で鬼籍に入るも、彼の死はその後に非常に大きな影響を及ぼす
彼に関係する残された人間は運命の大きな転機を迎えることになる

崖から転落して川に流された藤島が自殺、過失、他殺のどれであったかが最初の面白いポイント
主人公の慎一郎曰く、ちょっと目を離した間に藤島はいなくなっていた、と言うが二人きりだった上にそれを証明するものはない
慎一郎の証言通りなら他殺ではないことになるが、第三者から見れば不自然に思われるのは当たり前
警察も含め、周囲が殺人である可能性が濃厚になっていく中、藤島の妻である美枝子が上手く取り計らってくれて、結局藤島は崖から足を滑らせて川に落ちたという過失で落ち着く
しかしこの時、その場に居なかったはずの美枝子は藤島が本当は自殺したのでは?という確信めいたものを感じていた
後日、それは真実となる
藤島の遺書が発見され、その内容から自ら自殺することが予告されていた
自殺にせよ、過失にせよ慎一郎の疑いは晴れることになった
だが真に恐ろしいのはこの藤島壮吉の自殺は南慎一郎を苦しませるために敢行されたものであったことだ
彼の自殺の狙いは慎一郎と美枝子に破局を齎すためである
美術の才能も女を捕まえる才能も慎一郎に劣ると感じた藤島は自らの死によって二人を引き裂こうとした
結果的にそれは成功はしたものの、藤島が望む形とは別になった
同じ男目線から見れば相手に嫉妬して自分が死のうなどととは微塵も思わないけど、それを実行出来ることが凄いといえる

まあ要約するとこうだ

藤島「俺の嫁に浮気しやがって!お前は絵の才能でも俺に勝っているというのに!死んでやるー!」

情けなさ過ぎだろwwwって思ったけどプライドが高すぎる彼にとっては大切なものを2つ奪われたことが耐えられなかったんだろう
そしてそれは劇的な方法でなければ破壊することは叶わなかった
故に彼は自殺したのだ

藤島がいなくなったことにより、慎一郎と美枝子は結ばれるかと思いきやそれも上手くはいかなかった
今度は二人の間に猜疑心が発生
藤島の遺書は慎一郎と美枝子両名に届くはずだった
慎一郎は逸早く藤島の自殺を知り、美枝子にも確認が取れるはずだったが、彼女は藤島が自殺である確信はあったものの事実であったことをこの時点では知らない
ここでこの物語上最も醜悪で人間の小汚い部分全てを詰め込んだような憎たらしい松江が登場する
とにかくこの人にはイライラしっぱなしで出てくる度にあまりの面の皮の厚さに張り倒したくなるほどですwww
美枝子の姑にあたり、藤島の母親である松江が美枝子が読むはずだった藤島の遺書を自分が読んだ後に隠してしまい、美枝子の目に触れないようにしていたのである
最終的には美枝子も藤島の自殺の経緯を知るものの、現段階では彼女の中では確定していない事柄となっている
それが慎一郎にとってはそれなりにショックだったらしく、それとなく藤島の自殺のことを仄めかしてみても美枝子の口から言質が取れないから、「俺の味方をしてくれているようで、実はまだ藤島を庇うつもりなのか」と嫌でも疑ってしまう
逆に美枝子はどこか余所余所しさを感じる慎一郎に戸惑ってしまう
後々になって直接慎一郎の口から遺書の事を聞かされ、松江が隠した遺書を発見した美枝子は慎一郎を軽蔑するようになる
二人の齟齬のポイントは『本当に知らなかったのにあくまで知っているのを隠しているように見られる(見てしまう)』ところにある
これが決定打となり、美枝子の態度は豹変
慎一郎を完全に敵みたく認識するようになり、二人が結ばれることはなくなった
後に松江は自分の息子が自殺したことが生命保険関連で都合が悪くて、美枝子宛ての藤島の手紙を焼いてしまう
それだけでは足りず、慎一郎宛ての藤島の手紙も焼却して証拠隠滅を図る徹底ぶりw
小悪党を極めてる
ホンマこのババアええかげんにせーよwwwwwwwwww

しかしこの松江婆さんをもってしても予測出来なかったのが雅子の存在であった
物語上、一番視界が広かった人物である
彼女も慎一郎の事が好きだったがそれをひた隠しにし、何度も警鐘を鳴らしてくれたとっても良い子である
雅子の言う通りにしていれば悲劇的な結末にはならなかったとは言えないが功労者であることは間違いない
証拠を潰したことで安心感を得ていた松江だったが、雅子は慎一郎の知らぬ間に藤島の遺書のコピーを取っていた!
複製ではあるが、筆跡を見れば藤島が書いたものであることは証明出来る
ようやく松江のババアに赤っ恥をかかせることが出来て胸が空く思いだったw

ここまで書かなかったけど慎一郎の妻である由紀について書いておこう
彼女は作中で最も心情が読みにくい人間でした
急に元気になったり、落ち込んだり、激怒したりと気性の移り変わりが激しく、読み終わった今ですらも人物像を掴みきれていない
根は家庭を大事にする良い妻なのだが、慎一郎が美枝子に浮気していることを知ると情緒不安定になっていく
後に息子の譲と心中を行うまでになるが未遂に終わる

俺は男性で恋愛経験も"ただの一度もない"人間なのでわからないんですが、著者の三浦綾子は『夫に浮気されることは死ぬことよりも辛い』と書いているんですね
この程度がどれほどのものかは家庭を持った女性にしかわからないとは思いますがどうなんでしょう
興味深い一文でしたね






最後に自我の構図名言ベスト3を紹介して終わりたいと思います
大体どの小説も心に響く名言があるんですが、この作品は特に印象に残ったので記す



●第3位


「苦しんでくれ、南。お前は苦しめ。俺は死ぬのだ。お前に負けて死ぬのだ。お前が苦しむのは当然だ」/藤島壮吉

藤島の台詞の中でダントツに衝撃的だったのはこの台詞でしたね
冒頭で彼は自殺するようなことをそれとなく言っていたんですが、死んだ後も疫病神のように付き纏う亡霊でした
その藤島が遺書に残した一文
慎一郎を苦しめることを目的とした内容で、遺書にこんなことを書いてくるこいつは只者ではないと背筋がブルッとしましたね
面と向き合って気遣う必要がなくなったからこそこういったストレートな物言いが出来たのだろう


●第2位

「南君、人間が人間を愛せると思ったらそれはまちがいだぜ。人間は人間を愛することなどできん。好色とか情欲を、愛だなどと思っちゃいるまいがね」/小西蒼竜

感想では紹介しませんでしたが彼は作中で人生の指標となるような言動を放つ
藤島壮吉の師匠である

深い一文ですね
この一冊を読み切った上でなら、彼の言っている真の意味に気付けるだろう
どうして他者を愛することは出来ないのか?それはこの物語のテーマである
理由は簡単だ

人は誰しも自分のために生きているからである

これに付きますね
三浦綾子に言いたいことを自分なりに解釈するなら、"自分が何を成そうがそれは最終的に自分に返ってくるから人は行動を起こすのだ"
こう考えると結局優先事項が自分>他人になるわけですね
他人のためだ、と献身を尽くしたとしたとする
それが喜ばれ感謝されると『自分が』嬉しい
どうしても自分に回帰する
人を愛せないというのは根本的な部分に自らの欲求を満たす事が見え隠れしてしまうからである


●第1位

「古いといわれるかもしれんが、古いことが悪いとは限らん」/小西蒼竜

1位も小西蒼竜の一文です
この前にある文章も一緒に載せた方が説得力はあるんですが、ちょっと長いのでこれのみにしました

"新しいことが全てではない"という個人的にとても好きな台詞でしたね
時代は新しいものを求める傾向にあります
しかし必ずしもそうとは限らない
年の功があってこその発言力を感じました
当たり前といえばそうなんですけど、古き良きものは大切にしなければいけないと思い知らされました



ヤベッ!時間に追われてる!
それじゃこの辺で!!
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[ 2018/04/18 ]
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