――ついに邂逅の時がやってきた。
いつかこの時が来るとは思っていたが、意外にも早かった。
「りこ、今会いにゆくよ」
年甲斐もなくこんな気色悪い発言が出来てしまうのはきっとりこに対する情熱が全身から迸っているからであろう。果たしてどんな女の子なのだろうか。
しばらく視聴していると海岸の堤防に立つ一人の少女を見つけた。背を向けているためこちら側からは顔が確認出来ない。考え事をしているのか視線は遠くの海を見つめたままだ。
「りこ、君なのか……?」
心臓の鼓動が徐々に高鳴ってくる。
凝視していると唐突に彼女は海に向かって走り出した。
偶然彼女を見つけた千歌は危ないと思って追い縋り抱きつくが、縺れてしまって二人とも海に落ちてしまった。
彼女の御顔が見えたのはその時だった――
「ウオー! リコー! リコー!」
僕はパソコンのモニターに食い入るように目を見開いた。断っておくが気が触れてしまったのではない。況してや某有名アイドルグループの某氏みたいに深夜の公園にて裸で友人の名前を連呼するような痴態も犯してはいない。ただ部屋の片隅で愛を叫んでいるキチガイなだけだ。
さらに追加すると僕が好きなのは桜内梨子であって、間違ってもゼ○ギアスのリカルド・バンデラスのような屈強な男ではない。片仮名表記で書くと誤解を生むかもしれないからこれからは梨子と書こう。
ともあれこうして梨子との運命の出会いを果たしたわけだ。
「漸く逢えたね、梨子」
ふむ、背丈が高いから和服を着れば一層見栄えが良くなりそうな少女だ。髪も長くてストレートで美しい。綺麗な標準語を使い、その居住まいから日本古来より伝わる大和撫子の名を冠するに相応しい。
浦の星女学院には「ピアノが引けなくなったから違う景色を見て再起する切っ掛けを掴めたら――」という理由で来たらしい。彼女はピアニストで作曲が出来るのだ。そこに目を付けたガイジオブガイジの千歌。本人は何度も「ごめんなさい」と拒否しているのに、しつこくスクールアイドルなってほしいと懇願しにくる。流石の僕もこれには腹が立った。
「やめなさい。梨子ちゃんが嫌がっているだろ!」
淑女な梨子をこれ以上無理矢理引っ張ることはこの僕が許さない。
そんなちっぽけな正義感など関係なく、梨子は千歌に籠絡されスクールアイドルにさせられてしまった……
ピアノ一筋の道を歩めたかもしれないだけに複雑な気分だ。
千歌をこき下ろしたことで罪悪感が湧くかと思ったがそんなことは全く無かった。寧ろ清々しい気持ちで一杯である。
さてここで千歌の友人である曜を紹介しておかなくてはいけない。
彼女は割とすぐにメンバー入りするのだが、水泳部と掛け持ちということになっている。ぐうたらの千歌と違い、要領が良く、何をやっても卒なくこなす美少女の鏡というやつだ。運動神経も良い上に皆からも慕われている。ある意味真の主役と言えるだろう。どうして曜がメインヒロインにならなかったのか小一時間問い詰めたい。いや今からでも遅くはないから彼女をセンターに入れるんだ。
銀髪の癖毛がチャームポイントで口癖は「ヨーソロー」
「ヨーソローってなんだ? 全速前進するのか? 君は海を渡ってどこかへ旅立ちたいのかい?」
お決まりの台詞を聞く度、いつもそういう妄想を脳内で繰り広げてしまう。
活気に於いては千歌に負けずとも劣らないが曜の元気の源は千歌であると断言してもいい。千歌が突っ走っているから曜も溌剌としていられる。つまり、千歌がいなければ曜はパワーダウンして違った一面が見られる。素晴らしいじゃないか、早く見せてくれ。
「ひっしーさんが好きなのはりこちゃんだな」
これが事の発端だった。
"ラブライブ!サンシャイン!!"に対する知識がほぼ0に等しい僕は密かに楽しみにしていた。とにかく見てみないことには話が始まらないので早速試聴を開始する。
最初に注目を浴び、その存在感をありありと示してくるのが高海千歌。典型的な元気キャラでいかにもムードメーカーといった感じだ。
怖いもの知らずで我が強く自分が決めたことには一直線の強さが感じられる。
そんな彼女が「スクールアイドルをやりたい!」と言い出し、周囲の人達を巻き込んでいく。千歌の言葉には人の意志を変えるだけのパワーがあって感化されたキャラも多い。μ’sで言う所の高坂穂乃果ポジションそっくりである。髪の色も橙色で見た目も似ている。穂乃果より幼さを感じるのは髪の長さが短いからだろうか。
しかしどうも僕はこういうキャラが苦手で好きになれない。女性とは淑やかでなければいけないというのが持論である。
因みにこれはすぐさま翻すことになるので聞き流してもらって構わない。ギャーギャー喚き立てるのは勘弁願いたいという旨を伝えたかった。単純に見た目が好みじゃないというのも勿論あるが。付け加えると多少強引なのが頂けない。僕としてはそれとなくアイドルやりませんか? と問いを仄めかしつつ、相手の意志を尊重した上でやりたいと言ってきた場合、メンバーとして迎えるのが理想的なのだ。
そういった諸々の要素を考慮した上で高海千歌は僕の好みから最遠にいると言えるだろう。