■シナリオ 私立探偵を生業としている大十字九郎は今日も今日とて街の教会にただ飯をせびりにいっていた
仕事の依頼が入るタイミングに斑があって収入が安定しない探偵業、しかも知名度が低ければ尚更である
教会の修道女であるライカ・クルセイドはそんな九郎に呆れ果てながらも相手にしてくれる
最早日常となりつつある光景だった
大学に通っていた時期もあったがとある出来事に遭遇してから退学することになった
アーカムシティ
一際賑やかで眠らない街
一夜にして巨万の富を得るものもいれば、財産の全てを失うものもある
科学技術が発達した街は人々の生活水準を飛躍的に上昇させた
間違いなく世界の中心となるアーカムシティだが問題事も尽きない
近頃危ぶまれているのが治安の悪化である
中でも『ブラックロッジ』呼ばれる集団が猛威を振るっていた
大黄金時代にして大混乱時代にして大暗黒時代の三拍子揃っているのがアーカムシティ
激動する街中に生きつつも、九郎の心は索漠としていた
そこへ珍しく二人の客が訪れた
一人は長身痩躯の執事、をウィンフィールド
もう一人は深窓の令嬢という言葉が相応しい、覇道瑠璃
両者とも古びた探偵事務所には不釣り合いな佇まいであった
それもそのはず、覇道と言えば世界に名を轟かせている大財閥だ
嘗て覇道鋼造と呼ばれたその人は瑠璃の祖父でアーカムシティの大改革を行った人物である
その関係者が来訪してきたのだから驚愕するのも無理はない
瑠璃は九郎にある"魔導書"を探して欲しいと依頼してきた
「魔導書如きをどうしてまた自分なんかに・・・」と思ったが同時に虫の知らせのようなものを感じた
予感は的中し、先方は九郎の公にしたくない学歴を調べ上げていた
ミスカトニック大学を2年で中退し、名目上は考古学を専攻していることになっていたが本当は『陰秘学』を学んでいた
隠秘学、それ即ち魔術理論に通ずる学問である
魔導書を探すには魔術を知るものでなければいけない
二人にとって九郎は適任だった
魔術書を探している理由を聞くと、ブラックロッジに対抗するためだと言う
鋼造の遺産であるデモンベインを動かすためには魔術書が不可欠
魔術の深淵に触れた九郎は乗り気ではなかったが積まれた札束を見て俄然やる気になってしまったのだった
魔術書を探すと言っても手掛かりらしきものは何一つない
街のあらゆる場所を回ってみたが端緒となるもの見つけられなかった
今日はこれで最後にしようと古書店へ入ったところ背後から声を掛けられる
ナイアと名乗った婀娜な女性は九郎が何を探しているか見透かしたように魔導書と口にした
一気に警戒の色が強くなったが敵意はないようで手助けをしたそうに言葉を紡ぐ
彼女に魔導書を見繕って貰うのが手っ取り早いと思ったので乞うたが奥歯に物が挟まる言い回しで断られた
九郎に合う魔導書はここにないらしい
ただ「君にはもっと相応しい魔導書があるはずだ」と言う
神をも招喚出来る最高位の魔導書、それこそが九郎に打って付けであると
ナイアが一人で盛り上がってしまったので退散することにした
別れ際に「死霊秘宝(ネクロノミコン)を手にするかもしれない」という予言めいた言葉を残していくのだった・・・
これといった収穫もなく帰路に着く道すがら頭部に激しい衝撃
状況を確認すると華奢な娘が自分の上に乗っかっている
加害者であるにも拘わらず倨傲な態度
少女を退けようとしていると車がやってきて、中から覆面の男達がわらわらと出てくる
連中の容姿を見てブラックロッジだとすぐに分かった
マシンガンをぶら下げていることから戦闘準備は万端であると思われる
弾丸が放たれた瞬間、少女は魔法防壁を展開し銃弾を全て無効化した
今のは紛うことなき魔術であったが様子がおかしい
苦痛を感じているように横たわってしまう
そうこうしているうちにさらなる闖入者が登場
自らをドクター・ウェストと名乗り、のべつ幕なしに喋りまくる
相手にするのも面倒なので黙殺していたら、奇天烈なギターケースを取り出してその中からロケット弾を発射してきた
直撃すれば唯では済まないので少女を抱えて逃走する
距離を置いたところで少女が目を覚まし、九郎に現況確認をする
助けてくれたことに感謝し、魔術師であることも見抜いた
少女に言わせれば九郎は資質に優れた魔術師なのだという
もう少し詳細な話を聞きたいと思っていたところでウェストが追い付いてくる
覆面男達に包囲さの状況、少女は落ち着き払った物言いで九郎に名を尋ねる
名前を知ったところでどうにかなるとも思えないが、半ば諦め気味に己の名を告げた
すると少女は九郎に近寄り口付けをして契約をした
周囲に閃光が迸る
「大十字九郎。我が名をしかと心に刻み込め。我が名は『アル・アジフ』! アヴドゥル・アルハザードによって記された、世界最強の魔導書なり!」
――久遠に臥したるもの死することなく
That is not dead which can eternal lie.
怪異なる永劫の内には死すら終焉を迎えん――
And with strange aeons even death may die.
光が収束した後、九郎の格好は異人になっていた
黒いボディースーツに身を包み、外陰を纏っている
よく見ると魔導文字がびっしりと浮かんでいる
魔導書で作られたマントだった
アル・アジフは消えていて呼びかけると肩に縮小された姿の彼女が現れた
小さくなった分、九郎の魔術が爆発的に増大している
すかさず覆面男達が銃弾の嵐を浴びせてくるがマントで身を包み、全て弾き落とす
痺れを切らしたウェストが先程のロケット弾を打ち込んでくるがアル・アジフの助言通りに魔力を集中させると掴むことが出来た
それをお返しとばかりにウェストに投げ付ける
轟音と共に敵を一掃し、その場を凌ぐことが出来た
戦闘後、アル・アジフは正体を詳らかに九郎に伝えた
かの死霊秘宝のオリジナルは目の前にいる少女である
本が人型をとるのが不可解だが最強の魔導書ともなれば意志を持つのは当然のことらしい
そして契約は一過性のものと思っていたがアル・アジフは九郎を波長の合う魔術師として気に入ったらしく、当座の協力者としたようだ
こうして二人は合縁奇縁と言える出会い方をした
一段落したかと思われたがそうではなかった
辺りに地響きが鳴り渡り、建物の影から巨大なロボットが出現した
その威容を見せつけるかのように所構わず破壊の限りを尽くす
搭乗者は今し方戦っていたウェスト
生身では分が悪いと思ってか破壊ロボを駆って出てきたのである
狙いは勿論九郎とアル・アジフ
幾ら魔術師であろうと大きさも威力も段違いな破壊ロボを相手にするのは厳しい
脇目も振らずに遁走するが、先回りされ再び窮地に陥る
爆音を立てながら迫り来るドリルに粉砕されそうになる刹那、驚くべきスピードで九郎を抱き抱えて飛翔する者がいた
彼の者こそアーカムシティの守護天使メタトロン
治安警察がブラックロッジに対抗出来ない状態になると颯爽と現れ、街の平和維持活動に努める正義の味方
今やこの街でメタトロンを知らない者はいない
白仮面に白装束のスーツを身に纏った姿はどこか天使を彷彿とさせる
メタトロンは九郎達を下ろし、敢然と破壊ロボに立ち向かう
魔術刻印が施された右腕に眩い光が収斂していき、完了後に一筋の光線を放った
ビームは見事破壊ロボに命中
巨体が傾いだ隙に九郎とアル・アジフはその場をメタトロンに任せて破壊ロボから離れる
自分の何倍もある大きさの破壊ロボを翻弄するかのように立ち回るメタトロン
ウェストは小さな勇者に手玉に取られ敗北は濃厚と見えた
止めを刺すために振り下ろした十字・断罪(スラッシュクロス)
破壊ロボに決まれば確実に倒せていたが届かなかった
寸前で難なく受け止める乱入者が現れたからだ
メタトロンとは対照的な漆黒の仮面に漆黒のスーツ
面識があることから二人の間には宿縁のようなものが感じられた
サンダルフォンと呼ばれた暗黒の戦士
ウェストは割り込まれた事が不服だったようで文句を垂れたが彼は意に介さなかった
サンダルフォンはメタトロンの相手を引き受け、ウェストには九郎達を追えと指示を出した
憤慨するウェストだったが大導師という単語を出されると大人しく従った
メタトロンは離脱しようとするウェストを制止しようとするがサンダルフォンがそれを許してくれない
どうあっても戦うつもりでいるようなのでウェストの追跡は諦め、眼前の敵に集中することにした
絶対的優勢を確信してか歓天喜地の表情で追い掛けてくるウェスト
只管逃げに徹する九郎
破壊ロボから発射されたミサイルの雨を回避することに専念していたら、ミサイルによって地面に穴が開いて地底に真っ逆さま
体を強かに打ち付け痛みに耐えながら周りを見渡す
不思議なまでに手入れが行き届いており、人工的な地下道のように思えた
通路を発見したので奥へと進んでみる
突き当りの格納庫みたいな場所に到着して喫驚する
そこには巨大な鉄の塊がどっかと居座っていたのだ
アル・アジフはこれを知っているらしく、鬼械神(デウス・マキナ)と呼んでいる
彼女は過去にアイオーンという鬼械神を所持していたが破壊されてしまっていた
魔術師は魔導書を媒介にすることで鬼械神を操る事が出来るのだという
鬼械神は魔術で作られた神々で魔術回路が内部に埋め込まれている
アル・アジフはさも当然とばかりに九郎を連れて乗り込もうとする
これを駆って破壊ロボと戦おうとする気でいる彼女に異議を申し立てていたが、突如鬼械神の目の部分が光った
向こうも九郎を適合者と認めたようだ
戦う気など無かったが、胸に心地良い熱さを感じていた
「識を伝え術式を編む我。魔物の咆哮たる我。死を越ゆる、あらゆる写本の原本たる我、『アル・アジフ』の名に於いて問う。鋼鉄を鎧い刃金を纏いし神。人の造りし神。鬼械の神よ。汝は何者ぞ」
アル・アジフの詠唱でみるみる光輝を帯びていく鬼械神
光と一緒に九郎の体が粒子化して溶けていく
意識はある一方向に持って行かれた
I'm innocent rage.
I'm innocent hatred.
I'm innocent sword.
I'm DEMONBANE.
気が付けば発光する文字が網膜に焼き付いていた
鬼械神の名称はデモンベイン
瑠璃が言っていた祖父の形見であるデモンベインとはこれのことだったのだ
「汝は、憎悪に燃える空より生まれ落ちた涙。
汝は、流された血を舐める炎に宿りし、正しき怒り。
汝は、無垢なる刃。
汝は、『魔を断つ者』」
二人はデモンベインの内部に転送されていた
ブラックロッジと戦う手段が他にない以上、出撃するしかない
淡々と話を進めるアル・アジフに意見しながらも発進した
線路の先には魔術装置があり、ここで座標を入力すれば任意の場所に転送されるようになっている
敵の近くに出現出来るように打ち込み、準備完了
デモンベインの初陣が始まる
破壊ロボが暴れていることは瑠璃の耳にも入っていた
すぐさま覇道邸の地下にある司令室に移動する
華やかな衣装を脱ぎ捨て運動性の良い制服で着座した
彼女の雰囲気は普段とは明らかに異なっている
悪を目にした際に見せる戦いの顔になっていた
虚数展開カタパルトが起動していることから誰かがデモンベインを動かしていることがわかる
精細な情報を把握する前にデモンベインが偏在化を始めた
その後デモンベインは事象固定化し実空間に現出した
空高く放り出され慌てふためく九郎
この高さを利用しない手はないとばかりに破壊ロボに飛び掛かる
全長80mもある鉄塊が軽々と吹き飛んだ
強烈な一撃が致命的となったり破壊ロボは大損壊
ウェストは自棄になってあらゆる武装を取り出してデモンベインを攻撃してくる
幸い、予想していたよりも遥かに頑丈な装甲の御蔭で無事であった
次なる攻撃を繰り出したいデモンベインであったが所持武装が全く分からない
アル・アジフは通信機能を使って司令室に直接繋いだ
武装について知っているであろう瑠璃に攻撃呪法を聞き出そうとするが、勝手にデモンベインを持ち出して起動させていることに立腹していた
初対面なのに横柄な態度のアル・アジフに苛つきながらも火急の事態であることに変わりはない
オペレーターが検索した結果、第一近接昇華呪法『レムリア・インパクト』が引っ掛かる
だがこの技は絶大な威力を持つため、使用の際には二重のロックを解除しなければならない
使用者と司令である瑠璃の承認が必要なのである
「ヒラニプラ・システム起動。言霊を暗号化。ナアカル・コードを構成せよ」
四の五の言っていても詮無いこと
瑠璃は覚悟を決めた
デモンベインに送信されてきた言霊を九郎が発声する
「光差す場所に、汝ら暗黒、住まう場所無し!渇かず、飢えず、無に還れ!レムリア・インパクト!」
「昇華!」
破壊ロボは跡形も無く昇滅した
純然たる威力の前に誰もが息を呑んだ
メタトロンと交戦していたサンダルフォンも戦慄する
大導師からウェストの失敗を告げられサンダルフォンは撤退した
ブラックロッジと戦う術を手に入れた大十字九郎
アル・アジフ、デモンベインとの出会いが彼を運命の歯車へと誘うのだった
一部始終をアーカムシティ上空で見守る少年がいた
名をマスターテリオン
金色の髪と瞳、口元には微笑を湛えてこれから起こる輪舞曲を楽しみにしているようだった
戦いが終わり、デモンベインが格納庫に戻される
降りてから九郎は瑠璃をはじめとする面々から質問攻めに遭った
返答に窮したのでアル・アジフを提出した
しかし皆は狐につままれたような顔をしている
至極当たり前の反応なのかもしれない
このか弱そうな少女が魔導書であることの理解が追い付かないのである
気付かない人間の愚かさに不機嫌になったアル・アジフは体の一部を紙に変換しぱらぱらと捲って見せた
最高位の魔導書ともなると必ずしも本の形態を取る必要はない
人の形を作るのも造作無いのだ
アル・アジフの高慢ちきな言い様がどうしても気に食わない瑠璃は食って掛かる
出会って早々犬猿の仲となってしまった
デモンベインの所有権は瑠璃にあるが動かせるのは九郎とアル・アジフである
故にアル・アジフは自分の物であると主張するが瑠璃は断固として拒否
終いには「もっとまともな魔導書を見つけて下さいまし」と言ってきた
どちらも迎合するつもりはく、このままではいつまでたっても罵り合いにしかならない
今宵は別れることとなった
契約した以上、九郎の家に居付くことになったアル・アジフ
突然真剣な顔になったかと思うと自らの目的について語り始めた
彼女が相手にしようとしているのは世界の敵である
アブドゥル・アルハザードがアル・アジフを書き記したのは外なる世界からやってきてこの世界を侵略せんとする邪神達の脅威を人類に伝えるため
魔術師の器であると判断したのならば力を貸し、共に外道を討ち滅ぼす
アル・アジフの存在意義はそこにある
昔日の戦いで鬼械神アイオーンと自分自身の頁の何割かを失っている今の彼女は本調子ではない様子
それはアル・アジフの力を使って動いてるデモンベインも同じこと
何れ訪れるであろう強敵との戦いに備えるためにも、当面の目標は頁集めである
言いたいことを一通り言うと眠りについた
――夢幻心母
ウェストはアウグストゥスからアル・アジフを確保出来なかった事の叱責を受けていた
皮肉がたっぷり含まれた言動は慇懃無礼を感じさせる
負けじと反論していたがマスターテリオンは今回の件を咎めるつもりは無いと言っている
ウェストを下がらせてからサンダルフォンと此度の事について話しているとナイアがどこからともなく現れた
アウグストゥスとサンダルフォンが身構えるがマスターテリオンが知人であることを告げると警戒を解いた
ナイアは九郎とアル・アジフにお膳立てをしてきたことを報告する
それを聞くなり愉悦に歪んだ表情を見せ、マスターテリオンは王座を立った
大導師自らの出陣である
翌日、九郎とアル・アジフは街へ繰り出した
アル・アジフの目的は頁の回収だが九郎の目的は違った
貴重な顧客である瑠璃の命により、新しい魔導書探しを行っていた
前に訪れたナイアの店へ行ってみたがそこには何もなかった
魔術書なんて代物を簡単に見つけられるはずもなく気が付けば日が暮れていた
文無しなのでまたもや教会へ飯を強請りに行く
ついでにライカや孤児の子供達にアル・アジフを紹介する
束の間の円居は悪寒によって遮られた
そいつは絶望を引き連れやってきた
教会の入り口に金色の闇は人でありながら人外を思わせる
徒ならぬ気配を感じたライカが子供達を守ろうと前に立つ
アル・アジフが急いで警告したが遅かった
少年の体から魔力が爆発し、ライカは簡単に吹き飛ばされてしまう
恐怖に竦む体を何とか動かし相対する九郎
「余はマスターテリオン。魔術の真理を求道する者なり」
大いなる獣、聖書の獣、七頭十角の獣
ブラックロッジの首領にしてアル・アジフの敵
そいつが直々にやってきたのだ
発射された光弾をマギウス・スタイルに変身することでぎりぎり躱した
マスターテリオンはアル・アジフが新しく選んだ術者を見たくてやってきた
ライカを攻撃したことに激怒した九郎は目にも留まらぬスピードで近付き殴り飛ばす
防禦陣を打ち砕くことは出来たが直接的なダメージを与えることは出来なかった
綽然としているマスターテリオンに感情の赴くまま攻め続ける
彼は呆れたように九郎の鳩尾にそっと手を置く
たったそれだけで九郎の体に莫大な衝撃がかかる
地面に激突し、血反吐を撒き散らしながら悶絶する
マスターテリオンは九郎の実力に失望し、鬼械神を呼べと言ってきた
今の九郎では彼に到底敵わない
生身で鬼械神を相手にすると豪語出来るほどに差があった
アル・アジフの指示通りデモンベインを招喚する
人と鬼械神では流石に戦力差がありすぎるのではないか?と逡巡していた九郎であったが、マスターテリオンの一撃を食らってすぐにその考えを改めさせられる
彼はデモンベインの顎の部分に強烈なアッパーを見舞う
易易と宙に浮くデモンベイン
落下の衝撃を和らげるために防禦陣を展開
地面に衝突したと同時に追い打ちの光弾が飛来してくる
頭部バルカンで反撃するが彼は剣のような十字架を生成し往なす
バルカンの弾が尽きたところでマスターテリオンが怒りを露わにした
見込み違いと感じた彼は重力結界でデモンベインを圧潰させようとする
そこでふと余興を思いついたように光弾を生み出す
矛先はデモンベインではなく教会
当たるか当たらないかの位置を狙って着弾させた
九郎の力を引き出させるには直接攻撃するより大切な者を狙ったほうが効率的であると考えた
思惑は的中したようで九郎の中に闘志が漲ってくる
卑劣なやり方に憤怒しつつも、頭は冷静だった
結界の術式を読み取り、解呪(ディスペル)する
束縛から解放されたデモンベインを動かしてマスターテリオンに突撃する
必殺の右手を繰り出したが俄に顕現した紅い掌によって遮られてしまう
その前方に小さな闇が見える
「見事だ。よくぞ余に魔導書を使わせた!紹介しよう・・・我が魔導書『ナコト写本』」
闇黒の正体は少女だった
黒曜石のような瞳に黒のドレス
エセルドレーダと呼ばれた少女は返礼としてデモンベインの拳を掴んでいる左手に力を込める
「ABRAHADABRA」
術の掛け声が終わると大爆発した
煌めく光が世界全体を覆った
一方、デモンベインが出撃したことはしっかり司令室に伝わっていた
独断で使用されていることに腹を立てる瑠璃
九郎がコックピットに居ずともデモンベインが起動していた
アル・アジフは膨大な演算処理を行って虚数展開カタパルトを意のままに操り、デモンベインを格納庫から空間転移させたのだ
こうなってはアル・アジフの所有物と変わりない
不愉快なのは無断で運用した挙句、敗北を喫したことである
敵の正体を把捉出来ていないので直接九郎に会って聞く事にした
デモンベインは仰向けに倒れていた
完全なる敗北、これが今の九郎とアル・アジフの限界だった
本当にブラックロッジと戦うのは自分で良かったのだろうか?
他に優れた適任者がいるんじゃなかろうか?
逃げ腰になる思考、放棄したくなる使命
弱気になる九郎を叱咤するアル・アジフ
最強の魔導書と波長が合い、魔術の邪悪に染まってない人間は九郎しかいない
それに他の術者を選り好みしている時間などはない
これからあんな怪物を相手にしなければいけないと思うと遣る瀬無い
だがあれをのさばらしておけば甚大な被害が出ることは自明の理
どうしようもない悔しさは絶叫となった
マスターテリオンが夢幻心母に帰還するとアウグストゥスが恭しく出迎えた
彼にはデモンベインの力を観察させていた
抜け目のないアウグストゥスはどうしてあの場でアル・アジフを奪取しなかったのか問うた
今のアル・アジフは頁が欠損しているから回収しても意味はないとエセルドレーダが回答
アル・アジフの断片には気を配るようにし、可能であれば先回りして回収することを表明
寝室の手前まで来たところでナイアがマスターテリオンの傷を見て微笑んだ
九郎の渾身の一撃はエセルドレーダが防いでいたが魔力の余波が防禦陣を貫通してマスターテリオンの脇腹にまで届いていた
滴る血を見ながら痛む素振りは見せない
寧ろ手傷を負わせた事を称賛するように悦喜していた
マスターテリオンに吹き飛ばされたライカは命に別状は無かった
自分の身に起きたことから九郎が何か危ないことに首を突っ込んでいるのではないかと心配してくれた
ジョージ、アリスン、コリンの三人に彼女を任せて礼拝堂を後にした
九郎を待ち構えていたのは瑠璃とウィンフィールド
言うまでもなくデモンベインの無許可使用についてである
小言を聞いていたアル・アジフはいちいち使う度に伺い立てなければいけないのか、と反撥したが瑠璃は無視した
九郎は素直に非を認めた
マスターテリオンが相手だったのにデモンベインを出さない理由はないと尚も抗弁するアル・アジフ
マスターテリオンと聞いて二人は驚いた
気の毒そうな顔をしてはくれたが負けたということはあのネクロノミコンでさえブラックロッジは荷が重いということだ
瑠璃はそれを反論材料とした
加えて九郎の魔導書探しの契約を現時刻を以って打ち切ると伝えた
そして今後一切デモンベインに触れることを許さないとも言った
これから強くなろうと決めた矢先にデモンベインを使用権限を失うのは痛い
用件だけ話すと瑠璃はウィンフィールドを引き連れて去っていった
本当は瑠璃にもわかっていた
デモンベインが今まで如何なる手段を用いても起動しなかったのにあの二人は見事に動かした
そのうえ戦ってみせた
彼らは疑いようもなく英雄に近い位置にいる
道理はわかっていても心が許してくれないのだ
祖父の遺品であるデモンベインを他人が行使することも敗北することも耐え難いことだった
瑠璃を見送った後、九郎は帰途にて一大決心をする
ブラックロッジの悪事を身を以て体験した九郎は正義感に目覚めていた
アル・アジフとの契約は行き掛かりのものだと思っていたが考えを改め、自ら望んで主になると決めた
そしてブラックロッジを完膚無きまでに叩き潰すことを決意したのだった
英雄とは生まれ落ちたその瞬間から、英雄たる宿命を背負い生きるものなのだろうか
英雄としてう生まれ、英雄として育ち、英雄である事に疑いを持たず、英雄として当たり前に振る舞い、英雄の偉業を当たり前に成し遂げるのだろうか
否、である
英雄が英雄たる資質は生まれ持った宿業
されど、英雄を英雄足らしめるのはその行いであり、世界の記憶に刻んだ結果である
その行いを決意するのは、英雄の誓いである
英雄が正義足らんと自らに誓う時、英雄は初めて英雄の道を往く
それは吹き荒む鉄風雷火の嵐
血を流し、血を吐き、血に浸かりながら進む道
だが、その凄絶な道を選択する瞬間に
それを決意する理由に
英雄は必ず巡り逢う
――彼、大十字九郎もまた巡り逢った
ウェストはアウグストゥスから散ったアル・アジフの断片を回収せよという命令を受けていた
デモンベインへの雪辱を果たしたかったが例によって大導師からの通達なので不本意ながら従った
魔導書の探索をウェストの任せていいものかと懸念していたアウグストゥスはマスターテリオンに7つの頭を使った方がいいのではと献言した
そうなると今度は容易になってしまう
マスターテリオンは新しい玩具を見つけたから楽しみたいのだ
頭達には"C計画"の準備を進めて貰うことにしていた
その言葉を聞いてアウグストゥスは慄然する
計画の実行は近い
魔術師とは『字祷子(アザトース)』を観測し、収束し、演算し、構成するものである
九郎が強くなるためには世界の法則を識る必要があった
知識だけを高めればいいだけではなく、霊的な位階を上げることも必要
アル・アジフの講義を聞き終えてから鍛錬に入る
ミスカトニック大学の本校舎、『時計塔』の屋上に二人はいる
生と死の極限に陥ることで強制的に覚醒状態を作りだそうというのだ
アル・アジフは体の一部を頁にして夢魔の一種であるナイトゴーントを模したものを創り上げる
ナイトゴーントは即座に九郎を攻撃してきた
躱すことには成功したが着地地点に足場はない
時計塔の頂上から真っ逆さまに落下していく九郎
アル・アジフも飛び降りて追い付いたところでマギウス・スタイルに変身
地面擦れ擦れのところで術式を編み上げ黒翼を錬成
重力に逆らって上昇する
安堵する暇もなくナイトゴーントが襲い掛かってくる
ビルのオフィスで格闘戦を繰り広げた後、勢いが乗った拳を受け九郎は転落
今度こそアスファルトに体を叩きつけ意識を失った
アル・アジフに水を掛けられて起こされる
今日の実戦はここまでということで事務所に帰った
アル・アジフの頁が欠けているので九郎の魔術能力にも制限が掛っている
失った頁を探す足掛かりは怪異
魔術的な力が頁に宿っている以上、何らかの現象が確認はず
それを追っていけば何れ欠片に出会える
修行は苛烈を極め、様々な特訓を受けた
恒例となった訓練中にナイトゴーントが暴走
今までとは違う力を発揮して九郎を追い詰める
手に負えないと悟った時、ナイトゴーントが真っ二つに両断された
遠目で九郎達の修練を観察していたメタトロンが助太刀に来てくれたのだ
ところが様子がおかしい
次の瞬間、九郎の顔面を鷲掴みにし猛スピードでビルの壁面に打ち付けた
メタトロンがどうしてこんなことをするのかわからない
正義のヒーローではなかったのか?
「ネクロノミコンを手離せ」
冷酷な声でそう告げた
メタトロンが自分達を攻撃する理由を探しかねていると街の一角を顎で指した
マスターテリオンと戦った場所である
メタトロンは九郎がデモンベインを駆ることで街に被害が出ることを批難していた
マスターテリオンと戦ったのだからある程度の損壊は仕方がない
無害で切り抜けられる相手ではなかったとアル・アジフは反駁
だが次に破壊ロボと戦った場所を指されて二人とも黙るしかなかった
レムリア・インパクトが放たれた一区画は丸ごとクレーターになっていた
避難勧告が出ていたから住民には危害が及ばなかったものの、こんな事が続けばいつか九郎がアーカムシティを灰燼に帰してしまうのではないかと危惧している
たとえそうなったとしても戦わなければいけない
ブラックロッジは絶対悪だ
あれを放置して生きていくなんて事はできない
自分の意志をしっかり伝え終えるとメタトロンは九郎を敵と認識して飛び去っていった
正義の味方に敵として見られるのは正直応えるものがあった
メタトロンの言うことは正しいのかもしれない
しかしアル・アジフはマスターテリオンを斃せるのは九郎と自分を於いて他に居ないと言う
可及的速やかに魔術師として覚醒する必要があった
出し抜けに男の悲鳴
アル・アジフは断片の気配を感じすぐさま九郎と声がした方向へマギウス・スタイルで向かう
路地には蜘蛛の巣が張り巡らされていた
男は蜘蛛の巣に捕まっていて身動き一つ取れない
かかった獲物を捕食しようとする蜘蛛女がいた
九郎達の姿を目視すると跳躍して襲い掛かってくる
よく見ると体に紙片らしきものが見られる
アル・アジフと同じように人の思念が実体化した存在のようだ
蜘蛛の力である『アトラック=ナチャ』に関する記述が形を結んでいた
頁として回収するには拘束してアル・アジフが術式介入するだけの時間を稼がなければいけない
多少痛めつけても構わないと言われたが痛めつけられているのは九郎の方で一度糸に使ってしまえば為す術がなく、そのまま繭にされ糸が首に食い込み意識が途切れた
繭にしてどこかへ持って行こうとするアトラック=ナチャ
捕獲した男には興味が失せたようで無視して退いていった
九郎が持ち去られた後、アル・アジフは人のサイズの大きさに戻った
マギウス・スタイルでいる間は縮小されているため、繭の隙間から零れ落ちたのだ
捕縛されている男を解放してからアトラック=ナチャの足取りを追った
九郎目覚めると辺り一体蜘蛛の巣が張り巡らされた場所にいた
自分以外にも捕まった人達が居た
アトラック=ナチャは直接的な危害は食わず淫行を楽しんでいた
九郎が起きていることを気付くと寄って来て嬲り始める
暫くしてアル・アジフが駆け付け魔術の衝撃波でアトラック=ナチャを横殴りにする
邪魔されたことが癪に障ったのかアトラック=ナチャは変貌する
人間形態だった頃の面影はなくなり、文字通りの蜘蛛に似た異形となった
素早くマギウス・スタイルへと移行
飛行能力が無いと予想し、屋外へ飛んだが糸を飛ばし絡め取られてしまう
縛したのを確認してから巣を伝いやってきて鋭利な腕を振りかざす
やられると思った瞬刻、九郎の脳裏に術式が浮かぶ
僅かな時間で構築、アトラック=ナチャの腕を切断した
九郎の黒翼は剃刀のように鋭くなっていた
名付けてマギウス・ウィング
ナイトゴーントとの戦いの日々は無駄ではなかったのだ
アトラック=ナチャは逃げようとしていたがすぐに追いつく
後少し、というところで妨害が入った
出来ればもう関わり合いたくなかったドクター・ウェストが再度現れたのだ
覆面男達もおまけで随伴している
ロケット弾と銃弾を凌ぎながらウェスト達は放置してアトラック=ナチャを追う
覚えたてのマギウス・ウィングを自在に使っているのを見てアル・アジフは九郎が実戦派であることを見抜く
どこまでもしつこいウェストは懲りずに破壊ロボを出してきた
メイン武器がドリルになっている
九郎達目掛けてドリルが迫ってきた
地面が陥没し衝撃で体が宙に浮いた
幸か不幸か、丁度落下するところにアトラック=ナチャの姿を捉えた
アル・アジフの言う通りに翼を広げる
両翼を本の形にし、アトラック=ナチャを中心に置いて挟み込んだ
アトラック=ナチャは押し潰され頁へと変換されていく
これにて断片の回収終了
後は眼前にいるマッドサイエンティストをどうするかである
悩んでいる暇はない
あれを打ち負かせるのはデモンベインだけである
瑠璃の言い付けは正義の前に砕け散った
招喚陣が描かれる
「憎悪の空より来たりて、正しき怒りを胸に、
我等は魔を断つ剣を執る!
汝、無垢なる刃――デモンベイン!」
3度目の招喚
瑠璃は不快そうにしていた落ち着いていた
結局のところデモンベインの主導権は九郎達にあるので指をくわえて見ていることしか出来ないのだ
住民への被害が及ぶ事は避けなければいけないので10キロ圏内に避難命令を出した
メタトロンもまた九郎の戦いを見守っていた
彼が魔を討つ守護神なのか、呪われた破壊神なのか見極める必要があった
破壊ロボと向き合うデモンベイン
以前の破壊ロボとは違って鈍重ではない
足回りを改善したのかロケットダッシュ機能を搭載している
一瞬で間合いを詰めてドリルで攻撃
先手を取ったのはウェストだった
一旦距離を取りたいが怒涛の連続突きで抜け出せない
攻撃の間隙を縫ってドリルを避け、胴体に鉄拳を叩き込む
少し怯んだ隙にもう一発と思いきや、ドリルが赤熱しデモンベインを襲う
竜巻のように高空に打ち上げられ落下
大地に強かに叩きつけられる
前回での戦いでは破壊ロボを圧倒したデモンベインだったが改良を重ね格段に強くなっていた
現状、デモンベインの武装はバルカンとレムリア・インパクトのみ
兵装については瑠璃側から何も説明していないため、碌に使える武器がない
アル・アジフが大急ぎで技の索引を探しているが中々引っ掛からない
ウェストに新しい動きがあった
足の裏から火を吹き、空を飛んだのだ
高所から攻撃するかと思えばそうではなくそのまま頭を下に向け頭部ドリルで地面に潜る
デモンベインの真下まで潜行してロックオンしたところで地上に顔を出した
尖鋭なドリルがデモンベインの胸部を抉る
攻撃すると同時にすぐ地中に姿を消す
この戦法が今のデモンベインにとっては非常に有効で馬鹿の一つ覚えみたいに繰り返されても反撃の糸口を掴めない
何度も突き立てられるドリルにデモンベインの装甲は摩耗していく
扼腕して見ていることしか出来ない瑠璃は心底歯痒くてならなかった
破壊ロボの攻撃が止めとばかりにデモンベインの顎に狙いを定める
轟音と爆発が起こり、誰もが負けを認めた
けれどもデモンベインは無傷
会心の一撃のドリルは決まったが顎の辺りに五芒星が輝いている
九郎は土壇場で防禦結界を発動させ激甚なる一撃を防いでいた
特殊合金ヒヒイロカネでもあの攻撃には耐えられないはずだが魔術であれば話は別だ
ならばもう一度と、デモンベイン目掛けて強襲してくる
そこでアル・アジフが新たな武装を一つ検索完了する
即時発動したのは捕縛結界呪法『アトラック=ナチャ』
先刻、頁として入手したアトラック=ナチャを実用化
付近一帯を光の糸が駆け巡って破壊ロボを絡め取り動けなくする
元々はアイオーンの呪法兵装だったがデモンベインでも流用出来るように編纂したのだ
アル・アジフの断片を取り戻す毎にデモンベインはどんどん強くなる
破壊ロボを束縛したはいいが、かなり高い位置にいるので攻撃が届かない
どうしたものか、と悩んでいると瑠璃から通信が入る
"断鎖術式壱号ティマイオス""弐号クリティアス"
2つの武装を二人に伝えて速やかに通信を切った
九郎はまた叱られると思ったが今は目前の破壊ロボを処分することが先決と言われ向き直った
アル・アジフが検索を終了
早速実戦投入してみることにする
脚部のシールドに魔術文字が浮かぶ
ティマイオスとクリティアスには時間歪曲機構が備わっている
時間逆行、時間跳躍を極短い時間で繰り返すことによって重力変化を起こし、爆発的な推進力を得ることが出来る
足元でエネルギーが爆発して空高く跳躍した
直進してくるデモンベインをドリルで迎え撃つ破壊ロボ
直撃する角度だったが有り得ない軌道で避ける
重力を司るティマイオスとクリティアスは慣性を無視したような移動を可能とする
時空間歪曲エネルギーを『円』状に解放して遠心力を生成して脚を振り上げる
弧を描くように綺麗な回し蹴りを破壊ロボに食らわせ粉砕する
近接粉砕呪法『アトランティス・ストライク』の完成だ
戦闘が終わりメタトロンがデモンベインの近くまでやってくる
今回の戦闘結果を褒めてはくれたがまだ見定めている感があった
ウェストは爆散する直前に脱出していた
苦し紛れに撃ってきたロケット弾をメタトロンが庇ってくれた
ビーム砲で応戦してやると捨て台詞を残して撤退していく
九郎はメタトロンが自分達を戦わせたくないのかもしれないと考えていた
真意はわからぬまま飛び去ってしまった
破壊ロボとの戦いから一週間
九郎とアル・アジフは覇道邸に招待されていた
ウィンフィールドが出迎えに来てくれて瑠璃のいる部屋まで案内してくれた
本題は向後のデモンベインの扱いについてだった
冷や汗をかきながら彼女の発言を待つ
どうやら事ここに至って託す決意をしてくれたようだ
ブラックロッジの暴虐ぶりは日々酷くなってきている
意地を張っていても仕方ない
使用許可は得られたがあくまでデモンベインは覇道財閥のものであることを強調した
勝手な運用は控えるようにと釘を差した
その上で九郎達が頁集めをしていることを伝えるとそれを正式な依頼とし、報酬も出すと言ってくれた
操縦士と認められた九郎とアル・アジフはサポート機関である地下司令室に案内された
オペレーターのチアキ、マコト、ソーニャと顔合わせして自己紹介を済ます
あらかたの説明を受けて屋敷を辞去した
それから恒常化しつつあるライカへのただ飯喰らい
いつもの風景のはずだったがアリスンの様子がおかしい
ジョージ、コリンに混ざって遊ばずに九郎を見つめている
声を掛けると目線を逸らして逃げてしまった
内気なアリスンは口数も少ないので本心が掴めない
彼女は両親を失い、親族をたらい回しにされこの教会に来てライカに保護された
昔からアリスンの周りでは不幸な出来事が多発していて気疎がられていたのである
それは決して意図的に引き起こされたものではないが、人々は彼女の所為にした
だから人間を嫌い、信じることが出来なくなっていた
アリスンの弱みに付け込むようにナイアは現れた
小奇麗なコンパクトをアリスンに渡す
願いが叶う魔法の鏡と言われ覗き込む
彼女はもう鏡の虜となっていた
翌日、九郎はアリスンの異変に気付く
コンパクトを眺めているだけなのに怖気を催すのだ
気のせいかと思ったがそうではなかった
アリスンが大事にしているコンパクトをジョージとコリンが奪い巫山戯始めた
必死に取り返そうとするがキャッチボールの要領でコンパクトを投げて取らせない
あたふたするアリスンを見て二人は喜び、地面に叩き付けて割ろうとした
その時、鏡から閃光が放たれた
アル・アジフは逸早く断片の気配を感じ取った
アリスンを発見すると彼女の周りを珍妙な怪異が取り囲んでいる
卵が割れる音と同時に鏡から怪人が出現した
『ニトクリスの鏡』の記述であることが判明した
虚実の境界を曖昧にする鏡
アリスンの妄想したことが実体化して溢れ出していた
襲い来る変種を相手にしながら九郎は鏡を渡すように呼び掛ける
善意の手を差し伸べたつもりだったが逆効果で彼女は浮遊してどこかへ行ってしまった
他者を拒絶する心が鏡に反映され悪影響を及ぼしている
このままにしておくことは出来ない
ライカは傍にいたのにアリスンの傷心をわかってあげられなかったことに責任を感じて九郎に同伴した
マギウス・スタイルでライカを連れて飛翔する
無我夢中で飛び出してきてしまったアリスンだったが行く当てが無い
悲嘆に暮れていると喧しいバイクの音が近付いてくる
ギターをかき鳴らしてやってきたのはウェスト
アリスンが持っているコンパクトがアル・アジフの断片であることを嗅ぎ付けてやってきたのだ
意味不明な言動と鏡を渡すように催促されて精神的に圧迫されアリスンは壊れてしまう
次々と夢魔が鏡の中から溢れ出してくる
九郎は魔物を倒しつつアリスンに近付こうとするが不可視の衝撃波が放出され避けるのに手一杯である
ライカは危険を顧みずアリスンに近寄って行く
当たれば重傷は免れない衝撃波に斬り刻まれながらも進み続ける
アリスンの元に辿り着くとゆっくり抱き締めてあやした
緊張の糸が切れた彼女はライカの胸の中で泣いた
落ち着いたところで鏡を渡して貰おうとする
すると矢鱈騒々しい音が聞こえてくる
何度撃退しても懲りないウェストは新しい破壊ロボを引っ提げてやってきた
こうなるとこちらもデモンベインを招喚するしかなくなる
そこで異常に気付いた
アリスンが手に持っている鏡から夥しい光が拡散している
魔力の爆発が起こって吹き飛ばされたライカを抱き抱える九郎
光の卵に見えるそれは肥大化いき、巨大な生き物へと進化を遂げた
邪竜ジャバウォック
心の闇が生み出したドラゴンの頭にアリスンは乗っていた
調子に乗ったウェストが破壊ロボで挑むが灼熱のブレスを機体に浴びて熔解
呆気無く退散することとなった
ライカを安全な場所に退避させてデモンベインを顕在化
ジャバウォックはデモンベインを認知すると炎を吐いて攻撃してきた
倒すためには先にアリスンを救出しなければならない
アトラック=ナチャを使って捕縛に成功するが力任せに引き千切られてしまう
炎を吐きながら飛来するジャバウォックの攻撃を回避しきれずに押し倒されるデモンベイン
乱杭歯で噛み付かれ損傷する
マウントポジションで不利な体勢だったがメタトロンが救援に来てくれた
精確な光線で左目を射抜いた
アリスンを助けようと近くまで行って手を伸ばすが激しい衝撃波に滅多切りにされてしまう
トランプが舞い散り集合して人間の形を作り出した
女王ニトクリスである
精神異常をきたしていたアリスンはニトクリスを母と呼び、ジャバウォックを父と錯覚していた
ニトクリスは鏡に映った触手を実体化してメタトロンを貫いた
それが止めの一撃となり街に落ちていく
アリスンが頭部にいたから攻撃を控えていた九郎だったが堪忍袋の緒が切れたように猛攻撃を仕掛ける
ジャバウォックがあれだけ激しく動いてもアリスンが滑り落ちる様子はない
怒りのままに打擲を繰り返す
するとアリスンの胸中に恐怖が生まれた
彼女の思考を読み取るように九郎は優しく語りかける
今までアリスンがしたことのなかった人間付き合いの仕方をわかりやすく説いてあげた
自分を見つめ直し、改心したアリスンを受け止めようするがニトクリスが羽交い締めにして離さない
呪縛から逃れた彼女は彼らにとって裏切り者でしかない
そこで戦闘不能になっていたはずのメタトロンが飛んでくる
ビームでニトクリスの頭を貫いて奪回に成功
彼女さえ奪い返してしまえば遠慮する必要はない
レムリア・インパクトの承認を司令室に伝えて昇華させる
アリスンを連れて安全な場所に避難したメタトロンは満身創痍だった
折り悪く、ウェストの尻拭いにやってきたサンダルフォンと鉢合わせしてしまう
十全の状態でないのに勝ち目があるはずがない
そこへ九郎が加勢に駆け付けた
2対1となり、旗色が悪いと判断したサンダルフォンは高速で退去していった
一区切りついてからメタトロンは初めて九郎に感謝の言葉を述べた
今回の件はメタトロン一人ではどうにもならなかった
それでも九郎が戦うことを良しとはしない
九郎も退く気はないし、メタトロン一人に全てを背負わせるわけにはいかない
お互い、全幅の信頼を寄せられずとも共闘することは出来る
アリスンはメタトロンにお礼を言ってから別れた
コンパクトを回収後、手順を踏んでアル・アジフの体へ取り込む
これでまた強化された
教会に帰ったアリスンは九郎の教えを思い出しながらジョージ、コリンと新しい一歩を踏み出した
断片集めの日々は続く
ダウジング方式で探査していると反応があったので追ってみる
曲がり角を曲がった先で食事処から出てきたウェストと遭逢
九郎の姿を視認するや否や続々と出て来る覆面男達
往日の九郎ならともかく現在では話にならない
ウェストもそれを見越してか新しい手段を講じてきたようだ
何者かに瞬時に懐へ潜られ腹部に鈍痛
襲撃者に目を遣るとまだ幼い少女だった
人造人間『エルザ』、ウェスト曰く最高傑作らしい
機械化された体から動く度に駆動音が鳴る
少女に似合わぬ俊敏さと両手に持ったトンファーで肉薄してくる
打撃の応酬合戦に持ち込むものの、マギウス・ウィング状態ですら苦戦を強いられる相手だった
エルザと戦っている最中に唐突に飛来する物体
二人共反射的に避けたがブーメランのよう鮮やかな曲線を描いていた
気付けば巨大なビルを楽々切断していた
倒壊してくるビルから逃れ一時休戦
飛来物をアル・アジフが確認する
『バルザイの偃月刀』に関する断片とのこと
先程ダウジングに反応したのはこれだったらしい
九郎を敵と知覚したようで飛んでくる
建物を薙ぎ倒す破壊力があるため受け止めたり真っ向からぶつかるのは危険だった
回避するとビルがまた倒れてくる
わざとビルの下敷きになって精一杯の力で踏ん張る
自我を持っているバルザイの偃月刀は仕留めたか確認するために回転を止めて降下してくる
その隙を突いて柄を握る
掴んでいる間にアル・アジフが封印しようとするが邪魔が入った
退いたかと思っていたエルザが魔導兵器らしき大砲で九郎を狙い撃ちしてくる
まともに当たれば致命傷になりかねない
破滅の光が周辺を粉々にした
バルザイの偃月刀とエルザ両方を相手にするのは骨が折れるので退却
瑠璃に街の損害について叱られながら帰宅
その頃、ウェストは自分の研究所でご満悦だった
マギウス・スタイルと五角以上に戦えるエルザは誇るべき愛娘と言ってもいい
ところがそのエルザがどこにもいないことに気付く
機械人形として生まれた彼女は人の世を知るために街を練り歩いてデータ収集していた
生まれてから日が浅いのでまだまだ知らない事が多い
軟派目的でやってきた男達を赤子の手を捻るように蹴散らしていたら、治安警官に呼び止められる
銃を携帯しているのを見て攻撃意志があると勘違いしたのか銃火器で攻撃してしまう
バルザイの偃月刀を追い求めて再び街中へやってきた九郎とアル・アジフはやけに騒がしいことに気付く
ショーウィンドを観察している女の子に見覚えがあると思っているとこちらに向き直った
いきなりエルザと出くわしたので臨戦態勢に移ろうとするが彼女は「今日は自主休業」だと言って戦うつもりはないらしい
丁度渦中にいたエルザは警官達に取り囲まれる
九郎は厄介事に巻き込まれる前に彼女を担ぎ上げて逃げた
エルザは助けてくれた事に感謝しつつも、ウェストの命令である九郎の排除にを忠実に守っていて相反する思いを抱いていた
そこでバルザイの偃月刀の気配を感じたので急ぎ足で向かう
警官達に牙を剥いていたので敵意をこちらに向けさせる
成功したが自分を無視してバルザイの偃月刀と戦おうとしているのが不満なエルザも攻撃してくる
しかし敵味方の分別がないバルザイの偃月刀はエルザも平等に襲う
それならばと彼女も奥の手を使う
エルザの掛け声で彼方から棺桶が飛んで来る
中から取り出したのは先日、街を破壊した例の大砲だ
Dig Me No Grave
我、埋葬にあたわず
魔術理論を取り入れた大筒の威力は絶品
これにはバルザイの偃月刀もたまらず地面に突き刺さる
勝ち誇ったエルザだったが嫌な予感がしていた
油断していたエルザはバルザイの偃月刀が腹でビームを受け切っていたことに気付いていなかった
蓄積されたビームを反射させてエルザを狙撃する
九郎は間一髪で抱えて難を逃れる
またしてもエルザを助けてしまった
彼女の九郎に対する好感度は鰻登りだ
バルザイの偃月刀は逆回転で無理矢理軌道を変えて九郎に襲い掛かる
脇腹に重い一撃を食らったが刃ではなかったのが幸いした
次いで袈裟斬りを仕掛けてきたところを白刃取りで固定する
そのままありったけの魔力を両手に込めてバルザイの偃月刀を粉砕
辺りに散らばる紙切れをアル・アジフの体内に取り込む作業を行う間際になってウェストがやってくる
掃除機のようなもので断片を吸い取って強奪
そのついでに破壊ロボも招喚
だが今回の破壊ロボはいつものとは違っていた
デモンベインそっくりの紛い物である
通称「DEMONPAIN(デモン"ペ"イン)」
オリジナルの威厳を保つべく、九郎もデモンベインも招喚
デモンベインが二体いることを耳にした瑠璃は業腹極まりないといった顔色で現場へ向かった
同じ姿形をした機体が二つという異様な光景
形を同一としたからには須く意味があると考えるべき
用心しながら距離を詰める
デモンベインの拳を巧みな腕捌きで防いでいる
ただの偽者ではなく同等の力を持っていた
デモンベインのオリジナル呪法であるアトランティス・ストライクを打ち込むものの、相手も同じ足技をぶつけてくる
それはつまりデモンペインに魔術理論が搭載されていることを物語っていた
ウェストの哄笑が響き渡り、ご丁寧に理屈を説明してくれた
デモンベインで言うところのアル・アジフの役割をエルザが担っていた
さっき手に入れたバルザイの偃月刀の記述を利用し、魔術回路にデータとして転送するのがエルザの役目
ずば抜けた格闘センスも彼女のものだとしたら合点がいく
早いところレムリア・インパクトで方を付けたいが断片ごと昇滅させてしまうのは不味い
敵方の動きを止めて直接乗り込み回収するしかない
止むを得ず格闘戦に付き合うがやはり不利な状況
攻め倦ねているとデモンペインがレムリア・インパクトの構えを取った
どれだけ真似ようとも現物を使用出来るとは考えにくい
次の瞬間、極大なエネルギー波が飛んできた
エルザの武装「我、埋葬にあたわず」をデモンペインに転用したのだ
デモンペインを介して撃っているので威力が桁外れになっている
躱しきれないと判断した九郎はアトランティス・ストライクで受け流す
あまりの衝撃で脚部が破損した
立っているのも厳しくなってきたのでそろそろけりを付けなければならない
一か八か跳躍する
上空にいるデモンベインを撃ち落とそうと狙いを付けるエルザ
そこで新たな力であるニトクリスの鏡を活用した
7つの姿に分裂する
エルザは動じずに「我、埋葬にあたわず」を放射
美しい7本の線を描いて分身全てを撃墜する
然れども鏡の割れた音が鳴り響くだけで本体はいない
全部虚像だと気付いた時にはもう遅かった
デモンベインが背後に回ってきていてアトラック=ナチャで拘束
最初のジャンプしたデモンベインすらも擬態だったのである
その間に本体は姿を消してデモンペインに接近していた
至近距離からアトランティス・ストライクを叩き込み無力化に成功
ウェストとエルザはデモンペインを乗り捨て逐電
断片を無事回収出来たはいいが駆け付けた瑠璃は怒りの形相で九郎を睨み付け、平手打ちをしてすぐ去っていった
彼女の目にははっきりと涙が浮かんでいた
九郎は瑠璃の涙の理由を考えていた
あの時の彼女は疑いようもなく本気で怒っていた
アル・アジフはいつものことだと気にしないでいたが簡単に割り切ることは出来ない
教会へ行って子供達と戯れているところにライカから声を掛けられる
アル・アジフから事のあらましを聞いたライカは九郎に「悪いと思ったなら謝る」と勧告
単純でありながら最も効果的だった
助言通りに覇道邸にやってきた九郎
アル・アジフは別に謝る必要などないと言っているが、依頼主である瑠璃と気不味くなるのは良くないと思う九郎は謝罪しなければいけないと感じていた
邸宅で待つこと数分、待ち人が来たかと思えばやってきたのはウィンフィールド
日を改めて来て欲しいとのことだった
落胆したが意外にもウィンフィールドは九郎を買っていた
経緯はどうあれアーカムシティの平和を死守していることに変わりはないからである
そこでウィンフィールドは覇道瑠璃についてほとんど知らない九郎達に昔話をしてくれた
覇道鋼造は一代にして大財閥を築き上げた偉人
経済恐慌に陥った時期でさえ彼は見事な才幹で危機を回避してみせた
全世界で景気の低迷が続く中、覇道財閥だけが繁栄し続けた
まさしく超人と言えよう
鋼造は総帥の座を息子に譲ってから瑠璃の養育に心血を注いだ
彼女はあらゆる学問を教えられ祖父の全てを継ぐかのように育てられる
瑠璃はそれを苦痛とは思っていはなかった
好々爺であった鋼造にも気にかけていることがあった
それがブラックロッジの悪事である
凄惨な事件が起きる度に彼は険しい顔をしていた
鋼造は密かにブラックロッジと戦ってきたのだが才色兼備である瑠璃にもわからないことがあった
恐らくその運命染みた強大な何かが彼にとって真なる敵だったのだ
瑠璃にとって鋼造が特別である理由はもう一つある
彼女の両親はブラックロッジのテロによって他界している
つまり鋼造は瑠璃にとって唯一の肉親だった
祖父に対する愛情は深い
こういう理由から祖父の残した大切な形見であるデモンベインを扱える九郎達に尖った物腰で挑んでくるのだ
逢魔ヶ刻
覇道邸を衝撃が揺さぶる
自室にあった電話で状況を知ろうとしていたら停電
瑠璃は孤立してしまった
厳重な警備体制を掻い潜って侵入してきた者がいる
十中八九ブラックロッジであった
マギウス・スタイルに変身していつ敵と遭遇してもいいようにしておく
ウィンフィールドに邸内を案内してもらって移動途中に一人の男が立っていた
警備隊は雑魚過ぎて楽しめなかったのか九郎に期待の眼差しを向けている
『逆十字(アンチクロス)』のティトゥス、それが奴の名前だった
逆十字はブラックロッジを束ねる大幹部
全員が魔術師である
ティトゥスの話によるともう一人連れがいるようだ
そいつは今頃、瑠璃を押さえているとのこと
ただの人間である瑠璃が魔術師に敵うはずがない
早急に駆け付けたいところだが戦いは避けられそうになかった
ティトゥスは気力に満ちた顔付きで得物に手を掛ける
すると同行していたウィンフィールドが一歩前に出てここは引き受けると言ってきた
ここは瑠璃の執事である彼を信じることにして先を急ぐ
無視したのを愚弄されたと受け取ったか、横切る九郎を斬り付けようとするティトゥス
その腕をウィンフィールドが掴み止めさせる
振り向きざまの抜刀をスウェーで華麗に躱してみせる
並の者ならまず即死する一刀を凌いだことからティトゥスはウィンフィールドを敵と認めた
ウィンフィールドは軽快なステップを踏みながらファイティングポーズを取る
ボクシングスタイルだった
たかが拳闘と侮っていたティトゥスは己が一振りの動作より上を行く速さで動いていたウィンフィールドに不覚を取る
回避行動に移っていなければ会心の打撃となっていたかもしれない
頬に裂創が出来て血が吹き出した
ボクシングを遊戯と罵ったティトゥスに挑むように不敵な笑みを浮かべた
瑠璃はただ自室で待つばかり
部屋を開ける音がしたので警備兵に現状確認をしようとすると体の大きさが2倍くらいになって破裂した
肉片が部屋中に飛び散る
けらけらと笑いながら入ってきたのは血塗れの道化師
誰何すると逆十字の一人、ティベリウスと名乗った
瑠璃を殺すのが目的らしいが道具にして弄ぶ下卑た欲求を持っていた
拳銃を取り出して構えるが震えて力が入らない
ティベリウスが顔を近付けた時、仮面の中に蛆が大量に湧いていた
この魔術師には何か悍ましいものを感じる
打つ手がなく恐怖に耐えていると背後でドアを蹴り飛ばす音がした
既の所で間に合った九郎はティベリウスの顔面を殴打
壁まで吹っ飛んでいった
その間に瑠璃を後方に下がらせる
妨害されたことに憤懣したティベリウスは回転しながら鉤爪で九郎に寄って来る
マギウス・ウィングを刃にして受け止めるが罅割れて砕けてしまう
ここぞとばかりにアル・アジフがバルザイの偃月刀を現出させる
恐るべき切断力で鉤爪をいとも容易く斬り捨てる
魔法使いの杖と同様の役割を果たしているバルザイの偃月刀は所持しているだけで魔力を増幅させる効果がある
勝機を見逃すまいと横一文字に薙ぐ
上半身と下半身に二分割されたティベリウスは地面に転がった
倒したのを見て安心したのか、我に返ったようにしゃくり上げる瑠璃
幼子を宥めるように手で頭を撫でてあげた
和んでいるところへ矢庭に瑠璃の危機を孕んだ声が響く
九郎が後ろを振り返ろうとした時には既に遅く、背中に焼けるような痛みを感じていた
ティトゥスとウィンフィールドの戦いは続いていた
打ち込む隙を中々見せないティトゥスにウィンフィールドもおいそれと攻め込むことが出来ない
睨み合いで時間を浪費するのも惜しいので秘技"即興拳舞(トッカータ)"で攻撃の起点を作る
何千、何万分の一秒の攻防の中、ウィンフィールドの左拳がティトゥスの顔面に迫る
これが決定打となるはずだったがあろうことかティトゥスの左掌から刀が生えてくる
ウィンフィールドの拳がティトゥスの顔面を強打し、ティトゥスの刀がウィンフィールドの右太腿を突き刺した
相打ち
ティトゥスはただの人間がここまで強いとは予期していなかった
ウィンフィールドに謝罪と敬意を表し、一人の戦士として見ることにした
左掌から生えていた刀を全て出現させて左手に持つ
二刀流の構えを取った
背に深々と刺さっていたのは骨だった
血を吐きながら俯けに倒れ込む九郎
信じられないことに斬り殺したはずのティベリウスが立っていた
仮面が割れ素顔が明らかになる
骸骨と化している
ティベリウスの上半身を支えているのは千切れた腸だった
これで死人であることが確定した
『妖蛆の秘密(デ・ウェルミス・ミステリイス)』という魔導書の力で不死を手に入れたのだった
九郎に刺さった肋骨を引き抜く
深手を負った九郎はまだ動く事が出来ない
アル・アジフは九郎から分離して人間サイズに戻ると、魔力を込めた手刀でティベリウスを狙うが腸に絡め取られて自由を奪われてしまう
指を鳴らすと遠くに置かれていた下半身が動き出す
上半身の元までやってくると強引に結合させる
捕獲した瑠璃とアル・アジフに淫らな行為をしているところで九郎が漸く立ち上がる
バルザイの偃月刀を杖代わりにして支えないと立てないくらい消耗していたが瞳は死んでいなかった
意識を取り戻したので九郎に魔力を預けるアル・アジフ
人形サイズに戻るとティベリウスの束縛から逃れる事が出来た
応急処置の止血魔法を付与して戦闘続行
バルザイの偃月刀を投擲する
武器を捨てたと見せかけ、もう一本を手に持って斬り掛かる
臓腑の触手を鞭のように使って叩き落とそうとしたところが鏡が割れる音がした
所持していたバルザイの偃月刀はニトクリスの鏡で作った偽物である
砕波した欠片に魔力を込めて操り、ティベリウスに向かわせる
体の至るところに破片が突き刺さって藻掻いている
次に投げた本物をブーメランみたいに引き寄せて瑠璃を捕縛している触手を斬り落とす
戻ってきたバルザイの偃月刀を握って袈裟斬りを放つ
そこから間髪入れず何百回と斬り刻み続ける
攻撃が速すぎてティベリウスは動くことすらままならない
不意にけたたましい音が近付いてきた
部屋を破壊しつつやってきたのは巨大な機械の手だった
剣と拳が交差しようとしていた時、覇道邸が揺れた
ティベリウスが鬼械神を招喚したのだ
だがそんなことはお構いなしのティトゥス
強敵と邂逅出来たことに至高の喜びを感じていた
瑠璃の様子が気掛かりなウィンフィールドとしては一刻も早く馳せ参じたいところだがティトゥスがそうさせてくれない
そこへメタトロンという助け舟がやってくる
サンダルフォンからメタトロンへの手出しを禁じられていることと、二対一で勝てるほど自惚れてはいないティトゥスはここで退いた
拳に潰される前に瑠璃を連れて飛行しながら天井から外へ出る
ばらばらになっていたティベリウスの肉塊は竜巻のように巻き上げられ、徐々に人の形を作ってすっかり元通り
背中の傷が開いてしまい痛みに苦しむ九郎
ここから戦うのは無茶だが憤激しているティベリウスが逃がすはずがない
また、九郎も腹の虫がおさまらないでいた
瑠璃に引き止められながらも戦うつもりでいる九郎
その剛勇さは鋼造のそれと似ていた
瑠璃は九郎に祖父の面影を抱いていたのだ
「瑠璃・・・確かに世界は邪悪に犯されているのかも知れない。だけどな、その邪悪を憎む正義もまた、確実に存在するのだよ」
彼女に戦いを決意させた祖父の台詞だった
いつか誰かが正義に目覚め、その手に穢れなき剣を執り、邪悪を討ち滅ぼす日が来ることを願ってデモンベインと名付けたのだから
デモンベインを招喚してティベリウスの鬼械神ベルゼビュートと対峙する
怪我のせいもあってかアル・アジフは戦えるのは精々5分だと言った
破壊ロボより格上の敵を5分で倒すのは厳しいがやるしかない
二度目のニトクリスの鏡はもう効かなかった
ベルゼビュートは口から酸を吐き出して攻撃してくる
腕に掛かると装甲が腐食していった
逃げ回って思案しているとベルゼビュートが纏っているローブを被せられ視界を奪われる
拳が飛んできてデモンベインに命中
殴った拳から電流が伝わってきて魔術回路がエラーを吐き出す
ベルゼビュートの両手に光球が生まれ仕留めようとするが、横合いから飛んできたビーム弾で集中が途切れた
危殆に瀕したデモンベインを救ったのはメタトロンだった
メタトロンに気を取られている間に機内に流れる水銀の血が瘴気を浄化する
アトランティス・ストライクで反攻するが捉えたのはローブのみで本体は上空に逃れている
デモンベイン用の大きさ変更された巨大なバルザイの偃月刀を召喚して振るう
斬撃波が生じて向かっていく
ベルゼビュートは再び光球を作り出して射出
二つのエネルギーが衝突して周囲を焼き尽くした
ティベリウスが発射する寸前にクトゥグアと叫んでいた事からその力はアル・アジフの断片であることがわかる
三度光球を造り出すベルゼビュート
『旧支配者クトゥグア』――フォマルハウト星に棲まう炎の神性
その力を借りて造られた力はプラズマ体
必滅の光がこちらに向かって放たれる
九郎はバルザイの偃月刀を構え、マスターテリオンと戦った時の世界を識る感覚を思い出す
研ぎ澄ましているとプラズマ体の核が視えた
魔術構成を正しく理解し、バルザイの偃月刀で斬る
プラズマ体は紙片となって近辺に散らばった
動揺するティベリウス
返す太刀で生み出した衝撃波がベルゼビュートを襲う
身を捩り回避したが右腕を切断した
体力の限界が来てしまった九郎の意識は沈んでいく
激情に駆られたティベリウスは何としても九郎を地獄に突き落とそうとしていたがそこで脳裏にマスターテリオンの声が響き、戦闘中止の命令が下る
激昂して無視しようとするティベリウスに冷ややかな声で言い含めると怖気付き、ベルゼビュートと共に姿を消した
アウグストゥスはマスターテリオンの意向を疑義を感じていた
瑠璃の暗殺も失敗、クトゥグアの記述も敵の手に渡ってしまった
これでは敵を見す見す強くしているようなものだ
朦朧とする中、九郎は自分の出自を追想していた
平々凡々な家庭に生まれた九郎は父親の仕事の都合でアーカムシティにやってきた
幼年期の折に神経症を患い父親が死に、母親も女手一つで子育てしたのが祟って病に倒れ死亡した
九郎が18歳の時である
将来の展望について思い悩んでいた時、ミスカトニック大学の学長からある条件を飲めば奨学生として受け入れるという話が舞い込んできた
陰秘学科を専攻すること、そして建前は考古学としておくこと
それさえ満たせば入学出来るというのだった
だが入学して2年で九郎は大学を去った
初めて魔導書を閲覧した時、何者かが必死に呼び掛けてきていた
最後に閲覧した際に怪異を目の当たりした
その時の記憶を思い出そうとして眠りから覚める
病室だった
傍らに看病してくれていた瑠璃が眠っている
アル・アジフの話によると丸二日は眠っていたらしい
九郎が起きたので瑠璃も目覚める
デモンベインの扱いについてまた口を酸っぱくして言われるかと思ったがこれまでとは打って変わって柔和な態度だった
戦いを間近で見続けて瑠璃の心境にも変化が見え始めていた
鋼造が理想とした乗り手は九郎のような人間だったのかもしれない
そう思うようになったのだ
ライカとジョージ、アリスン、コリンも見舞いにやってきて賑やかになった
苦しい戦いだったが一先ず危難は乗り越えた
抜けるような蒼穹に美しい浜辺と海
九郎達は海水浴場へ来ていた
ここ一ヶ月ほど覇道財閥が経営しているリゾート地で船の難破や観光客の失踪事件が相次いでいる
問題の土地の名前はインスマウス
噂によると怪奇現象のような事が起きているらしい
奇妙な声が聞こえたり巨大な蛙の群れが現れたり等である
仕事で訪れたとはいえ、目の前の美しい光景を目にして娯楽を忘れろというのは土台無理な話
一緒に着いてきたライカと子供達に混ざって遊んでしまう
そんな中、どこかで見たことのある覆面男達とばったり会う
奴らがブラックロッジだと認識するまでにものの数秒と掛からなかった
追いかけ回していると案の定ウェストがいた
お供としてエルザもいる
今般の件もどうせブラックロッジが関与しているに違いないと決め付けた九郎はウェストを殴りつけて成敗する
毎度の如く、破壊ロボを招喚しようとするウェストだったが海に潜ませてあったため錆びて使い物にならなくなっていた
アル・アジフの分析によると残留する闇の気配旧いものであるらしくブラックロッジの仕業ではないようだ
宿泊所で一夜を過ごしてから翌朝になると港町の住人が一人残らず消えていた
大凡の見当が付いていたアル・アジフは怪事件の犯人はこの町の連中だと言った
この海は邪神の眷属達の領土であり邪神崇拝が行われている
九郎達は孤島にある神殿へ向かうことにした
覇道のクルーザーで沖に出る
二人だけで行くつもりだったのだが監督義務ということで瑠璃も同行した
そしていつの間にやらこっそり後をつけてきたライカも加えて四人になった
幾ら何でもライカを連れてはいけないので手間になるが引き返そうと思った時、海中から何かが飛び出してくる
甲板の上に降り立った者の姿はどう見ても人間だけれど着目すべきは顔だった
共通して蛙みたいな"インスマウス面"をしているのである
九郎達を敵と見做すと体のあちこちを変形させ半魚人になった
『深きものども(ディープ・ワンズ)』の血を引いている
飛びかかってきたのでマギウス・スタイルになって撃攘させる
多数いるので瑠璃とライカを守りながら戦うのは厳しい
ウィンフィールドはクルーザーの操縦をしているので手が離せない
船底に穴を開けられて船体が傾く
さらにエンジンルームから煙が立ち上り始め、いよいよ危なくなってきた
爆発の可能性を考慮して脱出しようとするが三人を抱えて飛ぶのは現実的ではない
そんな事を考えている間に爆音がして一行は海に投げ出されてしまった
※アル・アジフ ※覇道瑠璃 ※ライカ・クルセイド ●アル・アジフ 気絶していた九郎を呼び起こしたのはアル・アジフだった
目指していた島に運良く漂着出来たようだ
他の三人の姿が見えないので心配したがダウジングで気配を探ってみたところ、生存反応は確認出来た
危険でないとは言い切れないので急ぐことにした
暫時森を駆けると石造りの神殿を見つける
怪しい事この上ないが行くしかない
内部は異臭が酷くて香を炊いているような匂いが充満していた
桃色の煙が立ち込める中、奥から二人の男がやってきた
生気を感じられない
急に体が裂けたかと思うと中から何本もの触手が出現し、蛸型の怪人となった
マギウス・ウィングやバルザイの偃月刀で斬り刻むが軟体生物に斬撃はあまり効果的ではなかった
そこで翼を頁化して敵の周りに散らす
散乱させた紙片一枚一枚に術で点火させる
蛸怪人は黒焦げになった
墨を吐き掛けられて視界を奪われながらもう一体も同じように片付ける
刺激的な煙の誘惑を突破し神殿の中心部に行き着く
ふんぐるい むぐるうなふ くするふ るるいえ
うがふなぐる ふたぐん!
怪しげな呪文が斉唱されていた
祭壇には魚の化物みたいな彫像が祀られている
その場にいた深きものどもは九郎の姿を見つけると攻撃してくる
軽く20体ほど蹴散らした
鮫怪人やら亀怪人やら色々出てきた
九郎が戦っているとウィンフィールドが加勢にやってくる
瑠璃とライカも無事だったようだ
二人掛かりで深きものどもを倒していると広間に拍手が響く
奥からインスマウス顔の爺と紳士風の中年男が出て来る
拍手の主は後者だった
挨拶こそ鄭重だがその正体は逆十字の一人、ウェスパシアヌスだった
彼はここでちょっとした実験をしていたらしい
それを聞いて協力者と思われる爺が怪訝な顔をした
神の招喚を行うというのだ
ウェスパシアヌスが魚の神像を指差すと少女が立っていた
異形達が祝詞のように謎の呪文を唱える
少女から吹き出す強力な神気と瘴気
僅かの時間だったが少女が本の頁になった
水妖の気を感じられることから『ルルイエ異本』と断定
彼女も魔導書だった
凄まじい威圧感が神殿内を包み込んでいく
焦燥と不快感でウェスパシアヌスに斬り掛かる九郎
彼は手にしたステッキで軽々と往なし、言霊を使って九郎を宙に浮かせる
そのまま後方まで引っ張られて地面に叩き付けられてしまう
彫像に生命が宿った
石像に亀裂が入り、緑色の瞳を覗かせる
漸次巨大化していき濁った眼で周囲を見回す
半人半魚として恐れられていたダゴンが降臨した
深きものどもが次々倒れていっている
ダゴンが生命力を吸い上げているのだ
その度に大きくなっている
ウェスパシアヌスは至極満足そうにしていた
成長ぶりを一頻り見終わると九郎に後始末を任せるように去った
ダゴンの頭部に乗っているルルイエ異本曰く、まだまだ命が足りないようだ
ひ弱な瑠璃も生命力を奪われ始めて脱力している
アル・アジフが防禦魔術を施す
この場に留まるのは不味いのでウィンフィールドに瑠璃とライカを外に連れ出して貰った
残った九郎はマギウス・ウィングでルルイエ異本に近付いて攻撃を仕掛ける
しかし刃が触れると液体化してダゴンに吸収されてしまった
九郎を標的にすると長大な触腕で薙ぎ払ってくる
際どく躱すとダゴンを誘導するように神殿の天井から外に出た
暴食せんとばかりに巨体が野に放たれた
咆哮一つで周辺の野生動物が死に絶えた
それだけでは飽き足らず、島から出ようと海岸線を目指している
これ以上無辜の生物を死なせないために魔を断つ剣を執る
デモンベインを招喚して疾走する
先手必勝のアトランティス・ストライクを繰り出したが驚いたことに飛び跳ねた
デモンベインの上空を飛び越えて着地
逸散に海へ向かって駆けていく
巨躯の割に移動速度が速い
海中での戦いはデモンベインにとって辛いので潜られる前に全速力で追い付く
沿岸まで来て途轍もない音がしている事に気付いた
大地が激震している
ダゴンの背後を見ると全てを飲み込むかのような大津波が押し寄せていた
津波はデモンベインの背丈を優に超えていた
逃げる術はなく海中に引きずり込まれる
荒れ狂う海水の暴力に一瞬意識を失っていたがすぐに取り戻す
視界は悪くて360度どこから襲ってくるか分からない
背後から接近する気配があったので振り向いてバルカンを撃つ
手応えはあったようで慄いたのか一旦離れたようだ
追撃すべく脚部シールドのエネルギーを解放しようとしたら背部に衝撃
デモンベインに接触して物凄い力で締め上げている
今し方距離を取ったダゴンがもう旋回して戻ってきたのかと思いきやそうではなかった
形こそダゴンそっくりだがデモンベインを拘束しているのはヒュドラという別個体だった
父なるダゴンに母なるヒュドラ
奴らは番だったのだ
動けないデモンベインにダゴンの強烈な突進が減り込む
装甲に罅が入って浸水し始めた
打開するために蓄積したエネルギーをアトランティス・ストライクで解放
不安定な大勢のままキックだったがダゴンは吹き飛び、爆裂した力で海の中に真空状態が出来た
空いた真空を埋めようと海水が激流となって渦を巻く
ヒュドラもそれに巻き込まれてデモンベイン放して逃げ出した
悠然と泳ぎ続けるダゴンとヒュドラに変化があった
お互いの触手を交わらせて一つの体としたのだ
合体怪獣ゴンドラと成り果て体躯も非常に大きくなった
巨大化しても速度が落ちない高速の突進にバルザイの偃月刀を合わせて振る
並外れた威力の体当たりにデモンベインの機体は拉げ、海中から空高く打ち上げられていた
下に陸が見えている
このままでは地面に激突してしまうので重力制御で姿勢を整える
それでもダメージを相殺することは出来なかった
ゴンドラから血液が流れ出ていることから間違いなくダメージは通っている
陸の上に立ったことで地の利を得たデモンベインは海中から飛び掛かってくるゴンドラを斬り付ける
肉を断った感触は確かにあったが迂闊だった
ゴンドラは斬られた瞬間にダゴンとヒュドラに分離していた
4本の触手がデモンベインの頭部、腕、胴体、脚を貫く
破損箇所から放電して水銀の地が噴き出す
ついに膝を突いてしまった
ダメージは相当大きく立ち上がる事が出来ない
ダゴンとヒュドラは再び融合して触腕で止めを刺そうとしていた
万事休すかと諦めかけた時、まだ試してない事があると思い至った
ティベリウスから取り戻したクトゥグアの力である
アル・アジフに使えないか尋ねてみたところ、危険な賭けになる模様
何しろ正統な鬼械神であるベルゼビュートですら防禦陣を入念に張り巡らしてから行使していた
付け加えて断片の状態であの破壊力である
アル・アジフ本来の力で放てばどうなるか想像も付かない
だが如何ともしがたいこの状況を打破するため背に腹は代えられない
九郎は意を決してアル・アジフに力の解放を命じた
闇の中に閃光が瞬き、インスマウスの土地を白く染め上げる
滅びの太陽がデモンベインを中心として広がっていく
――フングルイ、ムグルウナフ、クトゥグア、フォマルハウト
異界の詩が響き渡る
急激な気温の上昇で雨が止んだ
止むというよりは蒸発している
大気は帯電し、デモンベインとゴンドラを取り囲んで雷光が乱舞している
世界を白で灼いた
大地が融解していく
ゴンドラの全身から緑色の蒸気が発せられる
血が蒸発して沸騰している
「ンガア・グア、ナフルタグン・・・――イア!クトゥグア!」
白に覆われる世界で白い焔を纏う獣が実体を結ぶのを見た
荘厳な獣の顎が海魔を捉えた
ゴンドラは瞬時に爆ぜた
有り余った熱量は自身さえも焼き尽くす
精神の限界がきた九郎の意識は途絶えた
最後に見たのは溶け落ちるデモンベインの腕だった
遠くで見守っていたウェスパシアヌスは感嘆の吐息を漏らした
上空に4つ脚を持つ巨大な円盤が浮遊していた
特殊な形をした鬼械神だった
外陰から一冊の本を取り出す
彼が呪文を唱えるとルルイエ異本の少女となった
崩れ落ちそうになる少女の体を外陰で包み保護した
ルルイエ異本の試験的な運用とデータ採集が出来たので成果はあった
同じく別の場所から九郎達の戦いを監視していたナイアは九郎の"進行具合"にほくそ笑むのだった
インスマウスの住人は滅んで祭殿も破壊、招喚された邪神も倒した
とりあえず事件は解決
クトゥグアの力を御しきれなかった反動でインスマウスの地形は大きく変わり、巨大なクレーターが出来てしまった
デモンベインの両腕は完全に溶けてなくなっていた
全消滅しなかっただけ僥倖と言うべきだろう
アル・アジフが言うにはクトゥグアの力は元来銃の呪法兵装を用いて制御していた
指向性を持たせることで安定感が増すのだ
ともあれ現状では使い物にならなかった
ウェスパシアヌスはマスターテリオンに此度の報告をする
ルルイエ異本の力に甚く感心していて、アル・アジフがいなくとも計画の遂行は出来ると言った
アウグストゥスとウェスパシアヌスが異論を挟もうとすると目で威圧した
逆十字の活躍次第で十分に実現可能なのだ
突如、僧院を激しい揺れが襲った
信徒の一人がやってきて最下層の拘束結界牢を破って『暴君』が脱獄したと告げた
一同に衝撃が走るがマスターテリオンだけは薄ら笑いを浮かべていた
視界はほぼ無い
見渡す限り白銀の世界
九郎達はアーカムシティを突然襲った大寒波の主、『イタクァ』と戦っていた
イヌイットの伝承等、ウェンディゴの名で伝わる旧支配者である
バルザイの偃月刀で攻撃するが雲を斬るような感覚だった
"風に乗りて歩むもの"の異名は伊達ではないらしい
本体を捕捉するのに手間取りそうだった
難戦しているところにチアキから通信が入る
クトゥグアの制御ユニットの調整が終わったみたいで迅速に転送されてくる
拳銃をデモンベインのサイズにまでしたものだ
プラズマ・ガンといったところか
ただし威力は10分の1程度にまで落ちている
雲状のイタクァに向けて狙いを定めて発射する
光球は眉間の間と思しき場所に命中した
爆風によって体がくっきりと見えるようになる
デモンベインに馬乗りになるイタクァの姿は氷の躰と翼を持つ竜だった
乗り掛かっているイタクァを退かせようとするが動けば動くほど地面が陥没していく
プラズマ・ガンを腹の辺りに押し付けて引き金を引こうとする
そこで司令室から銃内部の魔力が既定値を超えていて暴走するとの緊急通信が入ったが遅かった
轟音が鳴り渡る
立ち昇る煙を見ながら鈴を転がすような声がアーカムシティに響いていた
イタクァは爆発した隙に九郎を連れ去っていた
生贄と定めたものを空の高みに運んで様々な世界へ引っ張り回す習性があるらしい
覇道財閥は捜索に人員を割き、アル・アジフは九郎とイタクァの気配を探った
一方、九郎は石造りの回廊の様な場所に捕らわれていた
人形態となったイタクァに襲われている中、同じく人の形を取ったクトゥグアが介入してくる
クトゥグアとイタクァは姉妹のようで二つの神霊は九郎が身を預ける魔術師の器に相応しいかどうか試そうとする
魔術的共鳴を高めるには性交が一番なので二人とまぐわう
事が済むと意識が朧げになっていく
自分を呼ぶ声に目を覚ますとアル・アジフが見下ろしていた
生体反応を感知して来てみれば廃ビルで気絶していたという
勿怪の幸いと言っていいのか九郎の手にはイタクァとクトゥグアの断片があった
二つの紙片はアル・アジフに吸い込まれた
九郎が立ち上がろうとすると両手の甲に鋭い痛みを感じる
見てみると魔術紋様が刻まれていた
右手の甲には『火』を意味する烙印
左手の甲には『風』を意味する刻印
考えるまでもなくクトゥグアとイタクァのものだろう
気に入られたということなのかもしれない
覇道の迎えの車がやって来たので九郎は廃ビルから出た
九郎の一挙手一投足を見逃さず見ている者がいる
その瞳は何かを期待しているように見えた
ライカに食事を集ろうと移動している時に雨に降られたので道を急ぐ
雨脚は強くなるばかりである
御飯を食べてから傘を借りて家路を急ぐ途中、幽かだが魔力の兆しを感じ取った
漂っている弱々しい光を追って路地裏に入ると襤褸を纏った少女ががたがたと凍えているのを発見する
お人好しな九郎は見て見ぬふりが出来ないので一緒に連れてきた
体には虐待の痕が見受けられる
少女はずっと無言だったが九郎をまじまじと見て微笑み、エンネアと名を明かした
翌朝、部屋に明朗快活な声が響く
腹の上に乗っかっているエンネアが発した言葉だった
昨日あれだけ悄然としていたのが嘘のように生き生きとしていた
何かしらの情報を聞き出そうとしたが彼女には記憶がないらしい
傷の多さからして逃げてきた事だけはわかる
会って間もないというのにエンネアは九郎に酷く懐いている
彼女の服を買うために街へ行き、教会へ寄った
エンネアをライカと子供達に紹介する
置いてあった『アーカム・アドヴァタイザー』という地方新聞を見るとトップニュースにブラックロッジの構成員78名が死亡という肝を潰す出来事が書いてあった
事件が起こったのは昨日と書かれている
エンネアが逃げてきたのも昨日であり、あの痛々しい傷痕も含めて符合するものがあるのかもしれない
彼女は思いの外、家事が優秀だった
戦い以外に役割を見出だせないアル・アジフを挑発して怒らせている
どうも反りが合わないようだ
アル・アジフが不貞腐れて寝てしまった後、ふとエンネアは真面目な顔をして九郎に戦う理由を問いかける
「後味が悪い」からだと答えた
「必死に戦ってもそれが無駄だとわかっていたらどうする?」と意在言外な言い回しで質問するエンネア
仮にそうだとしても何もしないでいることに耐えられそうにないのが九郎だった
それに戦っている最中はそんな事を考えている余裕なんてものはない
九郎の返事に何か引っ掛かるものを感じたようだった
密かに会話を聞いていたアル・アジフは剣呑な面持ちでエンネアに詰問する
彼女からは善くない存在の気配がしている
仇なす者なら即刻擺脱しなければいけない
一触即発の空気だったがエンネアはただ九郎に会いたいがために来たという
彼女の記憶が戻っている可能性があったがはぐらかして眠ってしまった
掴み所がないこの少女をアル・アジフは持て余していた
一週間経ったある日、エンネアが遊びに行きたいと切り出した
色んな場所に三人で行った
散々楽しいんだ後に早めの夕食を喫茶店で取る
アル・アジフと九郎のやり取りを面白そうに眺めているうちにエンネアはうっかり口を滑らせてしまう
彼女は二人の素性については何も知らないはずなのに魔術師と魔導書であることを口走ってしまったのだ
沈黙が場を支配する
観念したように全てを話そうとした時、九郎達が座っている席の前に大男が立っていた
派手なスーツの上からガウンを羽織って髑髏を模した覆面を被っている
大男のすぐ後ろには小柄な少年が立っている
こちらは典型的なストリートファッションだ
ウェイトレスが男達に話しかけるが相手にせず、九郎の顔を見てにたりと笑った
寒気が走り、嫌な予感がしたので店内にいる人間に退避を促したがその言葉の意味を理解するよりも早く爆発が襲った
素早くマギウス・スタイルになった九郎はエンネアを抱き抱えて外に出た
空から千切れた人間の部位が落ちてくる
炎の中から姿を現す二人組
少年が大男より一歩踏み出し、手に持った得物をだらりと振っている
危機感を覚え、エンネアの頭を押さえつけてしゃがむ
一陣の風が頭上を通り過ぎた
そして路上に血の雨が降り注ぐ
見えない刃が通行人を斬り刻んでいる
少年が操りし力は『名状しがたいもの』『星間宇宙を歩むもの』、風を司りし旧支配者ハスター
比較的新しい魔導書、『セラエノ断章』を持つ逆十字のクラウディウス
次いで巨躯の男が大きく拳を振り被った
空間が爆砕し、九郎はエンネアを抱いたまま吹き飛ばされる
巨大な穴が穿たれた
大男の名はカリグラ
クラウディウスと同じく逆十字の一人だった
二人の会話から目的はエンネアであと推測
物事を軽視しているクラウディウスは味方であるカリグラに対しても煽るような言動で話す
慎重派のカリグラはそれが我慢ならず内輪揉めを始めた
二人の仲が険悪になっていき、ついには容赦無い攻防が繰り広げられている
逃げ遅れた罪の無い人々が彼らの餌食となっていた
怒りが込み上げて来た九郎はエンネアを避難させ二人の前に立つ
九郎が来たことで落ち着きを取り戻すクラウディウスとカリグラ
アトラック=ナチャで何倍にも伸びた髪を使いクラウディウスを捕縛する
カリグラが拳を振り上げたのを見て放り投げた
二人はもつれ合って転がっていく
好機を逃さずバルザイの偃月刀を召喚して二人まとめて叩っ斬ろうとしたがクラウディウスの姿は瞬時に消え、カリグラは拳を打ってきた
馬鹿力にバルザイの偃月刀は真ん中あたりから折れていた
唖然としている九郎の耳元にクラウディウスの声
背中を真空の刃が裂き血が迸る
足払いを仕掛けたが楽に躱されてしまう
予想以上に動きが迅い
アル・アジフに聞いたところ、バルザイの偃月刀の再生には時間が掛かるみたいなので手放した
勝算は薄いが九郎は戦闘を継続した
クラウディウスの真空刃が放たれる
身を屈めて疾走しながら拳を突き出す
クラウディウスの体に触れる寸前に手が裂傷だらけになり、慌てて引っ込める
風の防禦陣を纏っていた
マギウス・ウィングを槍状にして結界へ突き出す
風に切り刻まれて紙片となっていく
無数の髪がクラウディウスを包み込んで怯ませた
結界が緩んでいる間に貫手を打つと防禦陣を突破して顔面に届きそうだった
後少しというところでいきなり爆発に巻き込まれる
カリグラの無差別攻撃が両者にダメージを与えるが九郎の方が大きい
アル・アジフに治癒呪文をかけて貰う
カリグラが両手を堅く繋ぎ合わせた
それを見てマギウス・ウィングで上空に逃れる
少しの後、地割れが起きて近くのビルが倒壊していく
待ってましたと言わんばかりにクラウディウスが空を駆けていた
風を足場として超高速で動き回っている
両腕を交差させて創り出した真空刃が十字になって迫って来て九郎の胸元を裂いた
傾ぐビルの上に墜落する
傷は深く、動くのも困難だった
八方塞がりとなり死が目前に迫ったその時、九郎を取り囲むように魔導書の頁が吹き荒れた
カリグラの爆砕拳とクラウディウスの鎌鼬を容易く弾き返す
軈て紙片は人の形を創っていく
少年のような少女のような小型の『本』だった
人型の紙束だったそれは今や完全なヒトとして顕現していた
九郎は魂を奪われたように『彼女』を見ていた
拘束具を身に纏い、仮面を被り、口には轡を装着している
華奢な体とは裏腹に放出されるプレッシャーは強大
クラウディウスとカリグラは目の前の少女、『暴君』を相手にすっかり取り乱していた
戦慄しながらも拳と風刃で攻撃をする
拳が半身を吹き飛ばし、風刃が首を刎ねた
血飛沫が降るその前に少女の全身が頁化した
変事はそれだけに留まらなかった
九郎の右手の甲に焼鏝を当てられた痛みを感じ、左手の甲からは急速に体温が奪われていく
クトゥグアとイタクァに付けられた刻印が眩い光を発している
魔導書の頁が九郎の両手を取り囲むようにして回転し始める
魔術文字が煌めき、輝きが閃光を生む
光の中に2つのものがあることを感じた
それが何か知覚する前に両手を伸ばす
グリップを握り締めるのと同時に脳内を高密度の情報が駆け巡り、思考するよりも早く動いていた
右手をカリグラに向け、左手をクラウディウスに向けてトリガーを引く
銃声はトリガーを同じタイミングで引いたので一発しか聞こえなかった
カリグラの絶叫が響いた
兇暴な破壊力は魔術防禦を貫通して左腕を吹消し飛ばした
クラウディウスは風の結界に守られて無傷だったが銃弾は以前として眉間を狙い続けている
呆然と手に収まった二挺の銃を見てみる
黒と紅を基調とした自動式拳銃(オートマチック)
銀一色で造られた回転式拳銃(リボルバー)
極めて強力な呪法兵装だった
あの砕け散った少女が銃となった
痛みで我を忘れたカリグラが暴れ出す
カリグラに向けて回転式拳銃を全弾撃ち込んだ
直進していた5発の弾道に変化が起きる
直角に曲がったり、滑らかなカーブを描いたり、螺旋状に進行したりしてカリグラの急所を狙っている
自動追尾弾だった
4発は無効化されたが残る1発が右目に突き刺さる
理性を失いながらも複雑な術式を組み上げていた
極太の水柱が噴き上がる
荒れ狂う水流の中に巨大な影
魔導書『水神クタアト』によって鬼械神クラーケンが招喚された
頑強なフォルムは圧倒的なパワーを感じさせる
クラウディウスが纏う瘴気風が一気に膨れ上がった
黒い風が極大竜巻となりビル群ミキサーのように砕いていく
竜巻の中に雷光が瞬き、影が浮かび上がる
カリグラの暴走に毒突きながらもクラウディウスが鬼械神ロードビヤーキーを招喚
クラーケンとは対照的に細身である
鬼械神二体を相手にするのは無謀だが九郎はデモンベインを喚ぶ
先に動いたのはロードビヤーキーだった
超低空飛行で突進してくる
断鎖術式を解放して跳躍で躱す
そのまま後方に飛び去っていくかと思われたが慣性と重力を無視したような軌道で天空へと昇る
術式を展開して一挺のライフルを召喚する
魔術弾の雨を脚部シールドのエネルギーを駆使して掻い潜る
クラーケンが動いた
伸縮自在の両腕が大蛇のようにうねりながら来襲する
鋼鉄の爪はいくら避けてもしつこく纏わり付いてくる
バルザイの偃月刀があれば斬り落とせるのだが、九郎とデモンベインは霊的に繋がっているため、どちらかの状態で武装を破壊された場合はもう片方でも使えなくなる
クラーケンの攻撃を回避している間にもロードビヤーキーの砲撃は続いている
ニトクリスの鏡を使ってやり過ごすが捕まるのは時間の問題
クラーケンの腕がほんの少し胴を掠っただけで装甲が凹んだ
一発貰うだけでも再起不能となりかねない
躱しきれないタイミングでロードビヤーキーの射撃が放たれついに被弾してしまう
おまけに視認するのが難しい速度の体当たりを喰らって仰向けに倒れる
手痛いダメージで立つことが出来ない
そこで地表からデモンベインを見上げている人物がいる事に気付く
逃がしたはずのエンネアだった
すぐに立ち去るように注意喚起したが彼女は黙って九郎を見続けている
ロードビヤーキーが撃った弾の一発が最寄りのビルに当たって崩れてくる
エンネアは崩落したビルの下敷きになってしまう
それが彼女の最期だった
九郎はエンネアが自分に問い掛けた言葉を反芻していた
全部が無駄だとしたら戦う意味なんてあるのだろうか
護るべき時に護れない力に何の意味があるのか
自問した果て行き着いたのは純粋な殺意だった
九郎は自己の犠牲顧みずにクトゥグアとイタクァを顕現させる
アル・アジフが制止を談じ込むが聞き入れない
モニター越しに見ていた瑠璃も必死に止めるように呼び掛けている
鬩ぎ合い、交じり合う魔力がデモンベインを侵蝕していく
殺意を形にするため魔力を注ぎ込む
「だったら――力を貸してあげるよ、大十字九郎」
何かが直接意識に語りかけてきた
知らない術式が干渉して手を貸してくれる
そして実空間に顕れる
このまま臨界を超えてしまえば呪的汚染に見舞われ、今戦っている区画が永久封鎖された13区画、通称『第2焼野(ソーラステド・ヒース)』のように生命を寄せ付けない死の荒野と化す
だが事態は一変した
超高密度の因果律子を内包したまま、全く新たな物質へと顕在化した
二体の神獣が目の前で姿を変える
存在力の密度を増し、物質化
右手には自動拳銃『クトゥグア』
左手には回転式拳銃『イタクァ』
少女が銃として遺したものをデモンベイン用に巨大化し、その上でクトゥグアとイタクァの力を結び付けたのだ
クトゥグアの銃口をクラーケンへ
イタクァの銃口をロードビヤーキーへ
魔銃が唸った
クラーケンの腕とロードビヤーキーの翼が破壊される
深刻なダメージを負った両機は撤退した
咄嗟の機転で九死に一生を得たが勝利を喜ぶものは誰一人としていない
九郎の心は乾いていた
カリグラとクラウディウスはアウグストゥスに今回の失態を痛罵されていた
言われっぱなしで頭に来たクラウディウスが罵倒し返す
見苦しくなってマスターテリオンが口を挟む
暴君を失ったのは大きいが、C計画は暴君無しで行うと言った
その発言に三人の逆十字は一驚に喫した
反射的にアウグストゥスが意見を差し挟む
C計画は暴君と鬼械神の中枢ユニットがあって初めて実現する計画だったのだ
マスターテリオンは暴君の役割は自らが果たすと言って退けた
中枢ユニットにはネームレス・ワンの代わりにリベル・レギスを使用する
この時、アウグストゥスの懐疑は確信に変わりつつあった
隠密に逆十字を全員を集結させ会議を開く
マスターテリオンがC計画を行うに相応しい主であるか投げ掛けた
アル・アジフは入手した武装のクトゥグアを精察していた
弾丸に『The minions of Cthugha』と洗礼が施してある
魔力を注ぎ込めば爆裂弾にもなりそうだ
火薬に『イブン・カズイの粉薬』が混ざっている
これにより霊的存在の物質化が可能である
イタクァは『Wendigo the Blackwood』となっている
敵を捕らえるまで追い続ける自動追尾弾だ
興味深そうに喋るアル・アジフの声にも耳を貸さない九郎
エンネアを救えなかった事が重く伸し掛かっていた
アル・アジフも同様に心苦しさを感じていた
千年を超える悠久を闘争と邪悪と狂気のみで駆け抜けた彼女にとって初の経験だった
戦う術しか知らないから現下で起こっている事の解決策が分からない
夢幻心母を破砕音が襲う
信者達が騒ぎ出すがマスターテリオンは神の国の到来を告げる預言者のように振る舞う
刻は満ちた
13番区画の北部にアウグストゥスはいた
右掌を翳すと金色の魔導書『金枝篇』が出現する
13番区画北東部にいたティベリウスが『妖蛆の秘密』を取り出す
13番区画南東部にカリグラの巨体があった
拳を叩き付けると瓦礫に混ざって『水神クタアト』が現れた
13番区画南部、クラウディウスは竜巻の中心に立ちながら『セラエノ断章』を手にしていた
13番区画南西部にてウェスパシアヌスは『エイボンの書』を召喚する
13番区画北西部でティトゥスが虚空を斬ると時空の切れ目から『屍食教典儀』が出てきた
13番区画を取り囲む6つの魔導書と六人の魔術師
星の導きに従い、魔力を発する
この夜、大きな地震がアーカムシティを揺るがした
立っていられないほどの震動だった
九郎とアル・アジフはアーカムシティの先が光に包まれているのを見た
六芒星が出来上がっている
マスターテリオンはC計画の発動を高らかに宣言した
信徒達の大合唱が轟く
激震と閃光が収まり、次に来たのは闇だった
空が埋め尽くされていた
ブラックロッジの伏魔殿、夢幻心母が広域に渡り空を覆っている
地震によって崩壊している街をマギウス・ウィングで翔る
真っ先に教会へ行き、ライカと子供達が無事か確認したかったのだ
今の九郎は失う事を酷く恐れている
ライカ達と合流出来たので気持ちが落ち着いた
負傷もないようである
上空からマスターテリオンがアーカムシティの全住人に向かって演説を始めた
皮肉の篭った謝辞を言い、生贄となって貰うことを伝えた
アーカムシティに爆発が起こった
破壊ロボの大群が目に留まるものを破壊していく
空間転移してきた破壊ロボが九郎達の前に現れた
拳で急襲してくる
ライカ達を体で押し退けて自分も跳んで躱す
破壊ロボのコックピットに乗っかり、クトゥグアで撃つとハッチが破壊された
搭乗者の姿はなく、操縦桿が勝手に動いている
無人機のコンソールを手当たり次第破壊したら活動を停止した
ライカにシェルターに避難するように伝える
今の九郎は戦うことに疑問を感じていた
煩慮しているところへアル・アジフの叱咤が飛んで思考のループから抜ける
軍の戦闘機が夢幻心母に向かって飛行する
攻撃機の両翼に備え付けられたミサイルが一斉に発射されるが魔術障壁でダメージが通らない
居城から数多の飛行型破壊ロボが出撃して戦闘機を撃ち落とす
空軍の首尾は芳しくない
陸軍も地上に蔓延る多数の破壊ロボに蹂躙されていた
軍の戦力が当てにならない今、頼れるのはデモンベインだけだった
九郎はデモンベインを喚ぶことに躊躇っていた
直近のエンネアの死が想起されてしまうのである
九郎が逡巡している時間にも人々は無惨に殺されている
否が応でも招喚するしかなかった
街の英雄たるメタトロンも破壊ロボの掃討を行っていた
騒動になれば動く事を想定してかサンダルフォンがやって来た
白き天使の武装と黒き天使の武術がぶつかり合う
破壊の嵐と化していた
デモンベインは地上と空中にいる破壊ロボに梃子摺っていた
本来ならば何千、何万束になったところで取るに足らない敵なのだ
予想以上にエンネアの死が九郎に鬱積していた
デモンベインを動かす度に最期の記憶が再生される
とうとう棒立ちになってしまう
頭では戦わなければならないことが分かってるのに体が言うことを利かない
申し訳なく謝る九郎にアル・アジフも口を噤んでしまった
「――どうした?何を腑抜けている?」
冷たい声が響く
紅の巨人がデモンベインの前に舞い降りた
マスターテリオンとエセルドレーダが九郎を見下ろす
二人が乗っているのはリベル・レギスの掌
この前戦った時は腕しか見えなかったが今は全形を露わにしている
九郎の無様な体たらくを見て落胆する
デモンベインの背後に巨大な十字架が現れる
リベル・レギスの周囲で焔が燃えて7本の金色の剣となり飛来する
十字架にデモンベインを縫い付けた
そしてC計画の真の姿を披露する
エセルドレーダが深きものどもと同じ呪文を唱える
インスマウスでの実験はこの計画のためにあった
要するに神の招喚を行うのだ
その生贄となるのが夢幻心母だった
"C"計画、大いなるC
CはCthulhu(クトゥルー)を意味していた
太古、太平洋上に浮かんでいたという幻の大陸ルルイエと呼ばれる石造都市を築き、この地球に君臨していたと言われている
ルルイエで永劫の眠りに就いているクトゥルーを呼び醒まそうというのだ
混沌とすることは必至だがマスターテリオンそうなっても構わないとと言う
リベル・レギスが片方の手を空に掲げた
エセルドレーダと逆十字が唱える呪文がリベル・レギスに輝きを齎している
手に収束した光が柱となって夢幻心母を撃つ
夢幻心母全体に光が広がっていく
人々は変質していくのを見ていることしか出来なかった
夢幻心母に肉の枝が伸びていき、僧院内部にいる者を貪っていく
アーカムシティ上空に現出したクトゥルーは無数の触手を生やした蛸のようである
合衆国ではクトゥルー対策の協議が行われていた
大統領の決断で核ミサイルの使用が許可される
発射されるとすかさず九郎達に司令室から連絡が入った
しかし逃げようにもマスターテリオンの術によって磔にされている
合衆国はアーカムシティごとクトゥルーを葬るつもりだ
身動きが取れない九郎を冷笑しながらもマスターテリオンは目障りだと判断したようだ
リベル・レギスは瞬間移動し、核ミサイルの進行方向の先に出現する
そして生身のまま身を投げ出すマスターテリオン
驚くべきことに核ミサイルを手で掴み、何事も無かったかのように上に立つ
クトゥルーに核ミサイルが接触する直前、先端から徐に消滅していく
マスターテリオンの魔術が原子分解を引き起こしているのだ
核ミサイルですらマスターテリオンを倒すことは敵わないのである
足場がなくなってクトゥルーの上に降り立つ
呵々大笑しながら踊って歌い始めた
瑠璃は今更ながら鋼造が戦っていたものの正体を知って愕然とした
アル・アジフが九郎を鼓舞する
「独りで抱え込むな。苦痛も悲しみも後悔も
我等2人で分かち合おう。
我等は戦友。我等は盟友。
我等は比翼の鳥。我等は連理の枝。
共に魔を断つ剣を執ろう。
共に闇黒を踏破する路を征こう。
大十字九郎。我が主。
妾は汝を敬愛し、信仰する!」
戦いに巻き込んだ張本人が言う台詞ではなかったが九郎の魂に灯火が宿った
重見天日の兆候ここにあり
魔術師に絶対の法則はない
総ての法則には破る式が存在する
式を解読し十字架の呪縛から逃れる
とことんやる気になった九郎は破壊ロボに向き直る
クトゥグアとイタクァを召喚して無造作に連射する
破壊ロボの大群を木っ端微塵にしていく
襲われている治安警備隊の元へ駆け付けた
瑠璃に通信を入れ、レムリア・インパクトの承認を得る
右掌を破壊ロボに当てて、すぐ次の破壊ロボの元へ移動する
全部の当て終わったら"レムリア・ディレイ・インパクト"で一斉昇華
全滅させたのを確認して次の場所へ向かった
移動途中に上空から飛行型破壊ロボが50機ほど襲来してきた
アトラック=ナチャで一切を束縛する
その間に魔銃を天高く放り上げ、回転して落ちてくる間に『The minions of Cthugha』と『Wendigo the Blackwood』の弾丸に編み上げた術を送り込む
魔弾を魔銃に装填して撃つ
神獣形態となったクトゥグアとイタクァが銃口から発射された
弾丸とは違い神獣化した二つの力は絶大
破壊ロボの集団を破壊し尽して余剰エネルギーとなり上空で交わって爆発する
砕け散った魔力が破壊の雨となってアーカムシティに降り注ぎ、街に蔓延している破壊ロボを撃ち抜いて粉砕する
クトゥルーの上に立つマスターテリオンに向かって意気軒昂に吠える
マスターテリオンが嬉々としてリベル・レギスに乗って降下してきた
着地と同時にデモンベインを走らせる
右掌を突き出し、レムリア・インパクトを放つ
リベル・レギスもまた右手刀を突き出し、ハイパーボリア・ゼロドライブを繰り出した
危険を察知して回避を優先した
極低温の大気がデモンベインの装甲を灼いた
レムリア・インパクトと対極を為す、リベル・レギスの奥義である
無限熱量vs絶対零度
一撃必滅同士の戦い
2機は同時に駈け出したが急停止する
両機を取り囲むように6機の鬼械神が降下してきたのだ
一体一体がデモンベインに匹敵する強さを持つ
1対7では話にならない
予想に反してマスターテリオンは不服そうだった
アウグストゥス曰く、勝手な判断で割り込んだとのこと
リベル・レギスのハッチが開き、マスターテリオンが姿を現す
表情からあからさまに不機嫌なのがわかる
下がるように命じても退却しない
そして目を疑うような光景を見る
卒爾、鎧武者型の鬼械神がリベル・レギスを袈裟斬りを仕掛けたのだ
刃が深く刺さり紫電が出る
操者はティトゥスだった
マスターテリオンが咎めるが何食わぬ顔をしている
ハイパーボリア・ゼロドライブを使おうとすると今度は竜巻がリベル・レギスの腕を捕縛して動けなくした
クラウディウスのロード―ビヤーキーの仕業である
謀反が起きていた
六人ともマスターテリオンに楯突いたのだ
カリグラが大声を上げるとクラーケンの鉄腕がリベル・レギスに絡み付いて締め上げる
冷淡な声で逆十字達を脅すが気に留めない
6体の魔力が急激に高まり始める
側杖を食うのは御免なので九郎は急いで離れる
直後、逆十字の攻撃によってリベル・レギスは大破した
爆発に放り投げられるマスターテリオンとエセルドレーダ
アウグストゥスが操る金色の機体が二人に照準を合わせる
高出力のビームがマスターテリオンとエセルドレーダを塵と化した
最強最悪の魔人の拍子抜けするような最期だった
アウグストゥスは夢幻心母にいる信徒達に行為の正当性を主張し、あたかもマスターテリオンが悪者であったかのように仕立て上げ納得させた
当然これで終わりではない
次に排斥の対象となったのはデモンベインである
一目散に逃げるのを追ってくる逆十字
メタトロンは九郎の危地を救うために戦線離脱しようとするがサンダルフォンが立ちはだかる
彼は他の者との戦いよりもメタトロンに固執していた
ロードビヤーキーの真空刃が飛んで来る
ビルの影に入って回避したらベルゼビュートが瘴気に塗れた両腕を突き出して突進してきた
ニトクリスの鏡で光源を作り、目眩ましを掛けてからクトゥグアをフルオートで射撃
全弾撃ち尽くす
ベルゼビュートが爆炎に飲み込まれた
いつの間にか背後に鎧武者型の鬼械神『皇餓』が立っていた
2本の刀が振るわれる
機体を捩らせる間に合わず、左腕は切断された
捻った勢いを使って機体を回転させてアトランティス・ストライクを放った
皇餓は吹き飛んだがガードが間に合ったのか損傷はない
ウェスパシアヌスの鬼械神『サイクラノーシュ』の下部にある人の顔のようなおのが高速で呪文を唱え、魔術が具現化した
半人半機の巨人が3体顕現する
デモンベインを包囲し、三角形のリングを形成
哀惜と慟哭の雄叫びがデモンベインを襲う
結界を崩すために1体にバルカンを発射すると少し緩む
僅かな隙を見逃さす新しいマガジンを召喚して魔銃を介さずに莫大な魔力を注ぎ込んだ
大爆発が起こり三人の巨人は靄となって消えていく
ただし今のでデモンベインも巻き込まれてダメージを受けた
間を置かずして地中からクラーケンの2本の腕が出てきてデモンベインを捕らえる
腕の圧力に加え、ロードビヤーキーのライフル射撃でどんどん部位が破壊されている
決定的な敗北が訪れようとしていた
6体の鬼械神がデモンベインを囲む
嘲りを含んだアウグストゥスの声がチェックメイトを告げた
金色の機体から鮮烈な光が放射された
デモンベインが閃光に消える
サンダルフォンと暢気に戦っている場合ではなくなったメタトロンは必殺のビームサーベルを繰り出す
躱したものの装甲が裂けて血が吹き出した
落ちていくサンダルフォンを放置してメタトロンは九郎達の所へ向かった
地面に叩き付けられる寸前で体勢を立て直して着地
蔑ろにされたことに業を煮やす
そこへウェスパシアヌスから通信が入り帰還命令が下る
メタトロンを追跡したくて仕方がないが逆十字を敵に回すのはデメリットしかないので退いた
街を抉ったアウグストゥスの鬼械神の破壊力は凄まじかった
射線上のビルが融解して蒸発していた
無論、デモンベインも跡形すら残らなかった
アウグストゥスは夢幻心母に帰還して信徒達にC計画の引き継ぎは逆十字が行うと宣言
いけしゃあしゃあとマスターテリオンを大罪人扱いにして成り代わった
統制されたブラックロッジの面々の中に唯一人の例外がいた
エレキギターを大音量で掻き鳴らし、ウェストがアウグストゥスの前に立つ
率直に言うと逆十字のやり方に虫唾が走るのだった
ウェストがまだ喋っているにも拘わらず、アウグストゥスは腹部にナイフを突き立てた
引き抜くと大量の血が零れ落ちる
倒れ込むウェストを見て付き添っていたエルザが抱き留める
不穏分子は即座に処断しなければならないと考えているアウグストゥスは彼女諸共始末しようとした
エルザは手榴弾を床に叩き付ける
その場に居た者が思わずフラッシュから目を背ける
光が収まったかと思うとウェストとエルザの姿は消えていた
こうして反逆者となった二人は夢幻心母から逃走したのだった
九郎はアル・アジフの記憶を追体験していた
目が覚めるとデモンベインの格納庫にいた
死を覚悟した刹那、アル・アジフが九郎の目に立ち塞がりデモンベインごと光に包まれた
そして現在に至る
ところがアル・アジフの反応がなく、ぐったりしている
背中を見れば血で真っ赤に染まっていてる
体の後ろ半分が失くなっていて背骨が剥き出しになっていた
儚い光がアル・アジフを包み込み、体を構成していた粒子となって消失した
光の残滓と共に魔導書の頁がひらひら宙を舞う
足元には古ぼけた本が一冊残されているだけだった
九郎の哀哭が格納庫に響き渡った
アル・アジフは「死んだ」のだ
九郎のマギウス・スタイルは解けてただの人間となっている
魔導書からは何の力も感じられない
魔銃クトゥグアと魔銃イタクァが転がっていたがもう魔術刻印が浮かんでいない
アル・アジフを媒介として力を発揮していた神獣も原書の生命活動が失われれば取りも直さず効力を失う
拳銃を手に取ってコックピットから這い出そうとしたが九郎も重傷だった
バランスを失い、装甲の上を転がり落ちる
ウィンフィールドが落下する体をしっかりと受け止めた
総出で迎えたが九郎は完全に逆上していた
逆十字を絶滅させることしか頭になかった
命を賭して救ってくれたアル・アジフの仇を取らないと怒りが治まらない
再び立つ心があるというのなら、尚更自重しなくてはならない
今のまま戦っても犬死にすることは火を見るよりも明らかだった
その時、ウィンフィールドの通信機に報告が入る
夢幻心母から一体の飛行型破壊ロボがこちらに向かって来ているというのだ
鬱憤を晴らすには最適の相手だと思い九郎は飛び出した
けれども中から出てきたのは瀕死のウェストを担いだエルザだった
ブラックロッジであることには変わりないので銃口を向けるが彼女は哀願するようにウェストを救って欲しいと言った
エルザの真に迫る顔付きを見て九郎はウェストを助けた
かなり危険な状態だったが一命は取り留めた
エルザからブラックロッジの実情や夢幻心母の構造を聞くことが出来た
ライカ達の無事を確認するため避難シェルターに行ったが皆元気そうにやっていた
子供達は騙し通せたがアル・アジフが死んだことを察したライカ
彼女を不安にはさせまいと笑顔を作り別れた
今自分に出来ることをやるしかない
九郎は施設を歩き回り、魔導研究所に行った
図書室から魔導書を少々拝借し、錬金術研究所でイブン・カズイの粉薬の材料を調達
アル・アジフの本体である魔導書『アル・アジフ』に目を通し、記された調合法通りに作る
武器庫に行って拳銃の弾丸を探して薬莢の中にイブン・カズイの粉薬を混ぜ込み元に戻す
1マガジン揃ったところで弾丸にクトゥグアとイタクァの魔術文字を刻み込む
別の武器庫へ行くとバルザイの偃月刀が置いてあったので戴く
最後に黒い外陰を纏って準備完了
格納庫に足を運ぶとデモンベインが恐るべき早さで修復されていた
全壊と言ってもいいほどだったのに元通りに状態になっている
異常とも思える修理速度を実現させた功労者が何を隠そうドクター・ウェストだった
相変わらず奇々怪々な事を呟いているが彼の辣腕ぶりには驚かされた
最早ウェストにとっても逆十字は敵となっていたので共同戦線を組むつもりでいた
さらにデモンベインのコックピットをマギウス・スタイルでなくとも操縦出来るように改造していた
デモン"ペ"インと同じ理論を応用している
ウェストが乗っていた折は断片だったが今回はアル・アジフの原本を使用する
ナビゲート席のエルザを介して情報をデモンベインに伝達
これもウェストの天才的な頭脳が為せる業である
意想外な形で反撃のチャンスは到来した
ブラックロッジの第2波が覇道財閥の地下施設に攻撃を開始
破壊ロボ100機による空爆が行われる
33番区画のゲートからデモンベインが出撃した
逆十字にざわめきが走った
倒したはずのデモンベインが強壮な姿で戦っているからである
ウェスパシアヌスは鋭い洞察力で死霊秘宝の気配が希薄だ言った
カリグラがデモンベインを討ち倒したいと言い出したのでアウグストゥスは許可した
水柱が噴出して巨大な渦となり爆砕するとクラーケンが招喚された
2本の腕が飛んで来たの時空間歪曲で一息に距離を詰めアトランティス・ストライクを叩き込む
奇襲されたクラーケンは吹き飛ぶ
起き上がったが攻撃してこずに様子見をしている
エルザは魔導書を誤認させるためのダミーとしてのシステム
アトランティス・ストライクはデモンベインが元々持っている武装だから使えるが、『アトラック=ナチャ』『ニトクリスの鏡』『バルザイの偃月刀』『クトゥグア』『イタクァ』はアル・アジフの記述なので使うことが出来ない
バルカンやレムリア・インパクトは使用可能である
縦横無尽にしなりながら追尾してくるクラーケンの腕を掻い潜るが以前のような機動力を発揮できない
地面を這って迫る腕に捕まってしまうが十字断罪によって切り落とされる
デモンベインの危機を救ったのはメタトロンだった
この機会を活かしてクラーケンを上空から強襲
馬乗りになった体勢からレムリア・インパクトを使おうとするが魔法障壁を展開されエネルギー波で弾かれる
魔力回路の一部に混乱が生じた
システム復旧までの時間を稼がなくてはいけない
メタトロンがカノン砲で援護してくれている間に昇降機の場所まで走り、一度回収して貰う
カリグラは態勢を整えてから出て来るのを待っていた
数分の時が流れ、高層ビルが二つに割れて鋼鉄の巨体が飛び出す
それに合わせてカリグラが巨大な氷山を頭上に創り出した
氷のハンマーが機体を叩き潰して粉微塵になった
然れどもその機体はデモンベインではなく破壊ロボだった
ウェスト達が夢幻心母から持ち出した破壊ロボをフェイクとして先行させ相手の大技を誘う
本命のデモンベインは後から脚部シールドのエネルギーを爆発させ飛び出す
必殺技を使用した直後なので魔法障壁の即時発動が出来ないクラーケン
囮に気付いた時には既に遅かった
回避不能の位置からレムリア・インパクトを撃ち込む
無限の熱量がクラーケンの内部を喰らい尽くす
司令室にて字祷子反応の消滅を確認
昇滅完了と共に歓声が轟いた
瑠璃達の心に再び希望の光が宿った
魔を断つ剣はまだ健在していたのだ
ブラックロッジ打倒の狼煙がここに上がった
逆十字を一人倒したことにより本腰を入れて攻めてくるに違いない
そんな事を考えていると俄にアラーム音が鳴り響く
マコトから逆十字が基地内へ侵入したと報告が入った
厳戒態勢を敷いていたが潜り抜けてきていた
覇道邸襲撃の時と同じく、複数人であることがわかる
最高レベルの迎撃システムを用いても侵攻を抑えることが出来ない
九郎とエルザは出向くことにした
通路の壁が血で染められている
人間の部位がそこら中に飛び散り、死屍累々の様相を呈していた
惨劇の中心に立つはクラウディウス
九郎の姿を認知すると鎌鼬が飛んできた
身を屈めて回避し、二挺の拳銃を同時に抜いて発砲
反動で尻餅をついてしまったが肝心の弾丸は当たっていない
クラウディウスの手の指間に数十個のベーゴマが挟まれている
あらゆる角度から迫り来るベーゴマをエルザがトンファーで叩き落とす
十字に放たれた風刃が通路を目一杯に占領しつつ襲い来る
エルザはウェストから貰った魔法陣が顕れる特殊な手榴弾を風に向かって投げつける
それで凌いだかと思っていたら爆発の中から勢い良くクラウディウスが飛び出してきた
エルザに伏せるように命じ、九郎はクラウディウスに向かって全弾撃ち込む
風の結界によって軌道を逸らされるが貫通力のあるクトゥグアの弾丸の一発が突破した
顔に向かって飛んで来る弾を首を傾けて逸らした
その隙にバルザイの偃月刀を手にして駆け出す
振り下ろされた一撃をクラウディウスは懐から取り出したけん玉で防いだ
二人の激しい攻防にエルザも2本のトンファーを使って援護する
クラウディウスは3つの攻撃をけん玉1つで防いでいたがどんどん動きが鈍くなっている
エルザの踵落としが肩に食い込んだの確認してからバルザイの偃月刀で首を刎ねようとしたが敏捷な動きで避けられる
小馬鹿にするように刀身の上に立ってみせるクラウディウス
全身から噴き出す烈風が九郎とエルザを斬り刻む
ここまで戦ってみてマギウスにならない上に死霊秘宝の姿が見えないことからクラウディウスもアル・アジフが死んだことを如実に感じ取っていた
彼女を馬鹿にされて怒りに頭が真っ白になってバルザイの偃月刀を振るうが当たらない
けん玉から弾が放たれ九郎の腹を撃つ
吐瀉物を撒き散らして膝を突いた
ティベリウスは避難シェルターを襲撃していた
妖蛆の秘密を読み上げる
唱え終わるとティベリウスの体が血の海の中に沈んでいく
中年の男を鉤爪で殺す
シェルター内が断末魔で満たされる
警備兵達が一斉に集まりティベリウスに対してマシンガンで攻撃
数千発の弾丸が撃ち込まれ、臓物が飛び散る
原形がわからなくなるくらいまで徹底的に射撃し、死亡を確認してから銃を下ろす
確実に殺したと思っていたはずのティベリウスが喋り出す
牙の生えた腸が蛇のように動いて警備兵達を惨殺する
恐れを抱いた住民達が一斉に出口に殺到する
人の波に押し潰されそうになるジョージ、アリスン、コリンをライカは守った
ティベリウスの目がライカ達に留まり、触手が襲い掛かってくる
危機一髪のところで治安警察のストーンとネスがマシンガンと電磁警棒でティベリウスを一時的に無力化した
急いでここから脱出するが先に逃げ出した避難民の悲鳴が聞こえてくる
前方にも敵が待ち構えているようだ
やってきたのはさっき避難したはずの人間だが様子がおかしい
皆、致死しているのに動いてるのだ
ストーンがマシンガンと手榴弾でゾンビとなった住民を蹴散らす
それでも数が多すぎて切りがない
復活したティベリウスが追い付いてきてストーンを触手で締め上げる
皆を不死者としたのは妖蛆の秘密の力だった
一同は触手に絡め取られて繋縛される
一髪千鈞の状況、輝く天使の羽根が舞う
ティベリウスの背筋を悪寒が駆け抜けた
司令室にも脅威が迫っていた
外敵の侵入を防ぐためのゲートが人の通れる程度の大きさに切断される
その向こうにティトゥスは立っていた
警備兵達が逡巡することなく銃を構えるよりも遥かに速い速度でティトゥスは動いていた
敏速な動作で脇を抜けると警備兵達が断首されていた
ティトゥスの目的はただ一つ
戦士と認めたウィンフィールドと戦うことのみ
それ以外のことはどうでもよかった
指名されたからには戦うのが礼儀
ウィンフィールドはファイティンポーズを取った
ティトゥスが踏み込むよりも速く間合いを詰めて拳の連打を行う
出鼻を挫かれる形となった
ボディブローで端まで吹き飛ばされるが壁を足場にして跳躍し、真上から斬り掛かる
バックステップで躱すウィンフィールド
ティトゥスの4連撃の最後を歯で受け止めるという離れ業を披露した
無手になったティトゥスが両掌を広げると刀が生えてくる
出てきた二刀を手に取り再び対峙する
二人の闘気が最高潮となり攻防が始まろうとする間際にになってウィンフィールドが両腕を垂れ下げ脱力した
ティトゥスはそれを"無為の構え"と読んだ
相手に自分の行動を予測させない一つの戦法だ
敢えてそれに挑戦し、神速の走法で神速の斬撃が繰り出される
ウィンフィールドは微動だにしない
「奥義――全休符・無音」
ティベリウスはメタトロンに圧倒されていた
ライカ達を追い詰めていたティベリウスの前にメタトロンが現れた
触手で応戦するもビームセイバーで全て切り落とされる
臓腑を絡み合わせて1本の槍としてメタトロンを襲うが間合いを詰めてきて躱される
ビームセイバーがティベリウスを袈裟斬りにする
肩から心臓を経由して反対側の脇腹から抜けた
左腕をガトリングガンに変形させて両断された体を撃つ
原形を失ったが時間の経過が千切れた部位が集まり再生し始める
右腕をカノン砲に変形させて肉片を残さないように消し飛ばそうとしたところでティベリウスは形勢不利と判断したのか退散した
九郎の息の根を止めるためにクラウディウスがけん玉を振り上げると足場が崩れ黒い棺桶が飛び出してくる
棺桶に顎を打たれて仰け反った
術式魔砲「我、埋葬にあたわず」がエルザの手に渡る
魔砲をクラウディウスに向けて撃つ
防禦陣を展開させるが貫いて直撃する
ここが攻め時と見たか一気呵成に撃ちまくる
九郎もクトゥグアとイタクァで援護する
爆炎を凄風が霧散させクラウディウスが憎々しげに九郎とエルザを睨む
頭に血が上っているこの時が狙い目だと思った九郎は先程撃ったイタクァの弾丸と精神をリンクさせて操作する
担板漢となっているクラウディウスに曲がる弾丸に気付ける余裕がなかった
背中から右脇腹を貫通した
心臓を狙うのが最良ではあったが今の九郎ではこれが限度だった
クラウディウスが吐血してその場に倒れる
のたうち回る彼に九郎もエルザも殺意を込めて終わらせようとしたが風が爆ぜる
二人が遠くに飛ばされているうちにクラウディウスは逃奔しようとしていた
ウィンフィールドが瞳を開けるとティトゥスが高く舞っていた
翻筋斗打って壁に激突して多量の血を吐く
生きているのが不思議なくらい激烈なクロスカウンターが決まった
それでもティトゥスの戦意は失われていなかった
口から血が溢れ、足が震えていても彼は好敵手と出えた事に喜びを感じていた
動く事すら危うそうな体が疾走った
二人だけの熾烈な戦いが始まる
疾風迅雷の剣撃を捌き、ティトゥスに生じた極僅かな隙に合わせてアッパーを放つ
これが致命打となるはずだった
しかし予期せぬ方向から刀が飛んで来ていた
感知した時には手遅れでウィンフィールドの意識は断絶した
重傷を負っているはずのクラウディウスだが風の魔力で飛翔しているため中々追い付けない
エルザに引っ張って貰って加速する
進行方向から察するにデモンベインの格納庫に向かっている
乗り込む前に破壊する魂胆だ
イタクァを撃って足止めしようとするがベーゴマが投げつけて邪魔をしてきた
エルザは仕方なく立ち止まり魔法で防いだが一連の動作でクラウディウスとの距離が開いてしまった
格納庫に到着したクラウディウスが勝ち誇ったような笑みを浮かべ、デモンベインを破壊しようとした
藪から棒にハッチが開くとギターケースを構えたウェストが出てきた
ロケット弾が発射されクラウディウスに命中
爆破に巻き込まれつつも、ヨーヨーで逆襲に転じようとするがエルザと九郎が追い付いた
「我、埋葬にあたわず」で撃ち落とす
退っ引きならなくなったクラウディウスで場所など構わずロードビヤーキーを招喚する
格納庫で台風が起こって機材が巻き上げられる
九郎達は飛ばされそうになるのを必死で堪えた
ロードビヤーキーに光の粒子となって吸い込まれていくクラウディウス
手に持ったライフルでデモンベインを狙う
絶体絶命の事態を救ったのはオペレーターのチアキだった
デモンベインを乗せていた輸送車を遠隔操作で急発進させてロードビヤーキーに体当たりさせる
想像以上に衝撃が大きかったため、すぐに起き上がれないロードビヤーキー
デモンベインはしっかり固定してあったので無事だった
起き上がったロードビヤーキーが再度ライフルを構えるが今度はその場に駆け付けたメタトロンのビーム砲に阻止される
その間に九郎はエルザに引き連れられてデモンベインへ急ぐ
ウェストと入れ替わりに搭乗
固定装置を引き剥がして起き上がる
立ち上がってロードビヤーキーの顔面に鉄拳を打ち込む
接近したのを良いことにロードビヤーキーがデモンベインに組み付いた
デモンベインを捕まえたまま地上まで急上昇する
アーカムシティの街が眼下に見えるくらいまで高く飛ぶと急降下し始める
地面叩き付けようというのだ
時空間歪曲エネルギーを解放して爆裂させ、ティベリウスの拘束から逃れる
地面に降り立つとロードビヤーキーが鳥の如く上空から猛突進してきた
突撃に合わせてレムリア・インパクトを決めようとするが反応がない
接続不可のエラーメッセージが出ていた
音速を超えた一撃が間近に迫っていた
倒れたウィンフィールドの傍らに返り血を浴びて立つティトゥス
瑠璃の叫声で振り返った
次に狙われるのは恐らく自分達だろうと悟った一同は武器を手に持つ
だがティトゥスは足を一歩前に踏み出したところで前に倒れた
精根尽き果てたのだ
何はともあれウィンフィールドの治療が最優先である
急を要するところへ羽音が聞こえてくる
音に混じってティベリウスの不気味な笑い声が響く
司令室に闇が流れ込んできて充満する
その闇からベルゼビュートが現出した
ロードビヤーキーに激突され転倒するデモンベイン
起き上がろうとするが魔術回路のエラーが発生して回復までに時間が掛かりそうだ
デモンベインを見下ろしながら悠々と近寄ってくるロードビヤーキー
無慈悲にもライフルのトリガーが引かれようとしていた
突如、クラウディウスが間抜けな声を出す
ロードビヤーキーが引き千切られていたのである
機体の上半身だけが遠くに吹き飛んでいく
眼前には残された下半身だけが立ち尽くしている
何が起こったのか困惑していた九郎だったがロードビヤーキーの背後に聳え立つ威容に気付いた
デモンベインの5倍はある特大の鬼械神が見下ろしていた
その圧倒的存在感は神気を発していた
クラウディウスの発言から馬鹿でかいこの鬼械神が『ネームレス・ワン』であることがわかる
搭乗者は『暴君』ネロ
逆十字の一人にしてマスターテリオンと肩を並べる、最強の魔術師
逆十字同士が戦っているのネロが裏切り者だからである
それ故に夢幻心母の牢獄結界の最下層に幽閉されていた
だが九郎を助ける理由がわからなかった
戸惑う九郎を余所にネームレス・ワンはロードビヤーキーの上半身に向けて腕を突き付けた
クラウディウスは死に物狂いで足掻こうとするがその間に術が完成する
「術種選択:魔砲弾(カノン・スペル)」
魔弾によりロードビヤーキーは粉砕された
ネームレス・ワンがデモンベインに向き直る
肝が冷える感覚がマスターテリオンそっくりだった
時間が凍結する
ネームレス・ワンはデモンベインを凝視したまま動かない
エルザが頭頂部に何者かが立ってることに気付いた
遥か200メートルの高みに拘束具で束縛された少女がいた
彼女は口端を歪ませて笑うとネームレス・ワンが光りに包まれる
閃光が少女を呑み込み光の柱と化して消え去った
暫くあっけらかんとしていた九郎だったが正気を取り戻して破損状況を確認
ロードビヤーキーの体当たりで右手が完全に砕けてしまった
ヒラニプラ・システムが起動しなかったことから司令室で何かあったに違いないと思い、連絡を入れようとしたが直感で体が勝手に動いた
脚部シールドを解放して今立っている場所から飛び退く
魔法陣が描かれ、冥府と繋がる深淵よりベルゼビュートが招喚された
地下線路を疾走するメタトロンの前に執念深く現れるサンダルフォン
目視するとメタトロンは躊躇いなくカノン砲を撃った
サンダルフォンが構えた拳をビームに向かって突き出すと消散した
宿命の戦いが幕を開ける
ベルゼビュートに向かってバルカンを掃射するが防禦陣により全然通らない
レムリア・インパクトが使えない現状、頼みの綱となるのがアトランティス・ストライクしかない
断鎖術式解放プログラムを作動させて蹴りつけようとしたが、ベルゼビュートの頭部を見て急遽中断した
十字架が設置され、そこに瑠璃が磔にされていたのだ
身内を盾にされていてはまともに攻撃することが出来ない
悦に入ったティベリウスが哄笑しながらベルゼビュートを近付けてくる
棒立ちのデモンベインの顔面を鷲掴みにしながら魔力の瘴気を流し込まれた
魔術回路が汚染され、逆流する字祷子が操縦室で荒れ狂う
ネロは一人玉座の間を目指していた
コロシアムを思わせる円形の空間へ着くとアウグストゥスとウェスパシアヌスがいた
二人はネロの物々しい雰囲気に尻込みする
アウグストゥスが逆十字と敵対する理由を聞いた
ネロは自分がクトゥルーの巫女として生贄にされることを知っていた
それが既知の事だとわかるとアウグストゥスは凄惨な笑みを浮かべた
二人はネロを捕獲することに決めたようだ
ウェスパシアヌスが人面疽を使った攻撃でネロを爆炎に巻き込む
彼女は衝撃波だけでその炎で消し飛ばす
床が大理石の手の形に姿を変えてネロをしっかりと掌中に収め、握り拳を作ったが拳に罅が入って破壊される
ウェスパシアヌスの術を難なく捌く
ネロに向かってアウグストゥスが放った光の槍が飛んでくる
触れる直前に光は屈折してあらぬ方向へと飛んでいった
アウグストゥスの周りに数十枚の金属板が召喚され、その全てに魔術文字が刻まれていた
文字が発光して板と板の間に光の塊が生じた
光線となり板と板の間を乱反射する
金属板をネロを取り囲むようにテレポートさせると四方八方から光線がネロを狙い撃つ
彼女は深く息を吸うと肺を限界まで膨らませたところで吐き出した
口から闇が放出され全ての光は吸い込まれていった
ネロはクトゥルーを我が物とすることを宣告した
アウグストゥスとウェスパシアヌスには夢幻心母から退去するよう言った
だが圧倒的な力量を見せ付けられても二人は下がる様子がない
ネロが本気の殺意を向けても耐え続けている
彼女は一つ失念していることがあった
ここは邪神クトゥルーの体内なのだ
神気が爆裂し、無数の触手がネロを捕縛する
魔術で消滅させようとするが触れた触手から魔力が吸収されていく
全魔力を吸い取られたネロは指一本動かす気力も残っていなかった
意識が遠退く中、彼女はルルイエ異本の姿を目にしていた
『ムーンチャイルド計画』のナンバー09、最後にして最高傑作『暴君』ネロは彼らの手に落ちた
『Cの巫女』『中枢ユニット』『ルルイエ異本』、三種の神器が揃った事に喜悦を隠しきれないアウグストゥス
真の神が今降臨しようとしていた
交錯する光と闇
サンダルフォンはメタトロンとの戦いに至上の悦楽を感じていた
対峙する度に自身の傷が疼く
戦いに興じるサンダルフォンと戦いを忌むメタトロン
二人はどこまで対にいる
でもメタトロンはサンダルフォンを倒すべき敵として認識しない
彼にとってそれが最も腹立たしいことだった
ベルゼビュートの瘴気は未だにデモンベインを侵し続けていた
各種機関の稼働率がどんどん落ちている
ベルゼビュートはデモンベインを手放すとコックピットである胸部に殴り掛かる
捩らせて直撃を回避した右肩に深々と減り込んだ
それだけでは終わらず、腕に魔術文字が煌めいて爆発を起こした
仰向けになって倒れるデモンベイン
追撃をティマイオスとクリティアスを使って離脱するが、着地も覚束ない
落下の衝撃がコクピットを激しく揺さぶる
ベルゼビュートがゆっくりと近付いてくる
足払いを仕掛けるが人質の瑠璃をちらつかせられると勢いが緩まる
活路を見出すことが出来ないデモンベインを一方的に攻撃するベルゼビュート
拳を翳すとさっきの圧縮された瘴気の塊が出現した
2発目を躱す余裕はない
闇黒が濃度を増していく
そこで脳に響くような怨嗟の声が聞こえた
人々の怨念を喰らって威力を増す、ベルゼビュート最強の呪法兵装、怨霊呪弾
妖蛆の秘密あっての必殺技である
死人使いは人を殺せば殺すほど、怨まれれば怨まれるほど強くなる
大怨霊がデモンベインを飲み込んだ
夢幻心母中枢部、鮮血の海に満たされた神の心臓部にレガシー・オブ・ゴールドとサイクラノーシュの姿があった
ウェスパシアヌスが呪文を唱えるとルルイエ異本と黒い魔導書『無名祭祀書』の頁が混ざり合う
二つの書は二重螺旋を描きながら心臓の元へと向かっていった
心臓の中心部が縦に避けるとネロの機体、ネームレス・ワンが顕現する
コクピット内部には無数の触手が蠢動していた
アウグストゥスがネロを抱えていた腕を放すとネームレス・ワンへと吸い込まれていく
触手がネロを捕まえて内部に引き入れた
ネームレス・ワンから爆発的な魔力が溢れ出すのが感じ取れる
神の心臓が激しく鼓動し、狂気の魔力が邪神の全身を巡っていく
怨霊呪弾の一撃は大地を腐らせクレーターを穿った
クレーターの中心にデモンベインは倒れている
呪弾の衝撃が機体を半壊させ、ヒヒイロカネの装甲も腐食していた
怨念に魂を引き裂かれそうになったが燃え滾った怒りが九郎を生かした
エルザの方は重傷でナビゲート席に凭れ掛かったまま動かない
起こそうとしたが瞳から光が失われている
エルザがいないと魔術書を介してデモンベインを動かす事が出来ない
窮途末路に立たされていた
モニターの前にベルゼビュートが映る
ティベリウスは勝利の余韻に浸るように瑠璃の横にいた
こちらもハッチを開いて乗り出し、二挺の拳銃を向けるが触手が伸びてきて四肢を貫かれる
瑠璃を強姦して晒し者にしようとしているティベリウス
辛うじて動く手首を捻って左手を刺し貫いている触手をクトゥグアで撃つと粉々になった
無茶な構えで撃ったせいで右腕の感覚が無い
自由になった左手でイタクァを連射した
ティベリウスの腹部に1発、顔面に2発当たる
顔を押さえて苦しんでいるうちに触手が引き抜かれる
すぐさまクトゥグアを左手に持ち替えて顔面を狙う
ティベリウスの頭部が破裂して脳漿が飛び散った
不死の相手にこれだけでは露程も安心出来ない
倒れ込むよりも速くクトゥグアを連射する
撃ち尽くす頃には体の半分が消し飛んでいた
これでもまだ足りない
新しいマガジンを装填していると瑠璃から切迫した声が届く
気付いた時にはもうベルゼビュートの鉄拳が目前に迫っていた
そして意識が途絶する
アル・アジフは終わる事を願っていた
無縁の虚空の遥か彼方、孤独の世界のすぐ裏側――蠢く怪異の存在を、迫る脅威の存在を誰も識ることなどない
幾星霜、未来永劫世界と怪異は侵し合う
いつまでも続く、無限の輪に囚われている
瞳を閉じて全てを鎖そうとした
しかし終わる事を許されなかった
古の戦士達がアル・アジフに呼び掛ける
修羅の路が征く先を照らし続けている
疲弊しきった心は堰を切ったように感情を溢れ出す
千年の間、これほどまでに激情に駆られたことはない
声すら持たないはずの骸が謝罪の言葉を投げ掛けてきた
戦いの中にありながら、嘗ての武士達は心を通じ合わせることをしなかった
お互い利用するためだけの契約だったのだ
「彼は違う。
彼はお前の心を満たした。
お前の穴を満たした。
お前は――彼と出会う為、
戦い続けたのだから」
アル・アジフにとって九郎は大きな存在となっていた
漸く自覚すると心が繋がる、戦っているのが分かる
絶望の淵に追いやられても彼は戦っている
そんなもの、その程度の輩、本来の力を持っていれば――妾と汝が2人居れば、何ら怖れるに足らないというのに!
戦わなければと思った時、骸達の姿と血塗れの路も消えている
剣を構えて何も無い空間に斬りかかる
何者かがその場所から飛び退いた
アル・アジフの精神領域に干渉していた強烈な闇の正体はナイアだった
彼女はただアル・アジフを迎えに来ただけだと言う
ナイアの周りを無数の紙片が舞っている
鬼械神アイオーンを操っていた際に失った最後の断章、外なる神々に関する記述
これでアル・アジフは完全体となる
何故ナイアが断片を持っているのかと尋ねるが教えてくれなかった
利害の一致ということにするつもりらしい
頁が飛んできてアル・アジフと融合する
最強の魔導書に相応しい、あらゆる外道の知識を駆る存在を、更なる外道の知識を以って滅ぼし尽くすに充分足る力
視界が薄れ、意識が覚醒していく
最後にナイアを見るとそれはヒトとは到底言えるものではなかった
九郎が意識を取り戻すとベルゼビュートの拳に押し潰されていた
デモンベインに伸し掛かり何度も殴りつける
顔を掴まれ遠くに投げ飛ばされる
諦めずにデモンベインに語りかけるが無反応
ベルゼビュートが止めの怨霊呪弾が放った
今度こそ万策尽きている
大爆発が夜闇を焼いた
ベルゼビュートの高笑いが木霊する
デモンベインを片付け、瑠璃を甚振ろうとするティベリウスだったが彼女の様子がおかしい
目が点になったように一方向を見つめている
何も存在するはずのない場所にティベリウスも同じものを見た
ぼんやりとする意識の中、九郎はアル・アジフの姿を目撃した
死後の世界だから幻が見えても不思議ではないと思っていたが紛れもなく現実だった
ベルゼビュートの怨霊呪弾からデモンベインを守ったのはアル・アジフが展開した防禦陣だった
邪悪を退ける五芒星型『旧き印(エルダー・サイン)』が展開されている
動揺を露わにするティベリウス
九郎の最後まで諦めない心がアル・アジフを再び呼び寄せた
奇蹟などではない、当然の結果だ
アル・アジフが光の粒子となってデモンベインの中になだれ込む
That is not dead which can eternal lie.
――永遠の憩いにやすらぐを見て、死せる者と呼ぶなかれ
And with strange aeons even death may die.
果てぬ知らぬ時ののちには、死もまた死ぬる定めなれば――
光が埋め尽くし、心地好い熱さが傷ついた体を癒やしていく
マギウス・スタイルになると体の奥底から力が湧き上がってくる
半壊していたデモンベインにアル・アジフが搭乗すると失われた腕に細かいパーツが出現し、複雑に組み合わさって腕を形成する
その他の破損している部位も自動的に修復していく
自己修復され万全の状態になった
苛立たしげにベルゼビュートが迷彩兵器スター・ヴァンパイアを射出してきた
避けると何もない空間が爆発する
意識を集中すると不可視の飛来物が視えた
バルザイの偃月刀を召喚して一振りで全部斬り捨てる
魔を断つ剣を前にティベリウスは狼狽していた
窮余の一策として人質の瑠璃を見せびらかす
首に触手を巻き付けいつでも圧し折れるようにしているが以前のような余裕が感じられない
膠着状態に陥ったのを見てメタトロンが瑠璃を助け出そう動くがそれを見過ごすサンダルフォンではない
気で叩き落とそうとしたサンダルフォンをロケット弾の一撃が襲う
ウェスト、ストーン、ネスの三人が乗っていた装甲車から放たれたものだった
負傷こそしなかったが目障りなのは確かだった
三人はサンダルフォンから急いで離れた
飛翔してきたメタトロンが瑠璃を奪還する
激憤して地団駄を踏むティベリウス
後顧の憂い無く攻められるようになったので一瞬で間合いを詰めてバルザイの偃月刀で斬り付ける
ベルゼビュートは綺麗に左右に分かれて切断された
ティベリウスが飛び降りようとしている所へクトゥグアの銃口を合わせ撃つ
魔弾がティベリウスを巻き込んで爆音を立てる
上空を見上げると旧支配者クトゥルーが確認出来る
手を拱いて待っているわけにもいかない
一刻も早くあの肉塊を処分しなければならない
そう思い動き出そうとした矢先鳥肌が立った
メタトロンは避難シェルターの入り口近くまで瑠璃を運んだ
待ち兼ねていたようにサンダルフォンが降りて来る
メタトロンの装甲が音を立てて変形する
溢れる光が後光となってメタトロンの体を輝かせていた
天使王さながらの荘厳さを纏うメタトロンにサンダルフォンも本気を感じ取ったようである
死闘の幕開けだった
破壊されたはずのベルゼビュートが物凄い勢いで腐食している
まだ斃したわけではなさそうだった
腐敗する機体が爆ぜると大量の蝿で形作られた黒い群雲が出来ていた
断末魔の絶叫と共にまたしても怨霊呪弾が発射される
旧き印で防禦陣を展開して耐える
周囲の建造物が汚染されていく中、デモンベインだけが清浄だった
全くの無傷である
九郎はティベリウスに憐れみすら抱いてた
そうして死ねない彼のために死を用意することを決意した
アル・アジフの体が電撃に撃たれたように跳ね上がる
九郎は異形の聲を聞いた
自我が闇に落ちていく
闇黒の中に一粒の光が生まれ手を伸ばす
それは光の匣だった
蓋が独りでに開くと中身が覗けた
7本の支柱に支えられた、黒い結晶体がある
明らかに鉱物でありながら同時に脈動する生命の生々しさを兼ね揃えていた
蓋が開けられた事で光が爆裂した
人間の理解を超えた異形の聲を聴いた
異界の呪文は軈て意味の分かる言葉へと変換されていく
輝く(Shining) トラペゾヘドロン(Trapezohedron)
レムリア・インパクトのエネルギーを込めた右掌を突き出すとブラックホールが現出する
目の前に次元の裂け目が広がり、その先にある物体を手に取り引きずり出す
刃の無い神剣のようである
シャイニング・トラペゾヘドロンがデモンベインに莫大なエネルギーを供給する
気を抜けば暴発しかねない魔力を秘めていた
それをティベリウスにぶつけようと試みる
蝿の群れの中心に球状の物質があった
ベルゼビュートのコックピットだけが蝿の群れの中に浮いている
シャイニング・トラペゾヘドロンを撃つと闇と光が混じり合って空間を侵略する
虚空に亀裂が生じて異次元へと吸い込まれていくティベリウスとベルゼビュート
裂け目の向こう側は深淵
穴の中から無数の光と闇の手が現れ、引きずり込んでいった
完全消滅すると同時にシャイニング・トラペゾヘドロンも光となって消える
デモンベインだけを残し一切合切が裂け目の向こうへと消えた
全てを見守っていたナイアは泣きながら笑っていた
長きに渡る宿願を叶えた者の、純粋な感動の涙だった
アウグストゥスは光景を見て戦慄していた
紛い物の鬼械神の力とはとても思えない
あれはまるでマスターテリオンである
自分達が倒したはずの大導師が脳裏を掠める
想定外の事態の連発に取り乱していたアウグストゥスをウェスパシアヌスが落ち着かせるが焦燥感は消えない
呪文を唱えるとクトゥルーの咆哮が世界を震撼させる
無数の触腕が動き出す
アウグストゥスはクトゥルーを制御出来ている事に愉悦を感じていた
統一性を得て同時に動く触腕がアーカムシティに向けて顎を開いた
そのうちの一本がデモンベインに牙を向ける
破壊の劫火が降り注いだ
猛烈な重力が九郎の全身をあらゆる角度から殴りつけた
神気の嵐が機体のすぐ横を通過していった
白く霞む視界に消し飛ばされる街を見た
街が小さくなっていくのを見て飛んでることに気付いた
アイオーン用飛行ユニット『シャンタク』
アル・アジフが完全に力を取り戻したことでデモンベインでも召喚出来るようになった
鋼鉄の鱗を幾重にも重ねたような形状の物質
外陰のように背中から翼が広がっている
飛行ユニットがあれば上空にあるクトゥルーにも攻め入る事ができる
シャンタクを使って一気に駆け上る
アウグストゥスとウェスパシアヌスが驚愕した
同時に振り下ろされる無数の触腕にクトゥグアの神獣形態で迎撃しようとしたところで何者か声が聞こえた
九郎は何処かの世界の記憶を幻視する
茫洋過ぎて理解の範疇を超えていた
世界が極彩色の光に包まれ、クトゥルーはその場から瞬時に消滅した
天上にはただ夜空が広がるだけだった
メタトロンと戦っていたサンダルフォンも同時に消失していた
一体全体どうなってるのかさっぱりだった
ベルゼビュートと戦ってからずっと気絶していたエルザがウェストの調整で息を吹き返した
ティトゥスとの戦いで大怪我をしたウィンフィールドがよろめきながら歩いてきた
倒れそうになる体を受け止める九郎
是が非でも伝えたいことがあるというのだ
用件だけ話すと気を失ってしまった
破壊された司令室に代わって臨時に設置された作戦室でクトゥルー発見の報告を聞いた
ニューヨーク上空に出現報告があった
アーカムシティからニューヨークまでを空間転移していたのである
クトゥルーによって大打撃を被った合衆国は国家としての機能を失っていた
クトゥルーは現在移動中で南緯47度9分、西経126度43分を目指していた
そこにあるのは海底都市ルルイエ
海中に眠っている大陸規模の大きさを持つ都市を浮上させるつもりだ
何としても阻止せねばならない
最終決戦が間近に迫っていた
基地内の居住スペースに保護されているライカ達の様子を見に行く
ライカは負傷してベッドで横になっていた
今回の損害は子供達に多大な衝撃を与えたようだった
子供達を励ますように意気込む九郎
ライカは九郎が抱えているものの大きさを悟った上で戦いに送り出してくれた
瑠璃は九郎とアル・アジフに未来を託し、ナアカル・コードの解除キーを手渡してくれた
これで瑠璃の承認無しでもレムリア・インパクトが撃てる
大海原に鋼の群れが結集していた
空母31隻
巡洋艦54隻
駆逐艦、護衛艦の総計は900隻以上
総計、1000隻に及ぶ艦艇の大艦隊
ルルイエの浮上が人類の破滅を意味することを理解した世界各国が持てる海軍力の全てを南大西洋に投入していた
クトゥルーが近付いてくると艦隊戦が始まった
髭のような触腕を蠢かすだけで数十の戦艦が津波に飲み込まれる
空母から戦闘機が発進し、ミサイルの雨がクトゥルーに向かって降り注ぐが邪神が大きすぎてささやかな爆発だった
クトゥルーの頭頂部に埋まった夢幻心母から大量の破壊ロボが出てきて戦闘機と交戦始めた
潜水艦隊は現れた深きものどもの襲撃を受けている
水平線が迫り上がったかと思うと大津波がやってくる
クトゥルーが海神ダゴンとヒュドラの大群を喚び出し、大海を覆い尽くす
戦力差が歴然だったところへ、満を持してデモンベインが駆け付ける
クトゥグアを神獣形態で放出すると書くにも匹敵する熱量が海魔の軍勢を嘗め尽くした
神獣弾一発で三分の一が消滅
シャンタクで飛びながらバルザイの偃月刀を実体化し、一体のダゴンをバターのように切断する
それを皮切りに一斉に飛び掛かってくるダゴン
バルザイの偃月刀をブーメランのように投擲する
回転鋸と化して迫り来るダゴンを斬り裂いていった
バルザイの偃月刀が戻ってくるまでにイタクァを招喚する
こちらも神獣弾として撃つ
海面を擦れ擦れで飛ぶイタクァがダゴンの群れを氷結させていく
クトゥグアをおまけで追加し、灼熱地獄と氷結地獄が海魔を蹴散らした
瑠璃から通信が入り、残りの敵は連合艦隊で引き受けてくれるらしい
クトゥルーを可能な限り早く倒すことが、延いては皆の安全にも繋がる
夢幻心母へとシャンタクをフルパワーで起動して翔けた
襲い来る触腕をクトゥグア、イタクァの神獣弾同時撃ちで破砕して辿り着く
メタトロンとサンダルフォンはイタクァが凍らせた氷上で相対していた
双方の仮面は剥がれ落ち、素顔を晒しながら戦いあう
決着の時が近付いていた
夢幻心母に到着したデモンベインは破壊ロボを出現させるゲートへと突っ込む
出て来る破壊ロボにアトランティス・ストライクをぶちかましながら突貫した
破壊ロボの格納庫らしき場所に出た
所有武装を惜しみなく使って薙ぎ倒す
破壊ロボの残骸を斬り裂いてティトゥスが鬼械神、皇餓をに乗ってやってきた
彼にとってウィンフィールドを倒した今、乾きを癒やしてくれるのは九郎とアル・アジフ、そしてデモンベインだけなのだ
クトゥグアとイタクァを構えたが見かけによらず素早い動きで詰め寄ってくる
斬撃をクトゥグアの銃身で受け止めた
二撃目をイタクァで受け止めて凌ぐが得物の差で近接戦は皇餓有利
刀を受け止めたままのクトゥグアを発砲し、反動を利用して距離を取る
即座にイタクァを撃つ
様々な角度からやってくる弾丸を全て叩き斬った
皇餓が踏み出すのに合わせてクトゥグアを放つが、弾丸は皇餓の肩の装甲を吹き飛ばすだけだった
一刀目、後ろに身を屈めて避ける
二刀目、クトゥグアの銃身を刀に向かって叩き付けることで弾き落とす
だがこれで終わりではない、九郎はそのことをウィンフィールドから聞いていた
この次は全く予想出来ない方向から刀がやってくる
"二刀流ではないから"
皇餓の両脇腹から刀を持った腕が出現
三刀目と四刀目がデモンベインを挟み込むような水平斬り
跳躍して躱しつつ、落下中のクトゥグアを空中で掴む
眼下の皇餓に向けて引き金を引いて撃つと4本の腕が吹き飛ぶ
皇餓の頭上へ落ちようとしていたところで銃を投げ捨て、右掌に魔力を集中
レムリア・インパクトを放った
皇餓の背中から三振の刀が飛び出し、迎え撃つが刀ごと粉砕して掌底が背中に突き刺さっった
両機はしばしの間、停止していたがデモンベインが皇餓に背を向けて動き出す
ティトゥスは己の敗北を悟ったのだった
必滅の呪法が皇餓を昇滅させた
着々と下層へ進む
僧院内部は肉壁となっていて異常さを感じさせる
そんな事を思っているとすぐ横の壁面が激しく波打つ
脈動する肉が人工物と絡まりながら肥大化して巨大な手を編み上げた
手を拳のように握り締めてデモンベインを殴ってきた
今度はデモンベインの真上と真下の肉壁が蠕動して半人半機の巨人を創り上げる
「歌え!呪え!ガルバ!オトー!ウィテリウス!」
何処からともなく響くウェスパシアヌスの声が聞こえてきた
見覚えのある三機だと思ったサイクラノーシュが招喚したものだった
三巨人は前と同じく結界を展開してデモンベインに怨念に満ちた雄叫びを叩き付ける
事前に使用していたニトクリスの鏡で偽物を引っ掛けて無効化
ワイヤー状に放ったアトラック=ナチャを一体の巨人の首に引っ掛けて揺さぶると刎ね飛んだ
続いてイタクァ招喚して3発発射
2発は二体の巨人の頭を撃ち抜き、残り1発は何もない空間を撃ち抜いた
読みが正しければ3発目は姿を眩ませていたサイクラノーシュを撃ち抜いているはずである
気配が無くなったので先へ進む
最下層、血の海へと行き着くと白い巨大な扉があった
扉の向こうからは並々ならない邪気が感じられる
レムリア・インパクトで扉を綺麗な円形の形に抉る
最奥には巨大な心臓が鼓動を轟かせていた
その真下にはアウグストゥスの鬼械神、レガシー・オブ・ゴールドが待ち受けている
邪神の魔力に当てられてアウグストゥスはすっかり傲岸不遜になっていた
クトゥグアとイタクァを連射すると銃声が雷鳴のように響く
数十発の魔弾が蜂の巣にしたかと思いきや全くの無傷
レガシー・オブ・ゴールドから発せられると威圧感でクトゥルーの神気を受けていることがわかった
レガシー・オブ・ゴールドの内部から無数の砲身が出現して兇悪な輝きを帯び始める
防禦結界を張るが破られデモンベインが宙を舞った
突破されはしたが魔法障壁がぎりぎりまで持ち堪えてくれた御蔭でダメージを軽減出来た
でも何度も食らえるものではない
クトゥグアのマガジンを入れ替えて連射すると魔法障壁を貫通するものの、本体に軽い金属音を立てるだけで有効な一撃とならない
防禦結界を貫いても頑強な装甲までは破壊出来ない
威力を大幅に軽減されていた
ティマイオスとクリティアスを稼働させて大出力のビームを避けながらイタクァを撃つが魔法障壁すら通らない
堅固な城壁に穴を開けるため、九郎が思いついた策はクトゥグア発射後にすぐイタクァを撃ち、追尾させる方法だった
クトゥグアは魔法障壁を突破出来る、ならば突破した後すぐならばイタクァの弾丸は通過するはず
目論見は大成功
クトゥグアの威力は魔法障壁によって殺されたがイタクァはレガシー・オブ・ゴールドの急所を的確に貫いた
傾ぐ巨体にさらなる追撃をするために両銃に神獣弾を装填して撃つ
破壊の乱舞がレガシー・オブ・ゴールドを襲った
少時、様子を見守っていたが閃光がやって来たのを確認してニトクリスの鏡を展開するが威力を無効化出来なかった
直撃して膝を突くデモンベイン
レガシー・オブ・ゴールドが稼働しているのが信じられなかった
半身が吹き飛ばされても確かに動いている
水銀の血に塗れた金属的な触手が大量に溢れ出して破損箇所を埋め尽くしていく
クトゥルーと接続したことによって自己修復機能が備わっていた
壊滅的な損傷も時間を巻き戻したかのように再生
レガシー・オブ・ゴールドから拡散ビームが放出され躱しきれなくなって被弾
神獣弾でも倒しきれないとなると残りはレムリア・インパクトしかない
零距離に持ち込む必要性が出てきた
然れど、ビームの嵐を掻い潜って懐に入り込むのが難関
ニトクリスの鏡でデモンベインを複数作成
鏡と一緒に疾走する
ビームの雨に鏡を盾にして接近を試みた
惜しいことに後数秒あれば届くという距離になって最後の一枚が砕け散る
今の間合い出来る最善の手を考える
バルザイの偃月刀をミラーコーティングして扇状に展開、力の限り投げ付ける
鏡の力によってビームを弾き返してレガシー・オブ・ゴールドに迫る
肩から腹部までを断ち切り突き刺さった
しかしこれだけでは倒せない
デモンベインがビームの集中砲火を浴びて崩れ落ちた
レガシー・オブ・ゴールドを斬り裂いた部分がみるみる再生していく
アウグストゥスの哄笑が響き渡り、デモンベインへ止めを刺そうとしていたその時異変が起こった
どういうわけか、時の流れが正常に戻ったかのようにレガシー・オブ・ゴールドが裂けていく
この好機を見逃さずにクトゥグアの神獣弾を撃った
爆炎がレガシー・オブ・ゴールドを包み込み、アウグストゥスが藻掻き苦しんでいる
それを嘲笑うようにウェスパシアヌスとサイクラノーシュが現れた
中枢ユニットの扱いを知っているのはアウグストゥスだけではない
ウェスパシアヌスはルルイエ異本との接続を奪い、自らに繋げたのだ
イタクァの一撃によって倒されたはずの彼は生きていた
いや、確かに"一度死んだ"のだ
実はウェスパシアヌスは逆十字にすら教えていないことがあった
それは彼が4つの魂を持っているということである
ガルバ、オトー、ウィテリウスは呪詛としての攻撃役も務めるが同時に身代わりでもあった
ウェスパシアヌスは自身の命も合わせて4つの命がある
あと2回は死んでも問題なかった
ここに来て出し抜かれたアウグストゥスは激怒したが再生能力が失われてしまった今、彼に手立てはない
レガシー・オブ・ゴールド共々燃え尽きていく
ウェスパシアヌスが講釈を垂れ、勝利に浸っているところへ唐突に少女の声が響く
瞬間的にアウグストゥスとウェスパシアヌスの体が爆ぜた
神の心臓に亀裂が入り、その名からネームレス・ワンが出現した
無名の神が後2回となったウェスパシアヌスの魂とサイクラノーシュを瞬時にこの世界から消滅させた
そして現れたのは陽気な声で九郎の名前を呼ぶネロ(エンネア)
エンネアは唯の作り名で真の名前はネロだったことを今更知る
彼女は自分が譲渡した二挺の魔銃を使いこなしている九郎を見て満足していた
ただ続く彼女の言葉が不吉だった
九郎は『正義の味方』としてネロは『世界滅亡を目論む悪の魔法使い』として互いに滅ぼし合わなければいけない
どうしてそんなことをする必要があるのかと半ば怒りながら問う
ネームレス・ワンが無数の銃弾を撃ってくる
それを何とか躱してクトゥグアを向けるが撃たない
ネロの答えは単純明快、そうしたいからだった
ネームレス・ワンの右腕が巨大な剣に代わって襲来する
回転しながらバルザイの偃月刀を召喚して大剣に打ち込む
拮抗状態からネームレス・ワンの顔面にハイキックを命中させ、時空歪曲エネルギーを使って距離を取る
ヘブライ語には総ての子音に数字の意味があり、獣の数字666が表すのは皇帝ネロ
だから逆十字のネロこそ聖書の獣(マスターテリオン)
ブラックロッジを滅ぼすことは即ち、ネロを滅ぼすことに他ならない
理屈で言われても九郎はネロと戦うことに納得が出来なかった
するとネロはルルイエ異本にアクセスし、Cの臨界突破を行った
クトゥルーを暴走させ地球を覆い尽くそうというのだ
全世界を瘴気で汚染し、地球の歴史を終わらせようとする
ネロは別に世界の終焉を九郎と見守ってもいいと言った
だがアル・アジフは戦う選択肢以外ないようだった
九郎も頷き賛同したが、倒すのはあくまで邪悪そのものだけ
どこまでも優しかった
ネロ自体が邪悪そのものなんだが彼は聞き入れなかった
ネームレス・ワンから放たれた魔術弾をニトクリスの鏡で耐え、次の魔砲弾をシャンタクの出力を最大にして避ける
神風特攻からバルザイの偃月刀の一撃が右肩口から入り、ほぼ垂直に大きく裂く
ダメージを物ともせず、変形させた右腕の大剣を振り下ろす
後転で回避しつつ立ち上がり樣にクトゥグアを召喚して撃つとネームレス・ワンの右半身が完全に失くなった
欠損部分はクトゥルーの修復機能で瞬く間に回復していく
マシンガンとなった左腕から弾雨
その左腕の銃口目掛けてイタクァを撃つと弾丸が吸い込まれて左腕が破裂した
左腕が地面に落ちるよりも早く、アトラック=ナチャを使って拘束
両腕が完全に修復されるまでにデモンベインを突っ込ませコックピット部分に左手の貫手を打つ
ネロをコックピットから引き放つ算段である
右掌にはレムリア・インパクトのパワーを蓄積させて引き摺り出してすぐに昇華させることで終わらせる
そこで嫌な危機感を察知して脱兎の如く逃げる
ネロは九郎の戦いにおける直感を称賛するように笑った
ネロの右腕が再生し、右手でアトラック=ナチャの糸を触ると消滅した
魔術の効力で消えたとか解呪されたとかではなく、文字通り"存在を消滅"させたのだ
サイクラノーシュを消し去ったのもこの能力
情報の消去、因果からの遮断、世界を構成する情報からその存在の情報を無くす
存在そのものを無かったことにしてしまう力
『あらゆるものは観測者なしでは存在できない』
さらっと恐ろしいことを言ってのけるネロ
「分かった?だからネロは魔人なんだよ。正真正銘、完全に世界を滅ぼし得る邪悪そのもの。そしてデモンベインにはネームレス・ワンのこの力に対抗する術はない。・・・ただ1つを、除いては」
思わせぶりなことを言う
異形の匣
7本の支柱
黒い結晶体
【Shinging Trapezohedron】
そして、戦場は異界と化した
シャイニング・トラペゾヘドロンを手にするが解き放たれる場所を求めて荒れ狂っている
デモンベインが力に応えてネームレス・ワンに矛先を向けようとしていたが懸命に律する
ネロに向けてしまえば彼女自体が消滅しかねない
だからといってこのままでは行き場を失くしたエネルギーが自分達を侵す
九郎は裂帛の気合と共にシャイニング・トラペゾヘドロンの細密なコントロールを図る
シャイニング・トラペゾヘドロンがネームレス・ワンを撃ち抜こうとした瞬間、渾身の力でデモンベインの腕を振るう
矛先がずれてネームレス・ワンの右腕を引き千切る
千切れた右腕にシャイニング・トラペゾヘドロンを突き出すと光と闇に飲まれ消滅する
同様に左腕も消滅させた
まだ暴走が止まらないので今度は首を刎ねる
3つの部位を消滅させてようやく満足したのか光と闇が砕け散り、異界は次元の割れ目へと吸い込まれていった
世界が元に戻った時、目の前には両腕と頭を失ったネームレス・ワンが佇んでいた
存在を消されたかのように再生しなかった
デモンベインの掌をネームレス・ワンのコックピットの横に付ける
ネロの所へ駆け付けると呆然とした顔で九郎を見つめた
ネームレス・ワンを無力化した上でネロを救い出す
シャイニング・トラペゾヘドロンの一撃で消滅することを覚悟していた彼女にとって予想を裏切る運びとなった
九郎はネロに日常への回帰を提供した
彼女は穏やかで満ち足りた笑顔をして笑っているがその姿に一抹の不安を感じる
ネロの言葉が暇乞いに聞こえて仕方ないのだ
予感は的中する
忌々しい程に白い手がネロの腹を割って出て来る
メリメリと彼女の腹を裂いて這い出てくるのは金色の胎児
否、マスターテリオン
胎児よ
胎児よ
なぜ躍る
母親の心がわかって
おそろしいのか
ネロから噴き出る鮮血の中心にマスターテリオンは立っていた
思考よりも先に身体が闘争に順応する
一瞬でマギウス・スタイルになるとクトゥグアを迷いなく撃ったが魔術防禦に阻まれてしまった
バルザイの偃月刀を召喚して振り下ろすが指二本で受け止めるマスターテリオン
「はじめまして、だな。大十字九郎」
彼の言動はどこか変だった
九郎からすればマスターテリオンに相違ない
「生きていた・・・というのは正しくない。先程から申している通り、貴公と逢うのは、これが初めて。そう。何故ならば、余は、今まさにこの瞬間。我が母ネロによって、産み落とされたのだから――貴公の知っている余は、『前回』の余だ」
九郎は首を傾げる
「まだ解らぬか?聖書の獣(ドミティアヌス)はネロの生まれ変わり。ネロの黄泉帰り。聖書の獣(マスターテリオン)はネロであり、余でもある。母は貴公と出逢う以前より、余を身篭っていたのだ」
九郎にはマスターテリオンの言っていることが荒誕にしか聞こえなかった
戯言に付き合わずに攻撃しようとするとネームレス・ワンの機体に罅が入った
爆裂し真紅の機体が生まれ落ちる
逆十字によって全壊したはずのリベル・レギスがマスターテリオンと同じように生まれ落ちた
紙片が辺りを舞い、一人の少女を形作る
『ナコト写本』、エセルドレーダも再誕した
「さあ、この道化芝居も、ようやく終焉を迎えようとしている」
九郎に闘志が宿る
デモンベインに乗り込み、リベル・レギスに向かって鉄拳を繰り出した
リベル・レギスも拳で応戦する
お互いの顔面に突き刺さった
仰け反りながらも両機が左拳を出す
それもまた同じように腹部に食い込んだ
デモンベインのアトランティス・ストライクに対してABRAHADABRAで返すリベル・レギス
蹴りが脇腹に決まり、左掌が肩を掴み爆砕し、お互い吹き飛ぶ
九郎は猛っていた
自分が思っていたよりエンネア(ネロ)と一緒に過ごした時間は大切なものだったのだ
それだけにエンネアを真の意味で失った今、どうしようもなくマスターテリオンが憎かった
クトゥグアとイタクァを神獣弾で撃つが平静を失った状態では照準が定まらず、外れてしまった
右手に一撃必滅の威力を蓄え、左手にバルザイの偃月刀を持って間合いを詰めようとするが重力結果に囚われる
前回のマスターテリオンに喰らった時とは段違いの威力で全然動かせない
マスターテリオンはC計画の本当の目的を語った
彼の狙いは旧支配者を超えた領域にあった
クトゥルーもルルイエの浮上も、窮極の結末を迎えるためにあった
リベル・レギスは肉壁の天井に空いた穴から外に出ようとしていた
重力結果の方則を看破するため思考する
解呪方法を把握し、戒めを解く
シャンタクでマスターテリオンの後を追う
上昇しながら術を唱えている
イタクァで撃ち抜こうとするが機体を捻らせて躱すリベル・レギス
氷竜を手刀で断ち切った
バルカンを撃ちながら魔力の流れを乱し、紛れ込ませるようにバルザイの偃月刀を投擲する
左腕を貫かれたリベル・レギスの姿が見えた
間髪入れず、クトゥグアを神獣弾で撃った
左腕に刺さったバルザイの偃月刀を引き抜き、神獣化したクトゥグアを斬り刻む
そのままデモンベインに向かって投げ付けた
飛来するバルザイの偃月刀を回避しつつ、通り過ぎる直前に柄を掴む
クトゥルーの外に出ても尚上昇を続けるリベル・レギス
負けじと追い縋るデモンベイン
マスターテリオンに言われて海を見ると怪異が起ころうとしていた
ルルイエが浮上するのだ
海から陽光を遮るほどの巨大な『柱』が突き出た
クトゥルーを円形に取り囲むようにして無数の柱が出現する
「ンガイ・ングアグアア・ブグ=ショゴグ・イハア・、ヨグ=ソトース、ヨグ=ソトース――
イグナイイ・イグナイイ・トゥフルトゥクングア、ヨグ=ソトース――
イブトゥンク・・・ヘフイエ――ングルクドルウ・・・!
エエ・ヤ・ヤ・ヤ・ヤハアアア――エヤヤヤヤアアア・・・ングアアアアア・・・ングアアアアア・・・!
マスターテリオンの異形の詩で金の剣が召喚される
金の剣を虚空に走らせ、光り輝く「逆さΩ」の紋様を宙に刻む
「フユウ・・・フユウ・・・
ヨグ=ソトース!」
忌まわしいこの邪悪の詩を九郎は識っている気がした
ヨグ=ソトース招喚の『第九の詩』である
「顕れ給え、門にして鍵なる神よ!
顕れ出で給え!
全にして一、一にして全なる神よ!――我が、父君!」
クトゥルーが溶けていた
急速に実体を失い、総てが泡へと変化していく
世界が極彩色に塗り潰され、総ての物質は虹色の球体となる
「それは単に一つの時空連続ではなく、実存という概念が持つ最も包括的で無制約な領域のうちの真に死活を握る要素と結び付いた、あらゆる束縛を遁れ、空想も数字も遥かに超越した窮極的でしかも最後の領域だった」
人間の認識を超え、狂気に陥る寸前でその存在はヒトの脳に合わせた実体を形成した
扉だった
冥界への扉(ヘヴンズ・ドアー)
「ヨグ=ソトース・・・あらゆる時間と時空に存在する『門の鍵にして守護者』。旧支配者共が棲む外宇宙へと繋がる存在。正真正銘の『外なる神』だ・・・」
クトゥルーどころの騒ぎではなくなっていた
マスターテリオンはこちらの予想を遥かに上回る魔人だったのだ
「左様。神を苗床として、更に上位の神を招喚する――『C計画』も所詮はこの為の土台に過ぎない。貴公等も覇道もアウグストゥス達逆十字も・・・そして我が母ネロも皆総て。余が回す運命の歯車の上で踊っていただけなのだ・・・」
アル・アジフがマスターテリオンにヨグ=ソトースを父と呼んだことについて質問した
嘗てアル・アジフが退けたダン・ウィッチの呪われた兄弟と彼は同種の存在であることが判明
マスターテリオンはヨグ=ソトースの血を引く神の仔だった
人類最強の魔術師ネロと邪神ヨグ=ソトースの間に生まれた異形の落とし子である彼は時間も空間も何ら意味を持たない
「そして、今回もまた『時が開く』――」
リベル・レギスの指が、そらに開かれた門を差した
扉の向こうへと意識を傾けると戦慄した
クトゥルーと同格以上の存在力を放つものどもが無数にいる
もし神々が此処に扉を開いたことを知ればこの世界に邪神達が怒涛の如く押し寄せる
九郎を試すように哄笑しながらヨグ=ソトースの門の先へと飛び立つリベル・レギス
後を追うべくシャンタクを最大出力にしようとしたがアル・アジフが引き止める
ヨグ=ソトースは総ての時間と時空に繋がっているため、あの扉が何処に通じるかは何人にも分からない
あの門をくぐれば現在過去未来、あらゆる宇宙を渡り往くことになる
そして、恐らく二度とこの世界には帰って来れない
アル・アジフのその言葉が九郎の決断を鈍らせた
彼女は一晩だけ考える猶予をくれた
デモンベイン専用輸送艦『タカラブネ』に乗っている皆にマスターテリオンを斃してくると伝え自らを奮い立たせる
だが、超常現象の一言では言い表せない複雑怪奇な事態を目の当たりにして怖くないわけがない
でも九郎は一人ではない
戦う時は必ずアル・アジフが傍に居てくれる
そう思うだけで恐怖は消えて失くなった
九郎が決意して志気を高めているところに非常事態が舞い込んできた
アル・アジフがデモンベインを勝手に起動させて飛翔してしまったのだ
彼女は薄々勘付いていた
ここまで戦ってきた九郎がここで引くという選択をするはずがないと
そんな男であるからこそ、今まで戦い続けたのだから
これから向かうは神の領域、人間の領域ではない
だから独りで終わらせようと思ったのだ
九郎をこれ以上突き合わせるわけにはいかない
彼は人の世界で生きるべきなのだ
独断で行ってしまった事に焦る九郎
追い付く手段を模索しようにも相手がデモンベインでは並のものでは無理だ
そこで白銀の天使が舞い降りる
メタトロンならば追い付けると言うのだ
一も二もなく頷いた
メタトロンの九郎が近付いていることを知るとシャンタクを加速させ逃げるアル・アジフ
立腹した九郎はメタトロンに命令してビームを撃ったりして牽制してもらう
それでも止まらないデモンベインに対し九郎は自ら身を投げ出し、空中から海に落下することでアル・アジフの出方を伺った
この無茶苦茶な行動を流石に無視することが出来ずデモンベインで九郎をキャッチした
その後、お互いの主張を只管ぶつけ合ったが結局一緒にいたいからという理由で落ち着いた
翌朝、デモンベインでヨグ=ソトースの門へと飛び込んだ
気の流れは一定せず、完全に無秩序、混沌の海だった
集中してマスターテリオンの気配を察知するとバルザイの偃月刀を召喚して真上に放り投げる
鏡が割れたような音がして砕けた
目の前の世界が豹変して何かが押し寄せてくる
マスターテリオンも九郎を知覚したようだった
それとは別にリベル・レギスの上にいるナイアも感じ取った
「今回も初めまして、マスターテリオン。これで何度目だったかな?三千回くらいまでは数えていたんだが」
人を食ったような挨拶をして九郎とマスターテリオンの戦いを傍観しようとしていた
デモンベインは扉の迷宮にいた
無限とも思える中から正解を選ばなければいけないのかと思っていたらそうではなかった
小さな扉が目の前に出現する
扉を開いたのはベールを被った人間だった
ウムル・アト=タウィル、『門を護るもの』『導くもの』『古ぶるしきもの』、ヨグ=ソトースの化身そのものなのかもしれない
彼が左右に胸を引き裂くと裂け目の向こうに天まで伸びゆく大理石の階段が現れた
この先にマスターテリオンがいる
一段一段踏み締めて歩いていった先に彼は待っていた
リベル・レギスが玉座から立ち上がり、全身を覆う紅の翼がゆっくりと開かれると真の姿を現す
右手には金色の宝剣が握られていた
デモンベインはバルザイの偃月刀を掌に執り疾走する
二筋の剣が交錯した
重ね合った二本の剣は互いに弾かれ、逸らされる
相手の側面を駆け抜け擦れ違う
剣の間合いではないが両機は振り返って二撃目を振るう
不可視の斬撃が二機から放たれ中央でぶつりかって爆発した
飛翔後、接近してからの三撃目が双方の肩口に決まる
足場を失いどこまでも落下していくデモンベインとリベル・レギス
落ちながらも二人剣撃は続いていた
アル・アジフとエセルドレーダがそれぞれのマスターに時空震の到来を告げた
石で造られた建造物のような場所に飛ばされる
プレアデス星団のセラエノ、ハスターの領地だった
大図書館の屋根の上に静かに降りた
リベル・レギスもまたそこにいた
マスターテリオンはこの血闘の美学のようなものを感じていた
でも九郎にそんなものは関係ない、ただ敵をぶっ倒すのみ
「ヨグ=ソトースを現世に留めているのは、このリベル・レギス自身の動力、魔術機関エンジンに施された呪法にこそ有る。即ち世界を救いたければ、このリベル・レギスを破壊する以外あり得ぬぞ」
脚部シールドのエネルギーで爆発的な推進力を得て飛び出すが金色に輝く剣は綺羅びやかで凶々しい装飾を施した金色の長弓へと変化していた
空間反転エネルギーを逆のベクトルに爆砕させ避ける
光の矢がデモンベインの頬を掠って通り抜けていった
お次は十数本の矢を纏めて番え撃ってきた
躱せども無尽蔵に放たれる矢
クトゥグアでリベル・レギスを狙ったがそこにはもういない
舞いながら10本の矢が同時に迫り来る
イタクァで6本を落とし、クトゥグアで4本を破壊
今度は弓を天に掲げるリベル・レギス
今まではとは違う異質の矢を1本取り出して無窮の空へと撃つ
天空から光の雨が降り注ぐ
幾重にも防禦陣を展開するも突破され矢がデモンベインに突き刺さる
矢が大図書館の半分を瓦解させていく
瓦礫の中からクトゥグアを撃った
神獣形態で放たれたのを矢で射止める
ティマイオスとクリティアスで瓦礫の中から飛び出す
装填された次の矢でデモンベインを射抜くがそれはニトクリスの鏡で作った虚像
虚像の裏からデモンベイン本体が出現、クトゥグアをまたも神獣弾で撃つ
狙うのはリベル・レギスでなく足場である
クトゥグアの力によって大図書館そのものを徹底的に破壊していった
イタクァを構えて銃口を向けようするとそこでまた時空震が来た
光の矢と氷竜がぶつかりあうと世界が移ろいで往く
ヤディス星へと飛ばされた
5つの太陽が燦々と照っているがその恩恵を授かる生命はこの惑星には存在していなかった
地表が罅割れて荒廃している
マスターテリオンの気配を探るがそれよりも先に別の殺意に気付いた
ドールと呼ばれるミミズを超巨大化したような生物が跋扈していた
デモンベインを餌と認識したのか襲い掛かってくる
あまりの大きさに右往左往していたら、縦一文字に両断されるドール
マスターテリオンがあっさり倒してみせた
九郎との戦いに一途な喜びを見出そうとする彼の気迫がドール達を死滅させていく
金色の剣の側面から刃を生やして十字架を生成する
振り下ろされる十字架を防禦結界で防ぐが持たない
結界が破壊されそうになる寸前にバルザイの偃月刀を召喚してありったけの魔力を注ぐがそれでも捌ききれない
しかしその甲斐あってか真っ二つにされるのは免れたようだ
相殺出来なかったため、大地に投げ飛ばされる
墜落のダメージに加え、魔力をほとんど使ってしまったので力が入らない
リベル・レギスが追撃してくる様子がない
腕を組んでこちらが起き上がるのを待っている
片膝と片腕を突いたまま何とか起き上がってクトゥグアを構えるが、リベル・レギスは黒龍を思わせる金色の弓を手にしていた
天狼星(シリウス)の弓が龍の咆哮のように唸り射出される
世界が白く沸騰した
矢が直撃する寸前にまたもや時空震によって飛ばされる
時空の揺らぎによって運良く助けられたものの、デモンベインの全身は半ば溶けかかっていた
絶え間なく彗星が降り注いでいる宙域に放り出された
太陽に黒い月が重なり日蝕かと思ったがそうではなかった
黒い月に見えたのは無数の獣の群れ
デモンベイン目掛けて鋭利な牙を突き立てる
貪り食われている姿をどこからか嘲笑しながら見ているマスターテリオン
獣達の群れの本体である餓鬼結界の解呪法を探ることにした
結界の核を見つけてレムリア・インパクトを撃つと数多の獣達は昇滅した
損傷した機体に鞭打つように隕石群がやってきた
それらは一見不規則かと思っていたが、内一つがデモンベインを狙い撃つかのように飛来する
明らかな敵意が含まれていた
全方向から襲い掛かってくる隕石の雨を防禦結界で受け止めるが、その隙を見逃すマスターテリオンではない
無防備になっているところへ金の十字架が振り下ろされる
あまりの威力にデモンベインを貫通してコックピット内部にも影響があった
内蔵がやられて吐血が止まらず上手く喋る事が出来ない
アル・アジフも九郎ほどではないがダメージを受けていた
動けないデモンベインの顔をリベル・レギスが鷲掴みにする
レムリア・インパクトのエネルギーを集結させるが魔力が枯渇しているせいか輝きが乏しい
デモンベインを吹き飛ばしてから一瞬で背後に回り込み、そこから乱打するリベル・レギス
視界が白い闇に閉ざされ、音も何も聴こえない
痛覚もなくなっていた
天狼星の弓がデモンベインを今度こそ破壊し尽くそうとしていた
そんな状態になっていてもデモンベインの右腕は動いた
九郎の意志とは別にデモンベインを突き動かしていた
薄らいでいく意識の中、アル・アジフの激切な叫びを聴いた
死霊秘宝から無限のエネルギーが九郎とデモンベインに供給される
黒龍の矢を燦然と輝く魔法障壁が飲み込んでいく
シャンタクを最大出力にして突撃するデモンベイン
リベル・レギスから重力弾が放たれるが慣性の法則を無視して直角に曲がり躱す
神速の迅雷と化したデモンベインがリベル・レギスを頭上から貫いた
敵機の破片の損傷を確認して超加速状態から抜け出し一時停止する
気を抜く暇もなく、十字架の一撃がデモンベインを撃ち右腕と左腕が千切れ飛んだ
下半身と左腕を失いながらも右腕だけで攻撃を仕掛けてきていた
出鱈目に十字架を振り回しながら、天狼星の弓を撃とうとしていた
無意識のうちにクトゥグアとイタクァを召喚する
二つの銃は絡み合い、溶け合いながら合体して砲身となった
咆哮をリベル・レギスに向ける
黒龍の矢が放たれると同時にデモンベインも引き金を引いた
2つの魔力の衝突が彗星の海全てを呑み込んでいく
魔力の奔流の中、黒龍の矢が光の中に砕けていくのをしっかりと見届けた
そして時空転移が生じる
地球が見えるところまで飛ばされていた
上半身だけのリベル・レギスが発光を纏って飛翔する
デモンベインもシャンタクを全開放して宇宙を奔る
激突する蒼と紅の流星が球状に広がる魔術のフィールドを形成した
ぶつかった両機はそのまま己の魂の奥底から込み上げて来る衝動を叩きつけるように殴り合う
絶妙のタイミングで放ったアトランティス・ストライクを受け止めるリベル・レギス
損壊していた左掌はエセルドレーダによって再生されていた
受け止めた脚に指を突き立てて握り潰そうとする
デモンベインは時空歪曲エネルギーを爆発させて逃れる
こちらも自己再生機能で左拳を修復
復活した左掌でリベル・レギスの胴体を殴る
次は右拳を、というところで戦慄が走った
デモンベインの顔ぎりぎりを通り抜けていくリベル・レギスの右脚
下半身も再生していた
振り上げた蹴りを踵落としに移行、さらに前蹴りを放つ
吹き飛ばされたと思ったらすぐやってくる罪人の十字架
躱さずにレムリア・インパクトで迎え撃つ
どんな物質でも昇滅させる必滅の呪法に巻き込まれないようにするため、リベル・レギスは咄嗟に十字架から手を離した
お互いの距離が大きく離れた
リベル・レギスが重力弾11を出射
一所懸命避けるが最後の一発に捕まってしまう
直撃は免れたものの、シャンタクの翼の一部が重力弾によって綺麗に抉り取られていた
まともに飛べなくなったデモンベインの顔面にリベル・レギスの鉄拳が減り込んだ
拳の連打からハイパーボリア・ゼロドライブが放たれる
直撃を避けるために真横から掌底を右腕に叩き込んだ
右手刀が逸れて方を掠めたが、それだけで肩部の半分が瘴滅した
デモンベインの胴体を左手で鷲掴みにして爆裂させる
出力の上がらないシャンタクを噴かせながら制御を保とうとしたが、地球の重力に引っ張られる
リベル・レギスが追い打ちの体当たりをしてきた
大気圏に触れて互いの機体が赤熱し始める
右手刀が飛んで来たので防禦陣をぶつけて相殺、そのまま組み付いた
道連れにしようとする
そうはさせまいと、ABRAHADABRAでデモンベインの顔を掴んで爆発させる
リベル・レギスは拘束から逃れたがアトラック=ナチャで絡め取られる
蜘蛛の糸を手繰って引き寄せ、手刀を突き刺すデモンベイン
もつれ合い地球に落下していく両機
そしてデモンベインとリベル・レギスは地球の空を翔る流星となった
落ちながらもレムリア・インパクトとハイパーボリア・ゼロドライブを撃ち合う
――6500万年前、地球
現代で言う所のメキシコ、ユカタン半島で激突する両機を時空震が呑み込んだ
その際に如何なる宇宙の法則も通用しない膨大なエネルギーが異界から溢れ出した
零にして無限、刹那にして永劫の宇宙
デモンベイン、リベル・レギスが赴く最後の決戦場
九郎は確信した
もはやデモンベインは、リベル・レギスの如何なる滅技を喰らったとしても、決して敗れることはないと
同様にリベル・レギスに如何なる滅技を喰らわせたとしても決して滅ぼし尽くすことは出来ないのだと
互いに止めを刺す一手に欠くのならば、永劫にこの戦いを続けることになる
だが唯一の例外がある
リベル・レギスの存在そのものを否定し尽くす窮極の最終必滅兵器
Shinging Trapezohedron
――輝くトラペゾヘドロン――
――そして戦場は、最終決戦場へと化した
デモンベインの右掌からブラックホールが現出する
刃の無い神剣をこの異界に召喚する
今、絶対的な権威を以って、デモンベインが魔を裁く――
否
デモンベインの真正面に立つリベル・レギスの胸部が開き、中のエンジン機関部からブラックホールが現れる
「貴方達だけの奥義だと思ってた?アル・アジフ」
次元を歪ませ、次元を引き裂き、それは召喚される
捻じ曲がった神柱、狂った神樹、刃の無い神剣
リベル・レギスもまた窮極呪法兵葬シャイニング・トラペゾヘドロンを所持していた
こんな恐ろしいものがこの宇宙に二つと存在していることが恐ろしい
マスターテリオンは語る
「識らなかったのか?識らされていなかったのかあいつから。在り得ざる物質。同時に存在しえぬ物質。神々の禁忌、輝くトラペゾヘドロン。永き時の果てに其れは余と貴公の手に渡ったのだ。二つのシャイニング・トラペゾヘドロンの衝突の果て、余と貴公のいずれかがこの宇宙より拒絶される」
「何故なら、輝くトラペゾヘドロンの衝突――ただそれを成す、その為だけに君達はこの無限に囚われていたのさ。九郎君・・・君は憶えていないだろうけどね。絶望を識る魔人と絶望を識らぬ英雄。ヒトの負の極限と、正の極限。必要な駒はその2つだった」
異形の女は誰に話しかけることもなく語る
デモンベインとリベル・レギスがお互いにシャイニング・トラペゾヘドロンを構える
――今、高らかと詩を詠みあげる――
「荒ぶる螺旋に刻まれた
神々の原罪の果ての地で
血塗れて 磨り減り 朽ち果てた
聖者の路の果ての地で
我等は今 聖約を果たす」
「其れはまるで御伽噺のように
眠りをゆるりと蝕む淡き夢
夜明けと共に消ゆる儚き夢
されど その玩具の様な宝の輝きを
我等は信仰し、 聖約を護る」
アル・アジフとエセルドレーダが詠みあげたのは術式、舞は陣
唄うごとに、舞うごとに、新たなる世界秩序を編み上げ、組み立てる
「我は光 夜道を這う旅人に灯す 命の煌めき」
「我は闇 重き枷となりて路を奪う 死の漆黒」
「我は光 眸を灼く己を灼く世界を灼く
熾烈と憎悪」
「我は闇 染まらぬ揺らがぬ迷わぬ
不変と愛」
「愛は苦く 烈しく 我を苛む」
「憎しみは甘く 重く 我を蝕む」
「其れは善」
「其れは悪」
「其れは享受」
「其れは拒絶」
「其れは 純潔な 醜悪な 交配の儀式
結ばれるまま融け合うままに産み落とす
堕胎される 出来損ないの世界の――」
唄い舞いながら、アル・アジフは違和感と焦燥感に囚われていた
それに気付かねば総てが手遅れとなる
記憶を禁忌として鍵を掛けたかの様に思い出せない
魔力は限界にまで膨れ上がっている
後はこれを爆発させ、叩きつけるだけだ
「その深き昏き怨讐を胸に」
「その切実なる命の叫びを胸に」
「埋葬の華に誓って」
「祝福の華に誓って」
「――我は世界を紡ぐ者なり!」
そこで、アル・アジフの検閲サれていた最後の記述が甦る
今、この瞬間を以って、魔導書『アル・アジフ』は"真に"完全となった
彼女の著者アブドゥル・アルハザードが我が身を蝕む狂気の中、最期の力を振り絞って書き遺した、世界に訴える必死の警告
ありったけの人間の叫び
――総ては予め仕組まれたこと
――総てはあの女の・・・
突き出された二つのシャイニング・トラペゾヘドロンが交差する
そしてシャイニング・トラペゾヘドロンの内に封ぜられた、純粋無限大の邪悪の存在を知る
「そう!総ては――!」
「総ては」
宇宙の生誕と死滅
その狭間たるこの血戦場を裂いて、混沌の闇を纏う女が現出した
交差する二つのトラペゾヘドロンの上に舞い降りる
その女は良く知っているナイアだった
「――このナイアルラトホテップの意のままに」
千の異形
無貌の神
這い寄る混沌
外なる神――ナイアルラトホテップ
「宇宙よ、今こそ・・・在るべき姿に!」
宇宙は混沌に沈んだ
闇の中を手探りで探すと柔らかな何かを掴んだ
急速に世界が結晶する
黒い太陽と紅い月が昇る淀んだ空にナイアルラトホテップはいた
アーカムシティの黄昏の姿を見ながら九郎は寝そべっていた
「君はね、この前も、その更に前も、その更に更に前も、そうやってマスターテリオンと戦っていたんだよ。まあ、前回まではマスターテリオンに及びもしなかったんだけどね。輝くトラペゾヘドロン。それを執るに相応しい器になる為に、君は戦い続けていた。僕の掌の上で」
シャイニング・トラペゾヘドロンはナイアルラトホテップに言わせれば正しい、本来の宇宙らしい
邪神が生きる、悍ましく邪悪に満ちた、限り無く美しい宇宙
シャイニング・トラペゾヘドロンには宇宙が封ぜられていた
あれに射抜かれた者が引きずり込まれる異界の正体がそれである
ナイアルラトホテップ達の宇宙も今の宇宙から断絶されてしまっていた
彼女の目的はシャイニング・トラペゾヘドロンを破壊してアザトースの庭を解き放つことだった
そうすることで宇宙は観測者であるナイアルラトホテップ達の望む形に姿を変える
そんな神様ですら『連中』という奴らを恐れているらしい
絶望の淵にあって、九郎の魂はなおも闘志を失いなどしなかった
絶望を理解しながら、絶望に屈する理由を見出だせなかった
アル・アジフの声がする
即座にマギウス・スタイルに変身
バルザイの偃月刀を召喚してナイアルラトホテップの心臓を刺し貫く
さらにクトゥグアをナイアの顎に突きつけ、引き金を引いた
頭が粉々に吹き飛ぶ
それと共に絶望の世界は鏡のように割れて砕け散る
偽りの無限から帰還した九郎はリベル・レギスが持つシャイニング・トラペゾヘドロンを享け止め、取り込もうとした
デモンベインの持つシャイニング・トラペゾヘドロンから溢れ出るのは邪悪の宇宙ではなく、何処までも穏やかで暖かな光
リベル・レギスの持つシャイニング・トラペゾヘドロンに絡まり、結びついて融合していく
一つとなったシャイニング・トラペゾヘドロンの全長はデモンベインを優に超えていた
巨大な神剣を体の一部のように軽やかに振り回す
九郎の隣にはアル・アジフが立っていた
「祈りの空より来たりて――」
「切なる叫びを胸に――」
「我等は明日への路を拓く」
「汝、無垢なる翼――デモンベイン」
シャイニング・トラペゾヘドロンから溢れる魔力はデモンベインですら耐えきれず光に溶けていく
マスターテリオンはその神々しい光を見て全てを大十字九郎に委ねたようだ
リベル・レギスの全出力が落ちる
また、ナイアルラトホテップも予想外の結末に畏怖していた
誰も抗う術を持たず、世界は白く塗り潰された
かくして、かくも壮大な狂騒劇は、されど誰にも知られることなく静かに幕を下ろす
マスターテリオンは果て無い、限り無い星々の海で静かに瞬く天の河をいつまでも見つめていた
この宇宙の裏側に潜む怪異は永劫に渡って彼を怯えさせたが、今はもう彼を恐怖に駆り立てるものは何もない
エセルドレーダと一緒にいつまでも彷徨し続けるのだった
そして九郎とアル・アジフも宇宙を漂流していた
決着の後、デモンベインは宇宙へ放り出された
損傷は激しく魔力も枯渇してもう起動する気配もない
元の世界へと帰る術もない
でもアル・アジフと一緒ならこの永遠も悪くはないと思った
眠くなったので休息を取る九郎
しかしそれで本当に良かったのか
アル・アジフは今一度自分に問う
※1 ※2 ※1 この男の笑顔はやはり太陽の下が一番良く似合う
デモンベインにもうひと頑張りして貰うことにした
アル・アジフの願いに応えるように自らの胸を貫いた
引き抜いたその手にはデモンベインの心臓、獅子の心臓(コル・レオニス)が握られていた
銀鍵守護神機関
平行宇宙より無尽蔵のエネルギーを組み上げる無限の心臓は最期の力を振り絞った
アル・アジフも全神経を宇宙に張り巡らせ、九郎が元いた世界を探し出す
一瞬だが確かに捉えるとデモンベインに呼び掛ける
無限の心臓は砕け散り、その内から宇宙が溢れ出す
幽玄に揺らめく儚い扉が見えた
転移の術が発動して九郎の体は光の粒子となって融け、扉の向こう側へと投げ出される
足許が崩れ落ちていくよな喪失感に目を覚ました九郎だが遅かった
声が形になる前に光になる
夜空を眺めならがゆっくりと落ちていく
アル・アジフの御蔭で再び日常を手に入れた九郎はアーカムシティで今日もライカや子供達と戯れていた
そして九郎はミスカトニック大学に復学することを決めた
今のアーカムシティにはブラックロッジが跋扈していたという記憶そのものが存在しない
歴史は繰り返されていたがその輪廻が断ち切られたため、ブラックロッジが出現する以前の時間軸へと戻される
そしてナイアルラトホテップの干渉はもうないので歴史がループすることはない
マスターテリオンが歴史から抹消されたのでブラックロッジは結成されない
だがそれはアル・アジフと積み上げた時間がこの世界には無いということでもあった
ウェストは相変わらず破壊ロボで暴れ回っていた
手にしたクトゥグアとイタクァを撃ち込んで轟沈させて帰宅
授業の遅れを取り戻すために魔術理論に関する教本を読んで勉強する
探偵業は一旦休業した
こういう当たり前の生活が尊い
惰眠を貪っている最中にチャイムが喧しくなる
扉を開けるとウィンフィールドが立っていた
歴史が改変された今、この世界での彼との繋がりは無いはずである
瑠璃もしっかりいた
仕事の依頼で来たのだという
今、アーカムシティを密かに脅かす怪異があった
その調査を請願に来たのだ
九郎はこの依頼を受諾した
調べるため廃墟区画に立ち入ると蜘蛛の糸に四肢を拘束される
真逆と思って五感を駆使して見ると夜の闇に女の体が浮かび上がっていた
アトラック=ナチャだった
蜘蛛の化身が本性を顕す
絡み取られた体を術式を使って解除
怪物化して襲ってくるアトラック=ナチャをクトゥグアで撃つ
九郎は後援者であるアーミティッジから『ネクロノミコン新釈』を教本代わりに譲って貰っていた
信頼出来るほどではないがこれも立派な魔導書である
アトラック=ナチャが紙片となって解けた
残ったのは魔導書の断片
靄々とした胸騒ぎが少しずつ形になっていくのを感じた
魔導書の頁に手を伸ばそうとした時、どこからともなくナイトゴーントが襲い掛かってきてきた
クトゥグアで撃ち落とすとアトラック=ナチャ同様に紙片へと変化する
二体の化物だった頁は互いに混ざり合い、渦を巻きながら意志を持つかのように飛んでいく
追うとニトクリスの鏡、バルザイの偃月刀も出現したので処理する
それらの紙片が向かうはミスカトニック大学
クトゥグアとイタクァが人間形態で時計塔の正門前に立っていた
神獣となった二体を強制契約で二挺の魔銃へと吸い込ませる
構内へと足を踏み入れた
最初は淡い希望だったが今はもう強い確信となっていた
目的の場所である秘密図書館へと辿り着く
禁断の魔導書が保管された、世界最高の図書館
九郎にとって始まりの、さらに始まりの場所
初めて魔導書閲覧の刻、この場所で怪異と遭遇した
「――まだ早い」
記憶の奥の最後の鍵が開こうとしている
総てが繋がろうとしていた
「まだ出会うには早い」
「時が来れば、我等は必ず巡り逢う」
例えば――厳密な意味において、アブドゥル・アルハザードは『ネクロノミコン』の筆者では無いとしたら
例えば――何かの『書』を元にしたのだとしたら
例えば、それは――如何なる次元から、如何なる時間から来たとも知れぬ、窮極の魔導書だとしたら
剣指を作り、五芒星形の印を宙に描く
魔法陣を光が走り、爆砕した
静寂な図書館に魔導書の紙片が舞い散る
図書館の最奥に初めて魔導書を閲覧したあの日と同じように九郎はその怪異と再会した
「ラテン語版が大学に保管されているのは知っていたけどさ・・・、オリジナルが保管されてるとは、さすがに聞いてなかったぞ」
振り返る怪異
靡く銀の髪
暗がりでも映える白い肌
そして、吸い込まれそうな翡翠の瞳
九郎とアル・アジフは邂逅を果たした
END
※2 ――たとえ、赦されない事だと分かっていたとしても、別れることは出来なかった
九郎がアル・アジフに与えた愛は大き過ぎた
独りでこの先生きていくのは辛い
自分が九郎にとっての枷になるのがわかっていたけれど離れることを拒んだ
眠りを妨げるほどの圧倒的な光の気配を感じて九郎は起きる
力強い生命賛歌を聴いた
光の向こうで歌に合わせて舞う影を見る
舞が終わると男女の影
光の中心に向かって手を伸ばすと『旧き印』があった
解けて魔術文字の線となり、二重螺旋を描く
強大な存在が紡がれていく過程を総て見届けた二人はそれを神だと思った
空っぽの世界
街の残骸が転がり落ちる空虚な場所でネロは彼の存在を待ち続ける
そこへ邪悪の化身ナイアルラトホテップが現れる
あの世界で彼女の計画は失敗したが、もう一度繰り返そうとしていた
大十字九郎をシャイニング・トラペゾヘドロンの存在に気付くまで育て上げたのは彼女だったが、千の異形を持つ無貌にとっては夢の出来事に過ぎない
だが神様と言えど覆せないものは確かに存在していた
二人しかいない廃墟の世界に別の気配が顕現する
瓦礫の山の下、九郎とアル・アジフはいた
九郎達は他の悪い神々と何度も死闘を繰り広げた
どこまでも正義の神様を貫徹した彼らは悪い神達を退けるまでになった
ヒトとして戦い、戦い抜いて、ヒトを超え、ヒトを棄て、遂に神の領域に辿り着いていた
ひたむきに邪悪を討ち滅ぼすためだけに生き、ナイアルラトホテップと同じ存在となった九郎とアル・アジフ、デモンベイン
最も新しき神、『旧神』となりて戦いに身を投じるのだった
END
●覇道瑠璃 傷付きながらも必死に戦う九郎の姿が瑠璃の心を氷解した気がしてならない
彼女にとっての彼は想像以上に気になる存在となっていた
平常心を欠く事が多くなってきた瑠璃を見てウィンフィールド、オペレーター三人は恋心だと勝手に解釈
九郎を拉致して二人きりで会わせようと画策したのだった
映画のチケットを用意して半ば強引に押し込む
見終わった後は二人で街を散策して楽しんだ
突然、夕刻の静寂を破って街中を劈く爆音に振り返った
鬼械神クラーケンが街を破壊している
暴君を捉えようとして負傷したカリグラは激情の赴くままに暴れていた
クラウディウスのロードビヤーキーも同時に招喚されていた
九郎もアル・アジフとすぐ合流してデモンベインで打って出る
瑠璃は急いで司令室に戻ってヒラニプラ・システムにアクセス、レムリア・インパクトを使えるようにした
レムリア・インパクトを喰らっても倒れないクラーケン
腕を切り離してやり過ごしていた
苦闘している中、暴君からクトゥグアとイタクァの援助があった
二体とも神獣化しており、その力を銃に内包
クラーケンとロードビヤーキーに向けて破壊の牙を向けようとしていたところでマスターテリオンの声で戦いは中断
引き金を引いたが既に敵の姿は無かった
暴君の捕獲に成功したブラックロッジはC計画へ一歩前進した
先日の誘いの件の礼を態々しにきた瑠璃
ウィンフィールドがいるならともかく、単独で来るのは初めてのことであった
相変わらずアル・アジフとは馬が合わない瑠璃
すぐ罵り合いになる
そんな折、三人は夢幻心母が浮上したのを目撃する
破壊ロボの軍勢がアーカムシティに瀰漫し、瑠璃を守りながら迎えのウィンフィールドと合流
迫り来る破壊ロボを蹴散らすためデモンベインを招喚
腕に瑠璃を抱いていたため、彼女ごとコックピットに転送された
倒しても倒しても湧いてくる破壊ロボ
早く瑠璃を安全なところへ避難させたいがここで引き渡しても危険なだけである
デモンベインのコックピット一番安全だと判断し、一時的に預かることにした
ウィンフィールドには先に基地に戻って指示を出して貰う
空中から降りてきた飛行型破壊ロボをクトゥグアとイタクァで薙ぎ払う
するとマスターテリオンがリベル・レギスで直々に降りてきた
九郎達の目の前でクトゥルーは現出
これから激闘が始まろうとしていたところで逆十字の叛逆によって消されるマスターテリオン
逆十字から全速力で逃げるデモンベインだが捕まり、アウグストゥスのレガシー・オブ・ゴールドに滅ぼされそうになる
全ての操縦を投げ出し、瑠璃を黒翼で包み込むようにして護る九郎
閃光が終わると格納庫に飛ばされている
瑠璃は全くの無事だったが代わりに九郎が致命傷を追って倒れてしまった
アル・アジフの術式が九郎に介入して治療を試みる
瑠璃はそれを見て周章狼狽するだけだった
九郎が重傷を追った原因の怒りの矛先は瑠璃に向かった
平手打ちに瑠璃に食らわせ殺さんばかりの剣幕で睨みつけるアル・アジフ
足を引っ張ったのは瑠璃がいたからである
集中治療室に運ばれた九郎は未だ意識を取り戻さない
アル・アジフの言葉が胸に突き刺さって憮然とする瑠璃
後味の悪い思いをしたくない、九郎が戦う理由はただそれだけだった
彼はどこまでも正義の味方であり、そんな彼だからこそ鋼造が作り上げたデモンベインに選ばれたのかもしれない
ブラックロッジと唯一渡り合える戦力の九郎が行動不能なこの状況、もしこの時に攻め入られたらただ滅びを待つだけになる
そうなると全てが無駄になってしまう
アル・アジフが激怒したのも頷ける
何とかしなければならない
戦わない自分が戦う者の意味を奪うことなんて赦してはいけない
彼の戦いは崇高なのだ
償わければならない
九郎の戦いを間近で見た今からすれば青臭い幻想に過ぎないのかもしれないが瑠璃も戦いたかった
魔導研究所へ行き出来るだけのことする
デモンベインは夢幻心母から逃走してきたウェストとエルザによって急速修理が行われる
そこへ緊急事態を告げるアラーム音がなり、破壊ロボの大群がやってきてアーカムシティを蹂躙する
これ以上の暴虐は許すまいと魔を断つ剣が再臨した
ただし搭乗者は九郎ではない
オペレーターやウィンフィールドが必死に呼び掛けるも彼女は意志を曲げなかった
今デモンベインのコックピットにるのは瑠璃とアル・アジフ
自らが戦うことで贖罪しようと考えたのだ
アル・アジフも瑠璃の心意気を認め、マギウス・スタイルとなった
素質として九郎には劣る瑠璃は思うようにデモンベインを制御出来ない
攻撃系統はアル・アジフが操作してくれているが並の人間の瑠璃には相当な不可が掛かっていた
デモンベインを動かすためだけのパーツの役割しか果たしていない
デモンベインを操るというよりはデモンベイに操られていると言ったほうが正しかった
バルザイの偃月刀を招喚して投擲するが戻ってきたところを上手く掴めない
破壊ロボとの戦いにも苦戦していた
不運は重なる
デモンベインが生存していることを知ったクラーケンが止めを刺しに来たのだ
鬼械神相手に付け焼き刃のデモンベインで戦うのは流石に厳しい
アル・アジフが撤退を促した
「・・・逃げません。戦います」
帰ってきたのは拒絶
意地だけで言ってるのかとアル・アジフは苛々していたが、彼女の決意は本物だった
バルザイの偃月刀を正眼に構え、剣先を真っ直ぐにクラーケンに向ける
術式に流される事無く、デモンベインに操られる事無く、それは真の意味で初めての、瑠璃の意思による操縦だった
戦う九郎の姿を思い出す
灼きついている
灼きついて、消えなくて、いつしか瑠璃の心を埋め尽くすくらいに大きくなっていた
大十字九郎が戦っている敵を眼前に捉える
クラーケンにバルザイの偃月刀が当たるが威力が足りなくて装甲を破壊出来ない
そこへアトランティス・ストライクで追撃をして補う
吹っ飛んだクラーケンが起き上がると無数の水弾を撃ってくる
躱しきれなかったデモンベインは倒れ込む
危機を救ったのはメタトロン
今のうちに態勢を立て直す
堅牢な装甲を打ち破るにはレムリア・インパクトしかない
言霊のナアカル・コードは瑠璃が所持しているため、一気に撃つことが出来る
賭けるしかなかった
クラーケンがメタトロンに夢中になっている隙に詰め寄る
発動と同時にメタトロンが退き、レムリア・インパクトが決まった
カリグラとクラーケンは昇滅
瑠璃の初陣は危なげながらも勝利を掴んだのだった
逆十字相手に覚悟を見せたことは素直にアル・アジフも認めてくれた
希望はまだ潰えていない
カリグラの死亡を確認するとすぐ刺客を送り込んでくる逆十字
基地内へ侵入してきたクラウディウスが瑠璃のところへやってきた
カリグラを殺されたので気が立っている
しかもここは集中治療室
九郎が眠っているのを確認すると残忍な笑みを浮かべるクラウディウス
瑠璃は徐にバルザイの偃月刀を取ると構えた
駆け付けたウェスト、エルザとアル・アジフが援護して助けてくれる
アル・アジフが瑠璃に呼び掛け、マギウス・スタイルへと移行した
逆十字と対峙することに恐怖する瑠璃だったがここで何もしなくては野垂れ死ぬだけだ
それに眠っている九郎を見捨てることなど出来ない
ニ対一とはいえクラウディウスは互角以上の戦いをしていた
エルザが「我、埋葬にあたわず」を使用して優勢となったところを畳み掛けることにする
クトゥグアを召喚し、瑠璃に握らせる
狙いを定めて撃つが反動の大きさに瑠璃も大きく吹き飛ぶ
視界が回転して地面を転がっていることに気付いた
肝心の銃弾の行方はというと、右手に当たって吹き飛ばしていた
もう一発と撃とうとしたが彼はそこにはいない
真空波が飛んできて瑠璃の体を斬り刻んだ
旧き印をによって護られていた外陰も灰となって散る
残った左手で瑠璃の腹部へ拳を突き入れるクラウディウス
さらに腕を引っ張り地面に叩き付ける
血反吐を吐きながら瑠璃は九郎の事を強く想っていた
ほんの僅かだけ何かに反応したように九郎の指先が動いた
唯の反射に過ぎないが何かが違っていた
九郎は深淵でミスカトニック大学で出会った怪異と向き合っていた
そして混沌に飲まれる
闇彩の光を纏った大十字九郎は駆ける
床に転がったバルザイの偃月刀を反射的に拾い上げ疾走
あまりの早さに誰も気付かない
黒風と化した九郎は恐るべき速度でクラウディウスを斬りつけていた
瞳に光はなく、遠い何処かを見つめているようである
ゆっくりと振り返る九郎に瑠璃達も激しい恐れを抱いた
伸し掛かる闇に耐えられなくなって蹲る
エルザが駆け寄るが弾き飛ばされる
助けるために瑠璃も近付こうとするが斬撃が飛んで来る
自分が九郎を追い詰めたという事実が自責の念となり、何としても救いたいという思いが彼女を支配していた
アル・アジフの助勢あってかどうに近付くことが出来ると抱き付いた
その瞬間、空間が闇黒に飲み込まれた
九郎が体験している深淵の一端を瑠璃も見ることになる
ダンウィッチの怪
九郎が遭遇した怪異の発端はその一族の血に生まれた子、ウィルバー・ウェイトリイによって齎されたものだった
瑠璃は無限に続く本棚の森を歩いていると大十字九郎を模った悪夢がいた
バルザイの偃月刀を取り出して戦う瑠璃
化物もバルザイの偃月刀で襲い掛かってくる
もう一人の九郎は自分と瑠璃が戦うのを俯瞰的に見ていた
自分が瑠璃と戦うのを制止しようとするが意思とは関係なく攻撃を繰り返している
怯えながらも戦う瑠璃を見て理解する
あれは自らの恐怖
魔導書を閲覧した時に生まれた恐怖と向かい合わなければいけない
そして何より、瑠璃が自分のために戦ってくれている
九郎はクトゥグアとイタクァで化物を撃ち、飛び蹴りを喰らわせる
バルザイの偃月刀を使って四分割に斬り捨てる
アル・アジフやデモンベイン、瑠璃の御蔭で九郎は心的外傷と決別することが出来た
四分割にしても元通りになって復活する怪物
そこへ紙吹雪が舞い降りる
過去にも九郎を救ったのがこのもう一つの怪異
「――まだ早い」
「まだ出会うには、早い」
「時が来れば、我等は必ず巡り逢う」
「だが・・・今はまだだ!まだなのだ!」
「今はまだ外道の知識を操る術が、理不尽と戦う力が、来るべき運命に抗う意思が無い!無いのだ・・・」
「――九郎!」
誰かが話しかけてきているが正体は解らずじまいであった
その怪異は化物を倒す手助けをしてくれたが止めを刺すまでには至らない
すると玄関から一匹の黒い狗が現れて化物に喉笛を噛み千切る
それで沈黙した
黒狗が九郎達に向かって近付いてくると躰が弾け、暗黒となった
再び闇に飲まれる
覚醒すると現実に戻っていた
包帯を取ると全身の傷は治っていることがわかる
九郎同様眠っていたアル・アジフと瑠璃を起こす
クラウディウスは血塗れで瀕死の状態だった
アル・アジフが警鐘を鳴らすと肉鞭が近寄ってきていた
即座にマギウス・スタイルへ変身すると落ちていたクトゥグアを拾い撃つ
触手が千切れ飛び、辺りに腐汁を飛び散らせる
動く死体、ティベリウスがやって来ていた
九郎がマギウス・スタイルになったかと思いきや、今度は瑠璃が変身したりしてティベリウスを翻弄する
交互にアル・アジフが行ったり来たりすることでティベリウスに攻撃を予測させない
さらにエルザの我、埋葬にあたわずも加わる
それでもティベリウスを倒す事は出来ない
しかし完全な不死はない
魔力によって生き長らえているのなら元を断てば良い
畢竟するに妖蛆の秘密を破壊すればいい
体がバラバラになっているうちに取り押さえ、魔導書を探そうとする
そこで烈風が吹いた
もう死んでいてもおかしくないくらい重傷を負っているクラウディウスが鬼械神を招喚した
彼は完全に錯乱していて九郎と瑠璃を殺すことだけを考えている
九郎は深淵に触れたことで新たな力、シャンタクを得る
ロードビヤーキーが高速で突進してくる
九郎もデモンベインを召喚しようとするが無反応
虚数展開カタパルトが壊れていたのである
だが心臓である銀鍵守護神機関、獅子の心臓が自動的に高速回転し、デモンベインの眸に光が宿る
勝手に昇降機まで歩いて行くと、背面に鋼鉄の黒翼が現出し飛び立っていった
九郎達のところまで来るとロードビヤーキーと対峙する
デモンベインが来たことで得手に帆を揚げる
アル・アジフが完全体となったことで相手が逆十字だろうと互角以上の戦いをしてみせるが、そこへティベリウスのベルゼビュートが招喚される
二対一を強いられるデモンベイン
スターヴァンパイアを喰らってしまい、出力が落ちていく
その間にもクラウディウスが音速を超える体当たりで突っ込んでくる
ただ、その程度の事では動じることもなかった
アル・アジフがスターヴァンパイアに侵蝕された魔術回路へ魔力を供給、バルザイの偃月刀を招喚してロードビヤーキーに振り下ろす
ロードビヤーキーは芸術的なまでに綺麗に左右に切断されて後方に飛んでいく
残ったベルゼビュートをクトゥグアで撃ち抜くと巨大な蝿の集合体となって襲ってくる
レムリア・インパクトを使用してけりを付けることにした
コクピットに右掌を当てると必滅の呪法が拡大していき、一切を無に還す
ベルゼビュートの昇滅と共にアウグストゥスがクトゥルーをコントロールして九郎に襲わせる
戦いの最中、彼の意思とは関係なくクトゥルーは瞬間移動して消えてしまった
一先ず難は去った
ウィンフィールドはティトゥスとの戦いで瀕死になっていたが息はあった
クトゥルーがルルイエに向かっている事が分かったので連合艦隊を引き連れて向かう
ダゴンの群れを蹴散らしながら飛翔するデモンベインの前に皇餓が立ちはだかる
バルザイの偃月刀で戦うが剣術戦は向こうの方が一枚上だった
クトゥグアとイタクァを招喚して撹乱し、当たったところを追い打ちのレムリア・インパクトで沈める
昇滅前に皇餓を乗り捨てたティトゥスはイタクァが氷上に立つ
向けた視線の先にまだ傷が完治していないウィンフィールドが立っていた
ティトゥスの顔が狂気の笑みを帯びる
三度目の戦いとなる両者
これが最終決戦になるだろう
お互いに手の内は知り尽くしている
ティトゥスの四本の腕から繰り出される剣法
一撃目、二撃目を回避しても三撃目、四撃目がある
それを自らの体で体験したウィンフィールドは同じ轍を踏むことはなかった
一撃目と二撃目を回避してから、三撃目と四撃目が放たれるよりも早くティトゥスの懐に入り込んでいた
「奥義――鎮魂曲・怒りの日(レクイエム・ディエス・イレ)」
強烈な左拳がティトゥスの鳩尾を捉えた
くの字に曲がってティトゥスが吹っ飛ぶ
内蔵を掻き回し、肋骨、背骨を粉砕する
あくまで人間として戦い続けるウィンフィールド
人間であることを捨て、邪道に堕ちたティトゥス
明暗を分けたのはそこだった
デモンベインはクトゥルー内部を突き進み、ウェスパシアヌスを退けて巨大な心臓がある間まで来た
待ち受けていたアウグストゥスはクトゥルーと接続していて不死身の如き、耐久力を誇っている
調子付いているアウグストゥスもウェスパシアヌスが裏切るとは予想していなかった
クトゥルーと断絶されて燃え尽きる
そして覇権を取ったウェスパシアヌスもまた今、生まれ落ちたマスターテリオンによって簡単に消滅させられてしまう
マスターテリオンはルルイエを浮上させ、ヨグ=ソトースを降臨させ、扉の向こう側へと行ってしまった
門を潜れば戻って来れなくなる
瑠璃にそのことを質問されてしどろもどろになってしまう九郎
何とか誤魔化したが彼女は薄々帰らないんじゃないかと思っていた
瑠璃にとって大切な人は皆いなくなってしまう
そのことが悲しくてならなかった
泣く瑠璃に向かって嘘に近い約束になるが、必ず帰ってくると言った
邪悪を倒すために九郎は朝日と共にヨグ=ソトースの門へ突入する
待ち受けていたマスターテリオンとの激闘が始まった
リベル・レギスの力に圧倒されながらも待っている瑠璃の事を思えばどれだけでも踏ん張れた
何回かの時空震の後、地球の付近で戦ってデモンベインが重力弾に捕まると総てが停止する
凍りついた時間の中でリベル・レギスだけが動いている
異形の匣を見た
アル・アジフはどうにかして九郎をあるべき場所に返そうとした
そこで九郎に取り憑いていた怪異と出会う
彼女との会話でようやく総ての絡繰を理解したアル・アジフ
だが総ては間に合わない
再び、輪廻の蛇に囚われる
ヨグ=ソトースの門が閉じてから早一年
瑠璃は今もずっと九郎の帰りを待ち続けている
戻ってくると言いながら中々戻って来ない彼が、憎くて、憎くて――愛おしかった
私室で泣き崩れる瑠璃の元の唐突に光が満ちて、魔術を構成する複雑な術式が編まれ、ヒト型を模る
アル・アジフだった
「・・・何とか、戻って来れたか・・・
だが、長くは持たん。
既に因果が・・・分解し始めている・・・」
言うや否や、アル・アジフの体が幽霊のように透明化していく
「また・・・輪廻に囚われる前に・・・瑠璃・・・汝に伝える事があって、参った」
彼女は輪廻の真実と掻き集めた九郎の意識を転送した
瑠璃は九郎があの後歩んだ道程の全てを知った
九郎はアリゾナの辺境で今際の際にいた一人の人間と会う
その男は九郎に昔付き合っていた女の写真を渡した
アームシティに住んでいるという
最後に見知らぬ男に名前を聞くとそいつは"覇道鋼造"と名乗った
衝撃が走る
「見えたか?絡繰が」
マスターテリオンの声に振り返る
「これが始まりだ。大十字九郎。
余は再び、貴公の前に現れる。
再び、あの『ブラックロッジ』を
引き連れて。
それまでに何をすれば良いか・・・貴公には解る筈だ」
哄笑だけ残してマスターテリオンの姿が消えていく
三ヶ月費やして九郎はアーカムシティに戻った
覇道鋼造の遺言を叶えるべく、問題の女性を捜したが会うことは出来なかった
病によって亡くなっていたからである
朗報と言って良いのかはわからないがその女性は鋼造と別れた後で一人の子を産んでいた
九郎はその子供に逢いに行った
そしてその瞬間、ブラックロッジとの闘争の日々が始まった
孤児院にいる坊やに覇道鋼造と伝え、成り代わった九郎
時が流れ息子が成長し、結婚して孫が生まれる
再びマスターテリオンと相見えることになったがその時点で九郎は歳を取りすぎていた
それでも未来は確実に次の世代に紡がれていた
目下、地下基地建造計画は静かに進行している
息子の妻が産んだ赤子にアリゾナで回収したデモンベインを託す
そして成長した彼女はどこの馬の骨とも知らぬ小僧に魔を断つ剣を渡す、という算段になっている
今まで覇道鋼造として欺瞞に満ちた生活を送ってきたが生まれたばかりの瑠璃の前で「ただいま」と言い、その時だけは大十字九郎でいた
瑠璃はその一部始終をアル・アジフから渡された情報でしっかりと確認した
九郎は約束をきちんと守ってくれていたのだ
消え行くアル・アジフは瑠璃に謝罪する
「――まだです。まだ、終わっていません」
瑠璃は運命を変える決断をした
永遠を終わらせるためにもう一度アル・アジフとの契約を求む
この馬鹿げた繰り返しを終わらせるため、瑠璃は動き出す
消失しかけていた粒子は再び増殖する
アル・アジフは実体を持ち、瑠璃を受け入れる
ヨグ=ソトースの環を断ち切るために九郎とマスターテリオンが戦う、決戦の宇宙へと飛び立つ
永劫の接続点へ
九郎を陥れようとしているナイアに介入
混沌の闇をバルザイの偃月刀で一刀両断する
闇黒を鮮血のように迸らせてナイアは斃れる
マスターテリオンとエセルドレーダも唖然としていた
ヨグ=ソトースの環に飲み込まれないどころかリベル・レギスが持っている神剣も風化して塵となる
瑠璃はデモンベインのコックピットへ転送されていた
有り得るはずがない事象が起こり、九郎の頭は混乱していた
「そうですわね・・・簡単に『奇蹟』とだけ言っておきますわ」
眼前のリベル・レギスはまだ動揺しているらしく動かない
「あはははははは!ヒト如きが!人如きが!神のシナリオを打倒したか!あはははははははッ!」
マスターテリオンは不意に笑いだした
己を縛り続けていた永劫がこうも容易く打ち破られたことが可笑しくて仕方ないのだった
これが彼との最終決戦、レムリア・インパクトとハイパーボリア・ゼロドライブが衝突し合う
長き永遠が終わり、総ては正しい因果に還る
デモンベインが、九郎が、瑠璃が光に砕けていく
九郎達が創る未来を楽しみにしながら、アル・アジフもまた消失した
瑠璃は社会的な教養を身につけるため、様々な事を実体験することにした
ミスカトニック大学にも通い、街を練り歩く
アイスクリームを買って食べようとしていたら一人の男性とぶつかってぐちゃぐちゃになってしまった
迷惑をかけた代償としてその男に街案内をさせようとする瑠璃
アイス一つでそこまでしなければならないことに異議を唱える男
傍から見ればそれはただの痴話喧嘩にしか見えない
だがそんな様子を微笑みながら見守る銀髪の少女がいた
END
●ライカ・クルセイド アリスンに降り掛かった災難を直接救ったのはライカだったが彼女は九郎の貢献あってのことだと褒めてくれた
九郎が危険な事に首を突っ込むのには反対したい反面、応援したい気持ちもある
満面の笑みを見せるライカに今までとは違うものを感じる
その笑顔の裏に彼女は何を湛えていて、何がこんな陰を浮かび上がらせるのか
ライカの買い出しに付き合わされた九郎
殺人的な荷物を持たされ疲れたので喫茶店に入る
和やかな会話を楽しんでいたら窓の外を見たライカが慌てるように飛び出していく
何事かと九郎も後を追うが完全に見失ってしまった
ダウジングを使って気配を探ろうとすると別の強大な何かが引っ掛かる
全身を拘束された少女が現れていきなり九郎の顔を鷲掴みにして伸し掛かってきた
かなりの手練と見えた
構えた二挺拳銃から弾丸が放たれる
防禦陣を展開するが貫通してダメージを与えてくる
どう戦えばいいか考えていると最悪のタイミングでライカがやってきてしまう
少女は九郎にとってライカが大切な人であることがわかると魔術の縄でライカの体を縛って連れ去ってしまう
13番封鎖区画と14番区の境界の一番大きい建物の中で待っているとご丁寧に告げて
礼拝堂でライカの帰りを待っていた子供達の前に一人の青年が訪れる
飾り気のない、何やら武術の道着のような服
露出は少ないが、それでもその下に隠された肉体の強靭さを感じずにはいられない
「シスターは・・・居ないのかな?」
突然尋ねられて子供達はびくっとするが、アリスンはまだ帰っていないと伝えた
少年はライカが帰ってくるまで待つことにした
ハーモニカの音色が教会に響き渡る
子供達と少年の心を遮る緊張の壁は、たったそれだけのことで取り払われていた
マギウス・スタイルでライカがいる場所まで行くとややこしいことになっていた
ライカを担ぎ上げる暴君、彼女を捕縛しようとしているカリグラ、クラウディウスがいた
九郎も交えて三竦みとなる
逆十字クラスが三人ともなると持て余す
兎にも角にもライカの保護が最優先なので暴君に向かって飛び掛かる
銀のリボルバーからカリグラ、クラウディウス、クラウディウスが放ったヨーヨーに向かって銃弾がそれぞれ二発ずつ発射される
今のうちにアトラック=ナチャで伸ばした髪でライカの体を絡め取り回収しようとするが、クラウディウスが髪を切断
落下したライカは再び暴君の手に落ちる
目を撃たれたカリグラが形振り構わず暴れ出し、鬼械神を招喚してしまう
廃墟は単なる瓦礫と化す
ライカを探せど見当たらない
彼女の安否は気になるが現れたクラーケンを何とかすることが先決だった
デモンベインを招喚する
クラウディウスもロードビヤーキーに搭乗していた
ライカを巻き込んだ逆十字は許せない
九郎が碌に制御も出来ないクトゥグアを解き放とうとした瞬間、魔法陣が描かれ超巨大な鬼械神が現れる
ネームレス・ワンの上部に暴君が腕を組んで立っていた
カリグラの暴走のせいで右手が千切れ飛んでいる
その仕返しをしっかり行うために、暴君はネームレス・ワンに命令を出す
クラーケンの全長ほどある拳が突き出されると轟音が響き、50メートルある巨体が木の葉みたいに宙を舞う
たったの一撃でクラーケンは半壊、どうみても戦える状態ではない
絶対的な力を持つネームレス・ワンが今度はロードビヤーキーに狙い定めた
光弾の雨が降り注ぐが間一髪で回避したロードビヤーキーはクラーケンと共に撤退した
残されたのはデモンベインとネームレス・ワン
クトゥグアを顕現させるが魔砲弾によって撃ち抜かれ爆裂四散した
九郎は先程暴君と戦った時に奪った自動式拳銃と回転式拳銃にクトゥグア、イタクァを内包させる
ネームレス・ワンに撃ち尽くし、アトランティス・ストライクまで追加したが倒すことは出来なかった
呪縛弾によって拘束される
これだけの巨体でありながら完全に気配殺していた
自己修復機能で破損した部分が再生していく
動けない九郎にネームレス・ワンが最後の術を放とうとしていた
絶望感に近い危機感が体中を支配するが解呪が間に合わない
直前、一条の光が疾る
ビーム砲の一撃が暴君を貫いた
飛んできた方角を見るとメタトロンがいた
「やあ、遅かったね・・・先ぱ・・・」
ダメージを受けてもお構いなしに笑い続ける暴君
メタトロンは一心に撃ち続ける
「お前は――私の手で滅ぼさなければならないだろな」
砲口から激しい輝きが溢れ出る
止めを刺すつもりだ
再びネームレス・ワンの腕に破滅的な力が集う
アル・アジフが解呪に成功する
ヒラニプラ・システムにアクセスして瑠璃から承認を貰う
再生能力を上回るだけの威力を持つのはレムリア・インパクトだけだった
右掌がネームレス・ワンに触れる
今度こそ完全に昇滅させた手応えがあった
だが勝利の余韻には浸れない
ライカを守れなかったことには変わりない
九郎は腹の底から怒りをぶちまけた
悲劇のヒーローを演じているところへ水を差すようにアル・アジフがデモンベインの足元を見ろと言ってくる
そこにライカはちゃんといた
メタトロンが助けてくれたのだという
無事、教会まで戻ってくる事ができた
扉を開くとハーモニカの音が聞こてくる
軽快で綺麗な音色だった
ところが青年を見たライカの表情が凍りつく
ライカに気付いた少年が知人のような口調で話しかける
彼女は小刻みに震えて動揺しているようだった
リューガ、それが青年の名前だった
今日は遅くなってしまったので日を改めて来ると言って去ろうとするがライカの只ならぬ様子に全員黙り込む
叫ぶ姿は悲痛を帯びている
九郎がリューガを呼び止めるが足早に出て行ってしまった
彼の事について詳しい話を聞きたいが溜息ばかりつくライカを見ていると話しかけていいものか悩む
そんな中クトゥルーが始動
異様な雰囲気を感じてライカ達のところへ向かう九郎
彼女達は無事だったが破壊ロボの大軍が押し寄せてきていた
デモンベインを招喚して破壊ロボを倒す
ライカと子供達をシェルターに避難させて降りてきたマスターテリオンと戦う
悲しくも逆十字の謀略にかかってしまい、命を落とす大導師
次の標的となってしまったデモンベインは逃げ切れず捕まる
レガシ・オブ・ゴールドに消される寸前、メタトロンが飛翔してきて九郎とアル・アジフを廃墟まで救出してくれたが彼女も深手を負っていた
アル・アジフは苦しそうにしていて目覚める気配がない
同じくメタトロンも朦朧としていて装甲はあちこち罅割れて熔けてしまっている
駆け寄るとメタトロンの仮面が割れた
素顔を見て驚愕する
髪の長さこそ違うがそれは紛れもなくライカ・クルセイドだったのだ
ライカが目覚めて九郎を見つめる
二の句が継げない彼を見てライカは自分の仮面が無いことに気付いた
どうしてメタトロンがブラックロッジと戦う事をやめさせたかったのか、正体が分かって得心した
ライカは子供達を導くシスターとして働き、その影では英雄メタトロンとしてアーカムシティを脅かすブラックロッジと戦っていたのだ
一体の飛行型破壊ロボがやってきて、中から瀕死のウェストとエルザが出て来る
覇道邸の迎えも来てこの場から離れることにした
ライカは超高速で逃げるように翔び去ってしまう
力を使い果たしてぐったりしているアル・アジフ
デモンベインが撃破された地点を捜査したが残骸一つ発見出来なかった
子供達がライカが戻って来ていない事に心配している
九郎はライカを探すことにした
教会へ行き、礼拝堂の扉を開くと磔の聖者像を見上げているライカがいた
ライカの正体がメタトロンであることは子供達には言っていない
苦悩と疲弊が剥き出しになった表情など初めて見ることだった
誰にも気付かせることなく今まで隠してきたのだ
本当は信心深くもない、シスターの真似事をやっているだけと打ち明けるライカ
嘘を付いていたことを告白したライカ
何故こんなことをしているのかと聞くと、押し黙ってしまう
それは最も触れられたくない部分だったのかもしれない
「それは、そいつがブラックロッジの団員だからさ」
背後からの声に振り返るとリューガが立っていた
ライカが明らかな敵意を込めて彼を睨む
閃光が教会を白く染め上げるとライカの体を包みこむ
光の粒子が結晶化してパーツとなって装着される
メタトロンとなったライカはリューガへと斬りかかった
感情に任せた、手加減無しの一撃
それを素手で受け止める青年
「そいつは、ライカ・クルセイドはブラックロッジを裏切ったのだ!」
闇が靄になって湧き出すと黒い鎧となって装着されていく
黒の天使、サンダルフォンが降臨する
サンダルフォンの正体はリューガだった
ブラックロッジの同胞であることを酷く強調する
ライカはサンダルフォンが言わんとしていることが分かって拒絶する
「――ライカ姉さん」
その重すぎる事実に耐えかねるようにメタトロンは視線を逸らして俯いた
九郎も驚きを隠せない
仮面を外し姉であることを強調するようにサンダルフォンが喋るとメタトロンが激昂して右腕のビーム砲を突きつける
サンダルフォンに殺意を向けるが彼はそれを嬉しそうに受け止める
リューガの体内を強大な力が駆け巡るのがわかる
不味いと感じた九郎はクトゥグアを抜いて発
マギウス・スタイルではないので威力は低いが矛先をこちらに向けることは出来たようだった
目障りと判断したのか九郎に突っ込んでくるがメタトロンが割って入り庇ってくれる
「ほう・・・随分、必死だな。そうか、今はそいつに御執心か」
そう言うリューガの表情は穏やかである
彼はこんなにも深く重いを憎悪を孕みながら、一方では穏やかで静かな顔もする
ヒトの領域を踏み外した狂気が感じられた
ビームセイバーと拳が交差する
メタトロンの攻撃が届くよりも速くリューガの拳が突き刺さる
軌道がずれてビームセイバーは顔を掠めただけだった
殴られたダメージで膝を突いたメタトロンに近付いてさらなる追撃を加えようとしたリューガだったが顔にある古傷が痛みだす
出血して雨のように撒き散らされた
リューガは「次は殺す」という捨て台詞を残して去っていった
長い沈黙の後、メタトロンの変身が解かれる
ライカは九郎に自分達の事を話すことにした
ライカとリューガは二人きりの姉弟で親はいない
『施設』に引き取られてからも二人は一緒だった
だがその施設はとある機関の研究所で、二人は実験体だった
酷いことはされなかったし、入院患者みたいに大事に扱われた
白い記憶はそこから始まる
何をするにも真っ白な場所で過ごす
実験体は全部で8人いた
リューガ以外は女の子
最初は同じカリキュラムで様々な学習を行ったが、個人差が表れるようになってからは別々の教育方針を取るようになった
仲良くなった他の子達とも会う機会が減った
施設の最終目標は子供達を人間魔導兵器として育成すること
そしてその施設はブラックロッジの魔導研究所
尖兵として敵対するものを殲滅する為の殺戮人形を作り出す機関
ライカは試験体04
魔導兵器を術式に変換して体内に内蔵する人造人間、それがメタトロン
リューガは試験体05
体内に内蔵されたダイナモによって、字祷子を吸収、体内で循環させ、驚異的な戦闘力を発揮する近接戦闘型人間魔導兵器
別のコンセプトで設計されたライカと同タイプの人造人間だった
しかしライカはリューガを殺して施設から脱走したのだ
でも現にリューガは生きている
ライカは確かにリューガを殺したが利用価値があると判断したブラックロッジが生き返らせた
今の彼は体の殆どが人工物に置き換わっているはずである
一度死んでから再びライカの前に現れたリューガは以前とは違っていた
殺された事をずっと恨み続け、ライカを倒すことだけを考えている
彼女はそんな可哀想な弟の眠らせるために行動している
「私は、もう一度、リューガを殺さなければならない」
一つは復讐の為
一つはリューガを殺す為
メタトロンは正義の味方なんかじゃないと彼女は言うが、九郎はライカがこの街のために傷付いてきたことをよく知っている
二つの仮面で自分を隠して、誰にも涙を見せないで他人の涙を止めてきた
ライカは全部一人で片を付けるつもりでいた
九郎の戦いたいという意志を無視して戦わせず、文字通り一人で背負い込むつもりだった
その考え方が九郎には傲慢に思えてならなかった
ライカもう皆の心の中に居着いてしまっている
親の居ないジョージ、コリン、アリスンは真っ直ぐライカを見て育った
彼女がどんな過去を持っていようが彼らにとっては『ライカお姉ちゃん』だ
それを卑下して欲しくはない
ライカの命はもう独りだけのものではない、居なくなったら悲しくなる人間がいるのだ
九郎に言われてそのことに気付くと猛省した
デモンベインが失くなってしまったがアル・アジフとメタトロンがこちらにはいる
ウェストが特性魔導武装『ハンティング・ホラー』を用意してくれる
オートバイに見えるがメタトロンに合わせてチューニングしてある
魔導書『ナコト写本』を組み込んでいる
マスターテリオンがやられ、夢幻心母からこちらに来るまでの間に入手することが出来たのだ
魔力も大半は失われていたが術式自体は素晴らしくハンティング・ホラーを軌道させるには申し分ない
あと少しで完成するというところでブラックロッジの飛行型破壊ロボがやってきて空爆を開始した
メタトロンとなったライカが先陣を切る
九郎も加勢するためにエルザと破壊ロボを操作して出撃
程なくして逆十字はカリグラを送り込み、クラーケンが招喚される
デモンベインがない現状戦力差は圧倒的
瑠璃が退却を促すが破壊ロボでメタトロンと一緒に戦う
クラーケンの水滴弾を喰らって四肢と翼を呆気なく破壊され、エルザと共に外へ吐き出される
上空から落下する中、何かが実像を結びつつあった
現れたのはハンティング・ホラー
さも当然と言わんばかりに虚空を『走行』していた
乗っているのは回復したアル・アジフだった
九郎の元へ行くと空中でマギウス・スタイルへと変身
エルザを抱えつつ浮遊する
ハンティング・ホラーはメタトロンのところへ向かって行く
搭乗すると主人を得たことで活性化、光の槍となってクラーケンに突撃する
クローを放ってハンティング・ホラーを粉々にしようと試みるが、粉砕されたのはクラーケンの拳だった
そのままクラーケンの魔術防壁を打ち破りコックピットに突っ込む
限界までエンジンを回転させ、今獲物を仕留めんというところで急に沈黙
肝心なところでトラブルが発生して動かなくなる
クラーケンを倒しきれていないがハンティング・ホラーが穿った亀裂を九郎は見逃さなかった
イタクァとクトゥグアをその一点に集中させる
メタトロンも大口径ビーム・ランチャーで同じ場所を砲撃
コックピットにいたカリグラを巻き込んでクラーケンは爆発し、ゆっくりと倒れた
デモンベイン無しで逆十字に勝って見せたのだ
時を置かずしてクラウディウス、ティベリウス、ティトゥスの三人が同時進行してきた
ライカはリューガがこれに乗じて来ることを確信していた
散開して銘々逆十字の対応に当たる
クラウディウスをクトゥグアの一撃が上半身と下半身に分断する
死んだのを確認してから先を急ぐ
リューガはライカに最大の後悔をさせるために、子供達がいるシェルターに行く
ハーモニカが上手なお兄ちゃんとしか知らない彼らには警戒心が全くない
闇を纏い、リューガはサンダルフォンへと変神する
黒の天使が現れたことで避難上は恐慌状態となった
ジョージ達を殺そうとしていたところへメタトロンが駆け付ける
凄まじい攻防の中、サンダルフォンの執念がメタトロンを追い詰める
彼女の仮面が割れてついに三人は真実を知った
サンダルフォンが倒れたメタトロンに最後の一撃を入れようとするが、そこで過去の記憶が彼を蝕む
激痛で悶え苦しんでいるうちにライカを運び出そうとするが大の大人を子供の力で移動させるのは至難の業
それでも三人で力を合わせてもどかしい速度で移動する
そこへ折悪しくティベリウスがやってくる
サンダルフォンはたとえ逆十字であってもメタトロンとの死闘を阻むことは許さないと言うが、ティベリウスは引かない
寧ろサンダルフォンが邪魔であるかのように触手の先端に握られた鎌で彼の背中を突き刺した
黒の装甲は影となって砕け生身のリューガを晒す
鎌が引き抜かれると前のめりに倒れて血溜まりを作る
ティベリウスはメタトロンを強奪しようとする
暴君が死亡したのでCの巫女にライカを使おうというのだ
サンダルフォンとの戦いでだいぶ傷付いているライカだったが、再びメタトロンへと変神してティベリウスと相対する
斬り刻み、焼き尽くしてもティベリウスを倒す事はできなかった
斬り落とした肉の鞭が自立して這い回り子供達を束縛する
人質を取られてしまったメタトロンはティベリウスに抵抗できない
丁度良いタイミングで九郎が駆け付ける
子供達をイタクァの精密射撃で解放して形勢逆転
ジョージ達を逃してこの場を引き受ける九郎だったが予期せぬ事態が起きる
倒したはずのクラウディウスが襲い掛かってきたのだ
メタトロンのビームによって助けられる
クラウディウスはティベリウスによってゾンビ化させられていた
二対二の戦いをしているとエルザとウェストが助けに来てくれる
ハンティング・ホラーを完璧に調整終わったのでメタトロンに届けに来たのだ
そこでクラウディウスが鬼械神を招喚
上空に舞い上げられた九郎はライカが駆るハンティング・ホラーにキャッチされて乗る
ロードビヤーキーとハンティング・ホラーが互いに音速を超えて衝突し合うが風の結界を簡単に貫通してダメージを与える
鬼械神の防禦結界を破れるのはナコト写本による影響が大きい
荒唐無稽な動きでロードビヤーキーを追い詰めるハンティング・ホラー
このちっぽけな存在に鬼械神が手も足も出ない
ロードビヤーキーの心臓を貫くために一直線に疾走する
刹那、クラウディウスがコックピットから飛び出した
九郎はハンティング・ホラーの上に立ってバルザイの偃月刀を振り下ろす
手応え無いがそれだけでゾンビ化したクラウディウスは砕けていった
ロードビヤーキーもハンティング・ホラーに仕留められていた
倒したまでは良かったがライカの体に異変が生じる
全身が激しく痙攣し何かに犯されている
ハンティング・ホラーに異常が生じていた
夜闇よりも黒い闇が溢れ出して空間に滲んで広がる
闇に包まれたハンティング・ホラーの姿はまるで1匹の巨大な黒犬に見えた
怪異かライカを救い出さなければと思っているうちにティベリウスが招喚したベルゼビュートが襲ってくる
マギウス・スタイルで鬼械神の相手は務まらずライカが攫われてしまう
ティベリウスは敢えて九郎達を見逃し夢幻心母へ帰っていった
戦う術がない現下において利用できるものは何でも利用しなければいけない
九郎はハンティング・ホラーに乗ることにする
きな臭さを感じずにはいられないがこの際文句は言ってられない
ライカを助けるために夢幻心母へ乗り込む決心した
そこへアラーム音が鳴り響く
ティベリウスの哄笑が聞こえてくる
鬼械神が顕現化するがその姿は誰をも驚かせた
彼が乗っているのはデモンベインだったのである
デモンベインを駆っていた者がデモンベインにやられる
これほどの屈辱があろうか
ハンティング・ホラーで打って出るがライカ用に調整されていたため九郎を排斥しようと敵意を向けてくる
乗り捨ててマギウス・スタイルで戦うが鬼械神相手には歯が立たない
ティベリウスに殺されかけたリューガは命からがら逃げ延びていた
彼の奥底に眠る追憶が無限の戦意を与える
デモンベインに妖蛆の秘密を利用し怨霊を纏わせて攻撃させるティベリウス
乗っ取られているにも拘わらず、デモンベインは哭いていた
意思を持たないはずの鋼鉄が哭いていたのだ
コックピットにバルザイの偃月刀を突き刺して亀裂を作る
魔力を流し込ませて爆発させ、コックピット内部へと進入
ティベリウスを細切れにして叩き出す
デモンベイン奪還にはサンダルフォンも手助けしてくれた
彼もティベリウスには借りがあったため、利害が一致した
いつも通りベルゼビュートを招喚
サンダルフォンは九郎が乗っていたハンティング・ホラーを手に入れ乗りこなしていた
二機に翻弄されながらベルゼビュートはレムリア・インパクトの一撃で昇滅した
戦いが終わると突如ナイアが現れてアル・アジフの最後の断片を渡してくれた
ベルゼビュートを昇滅させても尚、ティベリウスは死んでいなかった
サンダルフォンが妖蛆の秘密を破壊して今度こそ本当に死滅した
ルルイエ浮上を阻止するための決戦が始まろうとしている
Cの巫女として逆十字に捕らわれているライカを救出しなければいけない
シャンタクを使ってクトゥルーまで向かう
内部で皇餓と遭遇するが、ウィンフィールドからティトゥスの事を聞いていた九郎は激戦の末に勝利
サンダルフォンもハンティング・ホラーでクトゥルーに入り込んでいた
ウェスパシアヌスと遭遇してサイクラノーシュと戦う
ガルバ、オトー、ウィテリウスの呪詛に掛かってしまうサンダルフォンだったが殺意だけで消し飛ばす
姿を隠していたサイクラノーシュをハンティング・ホラーが貫いた
機械仕掛けの心臓が爆裂した
デモンベインとサンダルフォンは巨大な門の前で鉢合わせになる
ティベリウスの時は共闘したがライカの命を狙っている事に変わりはない
ここで倒しておくべきだった
戦いが始まろうとしていたところで瘴気が押し寄せてくる
門の向こうにはアウグストゥスがクトゥルーに接続したレガシー・オブ・ゴールドで待ち構えていた
デモンベインの攻撃もサンダルフォンが乗るハンティング・ホラーの一撃も防禦結界と再生能力の高さが相俟って意味を成さない
傲然としているアウグストゥスだったがウェスパシアヌスの裏切りによってルルイエ異本との接続を遮断され轟沈
ガルバを生贄としてウェスパシアヌスは生きていた
ライカは心臓部に埋まるリベル・レギスのコックピットで触手に絡まれ犯されていた
『ムーンチャイルド計画』、その発案者であるウェスパシアヌスによってライカもリューガも彼の思惑通りに育てられた
今、ライカがクトゥルーの生贄とされているのも10番目の子供を孕ませるため
ウェスパシアヌスが外陰から小さな瓶を取り出すとその中には生命未満の胎児が入っていた
九郎は本能的にの赤子から悪寒を感じ取る
「君の子供が・・・窮極の魔人としてクトゥルーを支配し、地球に君臨するのだ・・・マスターテリオンでは無い!私が・・・私が作った子供がだ!遂に私は・・・あの大導師を超える事が出来るのだ!私の恐怖は・・・克服された!されたのだ!」
「まあ、それはそれは本当に――ご苦労様」
突然響き渡る少女の聲
ハンティング・ホラーに無数の罅が入り、蛹から孵る蝶みたい七色の光が幻舞する
虹色の光が矢となってウェスパシアヌス迫る
「貴方の役目は此処まで。そろそろ退場の頃合です。ウェスパシアヌス導師」
華奢で繊細な腕が、ウェスパシアヌスの胸を易易と貫いていた
「喜んで良いですよ、導師。貴方の言う通り・・・その子は確かに、確かに『暴君』を超える魔人です。貴方の念願は叶いました。ただ・・・、それは決して、貴方の力ではないのですが。だって総ては――運命の奴隷だもの」
エセルドレーダが明確な形を持って現れていた
ハンティング・ホラーに組み込まれていたナコト写本は弱っていたが逆十字を倒すことで妖気を吸収していた
ここに来て彼女本来の形を取り戻すこととなる
彼女はライカを『Yの巫女』として利用するつもりらしい
そこで二度目の死から帰ってきたウェスパシアヌスがエセルドレーダの足首を掴み引き摺り倒す
ステッキを喉元に突き付け立場が逆転するも、エセルドレーダが命じると心臓に埋まっていたリベル・レギスが起動してウェスパシアヌスを握り潰す
これで三度目の死
エセルドレーダとライカは差し出されたリベル・レギスの掌の上に舞い降りた
デモンベインで攻撃しようにもライカに当たってしまうと元も子もない
九郎はデモンベインか降りて直接ライカを助けに行く
ところがハンティング・ホラーに乗っていたことで少なからずナコト写本の邪気を受けていたサンダルフォンがエセルドレーダの操り人形となって九郎の行く手を阻む
もたもたしている間にナイアが現れ、エセルドレーダと共にヨグ=ソトース降臨の儀式を行い完成させてしまう
夢幻心母と共にヨグ=ソトースに飲み込まれる
サンダルフォンの隙を見つけてエセルドレーダにクトゥグアとイタクァを連射する
弾丸が彼女を貫き血を吐いて倒れる
ライカを抱き起こして必死に呼び掛けると意識を取り戻すが、次の瞬間彼女は九郎の腹部をビームセイバーで貫いた
ライカもエセルドレーダによって操られていたのだ
バランスを失って倒れる九郎
そこで今まで沈黙していたサイクラノーシュが起動し、リベル・レギスを押し潰さんと突撃する
最後の魂を消費してウェスパシアヌスが復活
サイクラノーシュの装甲が開いて内部から気怠げに蠢く一本の触腕が姿を現す
リベル・レギスに突き刺さすと魔力の流出が起こって吸収していく
エセルドレーダが指示するとリベル・レギスに金の十字架が握られサイクラノーシュを貫く
互いに串刺しになったまま活動を停止した両機
ウェスパシアヌスがコックピットから出て直接彼女を斃しに行こうとするとリベル・レギスに握られている金の十字架を人が持てるサイズにまで小さくしたもので心臓を刺される
エセルドレーダが持っている瓶の中にいる胎児がそれを為したというのだ
ウェスパシアヌスが作った赤子の正体を死にゆくウェスパシアヌスの耳元でそっと囁くエセルドレーダ
真実を知った瞬間彼は発狂し、ライカとリューガに逃げるように叫びながら爆ぜた
ライカへの怨嗟がサンダルフォンをエセルドレーダの精神支配から打ち破る
彼女のいる場所まで駆けていくが突き刺されて気絶していた九郎が起き上がり、サンダルフォンを遮る
術式を組んで旧き印を描くとデモンベインの手甲にも印が現れて九郎の意に従う
サンダルフォンの拳ぶつかりあうが軍配はデモンベインに上がる
彼が吹き飛ばされているうちにエセルドレーダとライカの所へ行く
マギウス・ウィングを鏃のように変形させてエセルドレーダの防禦結界に突き込むと破壊することが出来た
飛び蹴りでエセルドレーダを弾き落としライカに手を伸ばす
ライカは自分の過去と向き合っていた
悔恨の念が押し寄せる中、九郎の事を強く想うとエセルドレーダの呪縛を打ち払い自我を取り戻す
ライカの手を引いてデモンベインまで戻ると空間が激震し始めた
時空震によって夢幻心母ごとセラエノまで飛ばされる
リューガはリベル・レギスの拳の上に寝かされていた
エセルドレーダはリューガを取り込み、下僕としようとしていた
そしてリベル・レギスの血肉となるのだ
だがしかし喰われたのはエセルドレーダの方だった
リューガの貫手が彼女の腹に突き刺さる
少女の体が闇に崩れていく
ひとつの闇が形を失い、新たな闇が生まれ落ちる
ライカを奪還出来たことに嬉々とするが安堵してもいられない
エセルドレーダを喰って力を得たリューガがリベル・レギスを起動させてデモンベインの前に現れたのだ
ナコト写本を吸収したことによりさらに強くなっている
デモンベインとリベル・レギスの死闘が始まり、何回かの時空震を経て地球が見える宙域へと行き着く
リベル・レギスが優勢に事を運ぶ中、闇に堕ちた九郎はそこで一つの匣を見る
シャイニング・トラペゾヘドロンを手にすると意思とは関係なくデモンベインが暴走する
振るうとリベル・レギスの半身が綺麗に吹き飛んだ
神剣の力を放出しようと暴れ続けるのをどうにか制御して世界の『外側』へと向ける
『外側』がデモンベインとリベル・レギスを飲み込む
シャイニング・トラペゾヘドロンは満足したのか消滅する
廃墟の大地にデモンベインとリベル・レギスは折り重なって倒れている
シャイニング・トラペゾヘドロンの力を抑え込んだ反動でデモンベインも下半身を吹き飛ばされていた
リベル・レギスから降りたリューガがデモンベインのハッチを開けて九郎のところまでやってくる
アル・アジフと九郎はぐったりとしている
逆上した彼の拳が振り下ろされるが一条の光がリューガを貫く
ライカが意識のない九郎を守り、リューガとの決闘が始まる
彼にはライカしかなかった
ライカが以外を知らなかったから彼女がリューガにとって未知の存在になった時、壊す事しか思いつかなかった
白と黒が空を駆ける
リューガが放った最速最強の拳よりもライカの二刀の光刃の方が疾かった
目が覚めた九郎はリューガが塵になって消えていくのをライカと見守った
元の世界へ帰ろうと考えを巡らせていると脈動する闇が渦巻きナイアを形成する
彼女は何としてもライカに『仔』を受胎して貰うつもりでいた
怖気を感じさせる異形の胎児がナイアの横で漂ってこちらを見ている
そこで覚醒したアル・アジフが九郎を呼び、闇を吹き飛ばす
天に五芒星形の印が刻まれている
その下にはデモンベインの腕が伸ばされていた
コックピットにライカを連れて滑り込む
クトゥグアを招喚して闇に向かって撃つと神獣がナイアを貪る
しかしそれだけでは倒しきれず滅びをは孕む鋭い闇が空間を疾る
一瞬でデモンベインのう腕が消失して魔銃は群がる闇に貪られてしまう
闇の海が完全にデモンベインを呑み込んでしまう前にアル・アジフとライカを連れて外に逃れた
マギウス・スタイルでイタクァを招喚し、ライカも右腕をビーム砲に変形させ同じ一点を撃つ
銃弾と砲弾は魔人の胎児を確実に貫いた
輪廻の鍵を破壊されたナイアは素直に負けを認める
因果に還る時がきた
邪神の居ない、ブラックロッジが結成されていない、メタトロンもデモンベインも存在しない、正しい世界へと戻る
無限から抜け出し、未来へと進み出す
アル・アジフは消え行く寸前に九郎とライカが出会えるように計らってくれると約束した
そして九郎はもう一つだけ彼女に懇願する
この戦いの記憶を世界が回帰しても残しておいてくれと頼んでいた
誰も憶えていないなんてあまりにも寂しすぎる
だが総てが戻った世界で唯一九郎だけが目の前にいるライカが知らなくてもいい事を知っている
それは同時に彼自身を苦しめることになった
ライカはもしかして己が忘却していることで九郎が懊悩しているのだとしたら、と勘付きいつまでも彼と共に歩いて行くことを誓った
END
■シナリオ別感想 ★アル・アジフ アル・アジフのルートは物語の核心部分に迫るので"最後"にプレイすることを強く推奨します 特殊エンドへの分岐もあるし、恐らくシナリオが一番長い
それにシャイニング・トラペゾヘドロンの登場回数が最も多くてバトルがとにかく熱いw
最終武装の顕現は本当に燃える
あと総ての絡繰はアル・アジフルートをやらないと分からないので瑠璃→ライカ→アル・アジフかライカ→瑠璃→アル・アジフでやると良いかと
俺は後者で終わらせました
あとネロはこのルートじゃないと出てきません
★覇道瑠璃 瑠璃ルートとアル・アジフルートはセットだと考えると良いかもしれない
瑠璃→アル・アジフをプレイしてからもう一度瑠璃のルートをやるとわからなかった部分が解消されます
瑠璃がマギウス・スタイルになるのもこのルートだけ
彼女はずっと戦わないと思ってただけにこの展開は良かった
最強の魔導書と凡人、水と油とまで言っていいほどの二人が手を組むのは中々に見応えがある
デモンベインで戦いたいという宿願が叶って瑠璃が救われるルート
まあ本人専用の分岐なのでそうなるように作ってあるんですけどねw
★ライカ・クルセイド ライカのルートは本作品で最も異端と言ってもいいかな
瑠璃とアル・アジフのルートはかなり共通する点が多いんだけど、このルートだけは逸脱しているように思う
まずネームレス・ワンがかなり序盤で消失して、C計画の機体にリベル・レギスを使っていること
そして巫女となるのがネロではなくライカだったこと
ライカはウェスパシアヌスによって魔改造されているので巫女としての役割を果たすことが出来た
ちなみにシナリオの方では誰であるかは敢えて書きませんでしたが胎児=マスターテリオンです
リベル・レギスにリューガが乗るのも他ルートとは全く違って面白かったです
マスターテリオン専用機体と思っていたが魔導書の力を取り込めば他の人でも乗れるのねw
個別シナリオについてはもっと書きたいことが山ほどあったはずなんだけど書こうとすると頭から出てこない定期 ■キャラクター エセルドレーダ >ライカ・クルセイド(変神時) ≧覇道瑠璃 >アル・アジフ >ライカ・クルセイド >ルルイエ異本 >ナイアルラトホテップ >エルザ ≒ネロ >アリスン >マコト ≒チアキ ≒ソーニャ ●エセルドレーダ
ナコト写本
黒曜石の瞳に黒髪という時点で俺好みなのは決まっていた・・・w
マスターテリオンにずっと忠誠を尽くす一途なところも好きです
彼女単体でも滅茶苦茶強いのはライカルートでわかります
●ライカ・クルセイド(変神時)
ライカさんはメタトロンに変神してる時の方が圧倒的に素敵っていう・・・w
髪が伸びて色が変わるのが何とも良い
口調はずっと凛々しいメタトロンのままでいて欲しかったが九郎に正体がバレると普段通りになってしまって違和感あるw
機械音声の響きが心地好い・・・
●覇道瑠璃
口喧しいがメス落ちすると素直になるツンデレお嬢様
ライカさんには及びませんが想像していたより胸がでかくて嬉しいです
レムリア・インパクトの解呪コードを握る重要な役割を持つ御方
それ以外は個別ルートじゃないと目立った活躍はないw
●アル・アジフ
何だかんだでどのルートでも一番の功績を担っている
最強の魔導書死霊秘宝は伊達ではなかった!
というかアル・アジフがいないとお話にならない状況が多すぎて「あ、やっぱこいつメインヒロインやったんやな・・・」と畏敬の念を感じざるを得ません
そんな最強の魔導書とセクロスする九郎はやっぱり頭おかしい人だと思います
●ライカ・クルセイド
包容力MAX
童貞男性なら間違いなく彼女の尻に敷かれそうなくらい出来た女性
だからライカさんは絶対メタトロン時の方が良いんだって!!(しつこい)
ダルマプレイはマズイですよ!!
こういう事を惜しげもなく言えるのが18禁ゲームの良いところ
発言は結構暴走することが多くて面白い
リョナは女の子が可哀想になってきてどうしても興奮出来ません
やっぱり腹ボテまでやな
●ルルイエ異本 出番がかなり少ないけど一応女の子なのでランキングに加えておきますw
クトゥルー浮上に必須なので役割としては十分仕事をしている
●ナイアルラトホテップ 全ての黒幕、外なる神
女性としての格好が一番多いから加えたけど、本当は性別とか関係ないと思う
女の形を取ってるだけに過ぎない
アル・アジフルートの特殊エンドではアウグストゥスの容姿をしていたし
●エルザ 魔導人形
語尾に必ず「ロボ」が付く
エルザは縁の下の力持ちって感じの位置付けになっているが彼女がいた事で九郎達が救われた場面は予想以上に多い
●ネロ 暴君
ネロに関してはちょっと突っ込みたいところがある
彼女は自分の分身である拘束少女を操ってるのがアル・アジフルートでわかる
しかしネロは瑠璃ルートとライカルートでは一切出てこない
特にライカルートで"拘束少女の死=暴君の死"となっているのが未だに俺の中では不可解な点で、この時点でネロは死んでいないはずなんだが死んだ扱いになっている
二つのルートではネロは何をしているのか?それが疑問だった
●アリスン シナリオのところにはほとんど書かなかったがサブキャラクターの中では窮地を救うなどの活躍がちらほらある
少なくともジョージ、コリンよりは優秀ww
●マコト幼女を見ると暴走するガイジwww
アル・アジフに御執心でいつもべったりしてくっつこうとする
幼女がいないと至って真面目
●チアキ 関西弁が特徴的なオペレーターの一人
ウェストとの漫才は必見で笑えるw
●ソーニャ オペレーターの三人の中では一番まとも
的確な分析と計算能力で瑠璃やデモンベインをサポートする
■鬼械神(デウス・マキナ) デモンベインにおいて欠かせないのが鬼械神
本記事では全部『鬼械神』の名称で統一させてもらってますが実際のゲーム文章では『デウス・マキナ』と片仮名で表記されたりもします
でも俺は鬼械神という表記の方が断然好きなのでこちらで書いています
リベル・レギス >ネームレス・ワン >デモンベイン >皇餓 >ロードビヤーキー >>>クラーケン >サイクラノーシュ >レガシー・オブ・ゴールド >ベルゼビュート ●リベル・レギス
解放前
解放後
リベル・レギスは真の姿を解放する前は糞ダサいですが、解放後は糞カッコいいという・・・w
前面が違いすぎるので別機体にすら見えるw
絶対零度のハイパーボリア・ゼロドライブがデモンベインと双璧をなす威力
デモンベインと同じくシャイニング・トラペゾヘドロンも握ります
やっぱりリベル・レギスがナンバーワン!
●ネームレス・ワン
ネロの機体だがこれも負けず劣らずカッコいい
無骨で建造物みたいなフォルムは荘厳な印象を与える
存在を無かったことにするチート能力を持つ
デフォルトでシャイニング・トラペゾヘドロンと同質の力を持つのはイカンでしょ
なおライカルートでは弱い模様
アル・アジフルートでは超強い
●デモンベイン
一端使用不可になる場面もあるが長く戦い続ける機体
お疲れ様と言いたい
初期武装は断鎖術式壱号ティマイオスと弐号クリティアス、レムリア・インパクト、バルカン砲
アル・アジフの断片回収に伴い、アトラック=ナチャ→アトランティス・ストライク→ニトクリスの鏡→バルザイの偃月刀→クトゥグア→イタクァ→シャンタク→シャイニング・トラペゾヘドロンと修得していく
俺が一番好きなのはクトゥグアです
魔術文字がびっしり刻まれたこのデザインがカッコ良すぎる
イタクァも相当カッコいい
シャイニング・トラペゾヘドロンは最強武装だけに威厳を感じられます
VIDEO レムリア・インパクト使用時はアニメーションが挿入されて糞吹いたwwwww
最後に両手を上げて称えるようなポーズを取るのが好き
●皇餓
鬼械神の中でも出番が少ない皇餓
ティトゥスが強いので皇餓をあまり喚ばなくても良いということでもある
●ロードビヤーキー
3ルート共通で出てくる上に見る機会が多い
細身の体だけどデザインは割と好き
●クラーケン
カリグラとクラウディウスはセットで出現するのでこちらも見る頻度が多くなる鬼械神
腕力馬鹿のカリグラに合わせたようなゴツい形
●サイクラノーシュ
正直形状は好きじゃないw
皇餓と並んで出番が少ない機体
●レガシー・オブ・ゴールド
間抜けなデザインに見えるが火力なら逆十字の鬼械神の中でもかなりのもの
撃つことに特化していて固定砲台として活躍
●ベルゼビュート
お世辞にも格好良いとは言えないがティベリウスの醜悪さを見事に表したような機体
何気に全ルートでねちっこく立ち回ってくれるティベリウス
彼のしぶとさには驚かされます
■曲、BGM OP
VIDEO ED
VIDEO BGMは音楽再生モードがないので名前がわからねぇw
■総括
これを見て欲しい
2014/10/04 俺がこのゲームやり始めて初めにセーブした日時です
今から二年も前なんですwwwwwwwwwwwwwww
Carnivalをやり終えてちょっと3ヶ月後くらいにプレイし始めたんですが感想を書くまで2年の歳月を要しましたwww
全ルートクリアしたのが昨年の8月くらい
そしてそこから今に至るまで1年放置していましたw
「デモンベインの感想早いとこ書かなきゃなー」とは思いつつも、ずっと放置していたw
感想を書き始めたのはつい最近なのでシナリオを大まかには覚えていたけど細かい部分は結構忘れていた
それもこの作品の内容が濃い事にあるんですけどね
クトゥルフ神話をこれだけ本格的に扱った作品に出会ったのは初めてでした
聞いたことない単語の応酬で調べながら進めなければいけないのは大変だったけど楽しくもありました
良い意味で『物凄くオタク臭い』作品に仕上っています
そして狂気を孕みつつも、熱血的に完成されている
英雄はどう在るべきかを語った上で後味悪い思いをしたくないから今出来る最善をする
主人公、大十字九郎の描き方にはヒーローをしっかり演じきるだけの素質があったと感じています
宿命のライバルであるマスターテリオンも対となる存在として見事に描かれていた
クトゥルフ神話に独自のメカを混ぜて話を盛り上げるのも上手かった
そして真相を知った時、
「またループかよwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」 と声を大にして笑ったんですが、ループものに出会う格率が異常に高いのは運命だと思っていますwwwww
いやでもこの作品、
"2003"年の作品ですよ? 今から13年も前なんですよ
それでこのクオリティっておかしいでしょ
完成されすぎでしょ
俺がこのエロゲを最初にプレイしていたならば間違いなく神ゲーの太鼓判を押しただろう
惜しくも斬新さは感じられなかったが、
『ネタが分かっても面白いと思わせるだけの力と読み応えは十二分にある』 鋼屋ジン、素晴らしいシナリオライターだ
共通ルートが長いのでアル・アジフルート以外はかなり省略させてもらったが、それでもキーボードを叩く量は中々のものになってしまったな
うーむ、俺の中でリトバスを超える記事を作るつもりはなかったのだが・・・・
満足する出来だったのでファンディスクもやろうと思います
久々にエロゲ起動させて感想書いたら超楽しいわw
アニメじゃなくて文字媒体じゃないと表現出来ないことってあるよね
それに音声やBGMがついてるんだぜ、ノベルゲーって最高だろ!
S(神) Ever17 -the out of infinity- Steins;Gate この世の果てで恋を唄う少女YU-NO BALDR SKY Dive2 "RECORDARE" WHITE ALBUM2 -introductory chapter- WHITE ALBUM2 -closing chapter- 家族計画 ~絆箱~ EVE burst errorA(優良) 車輪の国、向日葵の少女 G戦場の魔王 装甲悪鬼村正 11eyes -罪と罰と贖いの少女- 素晴らしき日々~不連続存在~ グリザイアの果実 キラ☆キラ euphoria BALDR SKY Dive1 "LostMemory" そして明日の世界より―― 真剣で私に恋しなさい! 最果てのイマ 英雄*戦姫 リトルバスターズ!エクスタシー あやかしびと -atled- everlasting song この青空に約束を― narcisu narcissu SIDE 2nd 穢翼のユースティア 遊撃警艦パトベセル~こちら首都圏上空青空署~ Trample on “Schatten!!” ~かげふみのうた~ ChuSingura 46+1 -忠臣蔵46+1- ルートダブル -Before Crime * After Days-斬魔大聖デモンベイン←NEW B(良) CROSS†CHANNEL 車輪の国、悠久の少年少女 CHAOS;HEAD 俺たちに翼はない 3days -満ちてゆく刻の彼方で- Rewrite BALDR SKY DiveX "DREAM WORLD" 天使のいない12月 WHITE ALBUM 輝光翼戦記 銀の刻のコロナ Sugar's Delight もしも明日が晴れならば 沙耶の唄 はつゆきさくら こなたよりかなたまで CARNIVAL C(普) 装甲悪鬼村正 邪念編 家族計画 ~そしてまた家族計画を~D(微) fortissimo//Akkord:Bsusvier