2011年作品
まだそれほど経ってない・・・かと思われたがユースティアですら1年半くらい前になる
時間が経つのは早いね
初AUGUST(オーガスト)通称=8月作品です ジャンルは"純" ファンタジー■シナリオ 浮遊都市『ノーヴァス・アイテル』
かつて地上が混沌と化し、人類が途絶えようとしていた最中に初代聖女イレーヌが神に許しを請い地上から飛び立ち浮遊してから約500年が経った
今や人と呼ばれる生き物はこのノーヴァス・アイテル以外には存在していない
いわばこのノーヴァス・アイテルこそが人類最後の砦となっていた
このノーヴァス・アイテルには3つの階層区分がされており、"上層"、"下層"、"牢獄"とそれぞれ区分けがされている
上層は貴族達が暮らしている層、下層は一般市民、牢獄は乞食や日々生死を彷徨う貧民街と生活様式も名前に相応しいものとなっている
主人公であるカイム・アストレアは元は下層生まれだったのだが、幼い頃に『大崩落(グラン・フォルテ)』という大地震にあって牢獄に行かざるを得なくなった
家族を失い、行く当てもないカイムを待っていたのは牢獄での地獄のような生活だった
毎日が常に生きるか死ぬかの環境でどうにか生存していたカイムだったがカイムを拾ったどこぞの主がカイムを娼館に売り飛ばそうとしていた
娼館で男娼として働かされようとした矢先に別の男から声が掛かる
『不蝕金鎖』という牢獄一帯を纏め上げている長でカイムの事を気に入ったようで"殺し屋"をやってみないか?と誘われる
カイムに与えられた生き方は「殺し屋」か「男娼」の2択だった
男娼よりは殺し屋の方がまだマシと思ったカイムは不蝕金鎖の頭、ボルツ=グラードに買われた
そうして不蝕金鎖から依頼された殺しの仕事に手を染めて数十年が経った
今やカイムを見受けしてくれたボルツは亡くなり、息子であるジークフリード=グラードが不蝕金鎖の現トップとなっていた
カイムとジークは幼い頃から共に仕事をしてきた仲だった
カイムは厳密的には不蝕金鎖の構成員ではないのだがジークに依頼された仕事はほぼ断ること無しに遂行していた
現在は殺し屋の仕事は引退していて「牢獄の何でも屋」を生業としている
それで今回の何でも屋のお仕事はスリの捕縛
行きつけの酒場・ヴィノレタで働いている店主のメルトが小さな男の子にお金を掏られたようでそいつの捕獲となっていた
しかもその男の子が少し訳ありで『羽つき』という背中に羽が生えている事例だった
羽つきは放っておくとやがて死に至るため、国は『防疫局』という機関を設立し羽つき達を治療するために治癒院という場所へ送り込んでいた
羽が背中にあるものは老若男女問わず、問答無用で治癒院へ放り込まれることになっている
羽つきを探して回るのが通称"羽狩り"と呼ばれる人間達
今回の少年も羽つきであるため、出来れば羽狩りと出会す前に捕まえておきたかった
探すついでに広場を横切ろうとするとちょうど"聖女のお目見え"の式典が行われている最中だった
広場は群衆で溢れかえっていて皆聖女の言葉を静聴している
第29代聖女イレーヌは牢獄の民衆の前でこの都市の安寧を神へ祈っていた
ノーヴァス・アイテルは"聖女の力によって浮遊が保たれている"というのは誰しもが知っている事実なので聖女は人々から崇められていた
普段はどこか剣呑な空気を孕んでいる牢獄民も聖女の前では大人しく言葉を拝聴する
とそこで聴衆から声が上がる
羽つきがこの中に紛れ込んでいるという報告だった
カイムはすかさず少年を探し出す
姿を見逃さず狭い路地で少年を補足した
少々荒くなってしまったが金は回収完了、少年は逃がしてやることにした・・・のだが運悪く少年が逃げた方向から羽狩り一向がやってきてしまって保護されてしまった
羽狩りの副隊長であるラング=スクロープはどうやらカイムが羽つきの少年の保護を手伝ってくれたものと勘違いしたようで話し掛けてくる
正直羽狩りとはあまり顔を合わせたくはない、色々と面倒事になりかねないからだ
そこで羽狩りに保護された少年がカイムの事を不蝕金鎖の人間だと喋り、事態をややこしくしてしまう
羽狩りと不蝕金鎖はお互いの仕事の関係上、馬が合わない事が多い
それ故、不蝕金鎖は羽狩りの羽つき保護には非協力的なのだ
ラングの言い分では羽狩りの部下が不蝕金鎖の面子に腕を切り落とされたことを遺憾に思っており、不蝕金鎖に対する態度は冷たく、挑戦的でもある
カイムがここで不蝕金鎖のメンバーと認知されればどんなイチャモンを付けられるか分かったものではない
しかしカイムは不蝕金鎖の構成員ではない
かと言って不蝕金鎖でないという証拠もないのでラングはひとまず羽狩りの詰め所まで案内しようとする
カイムが承諾を渋っていると、そこへ羽狩りの隊長であるフィオネ=シルヴァリアが到着
フィオネが事の成り行きを問うとラングの言っている部下が腕を切り落とされたというのはカイムに当たるための出任せだった
ひとまずフィオネの機転で事態は無事収束した
仕事終わりにヴィノレタで一息付いているとジークがやってきて顔を顰める
牢獄内部にて近頃麻薬が出回っているらしい
麻薬はボルツの時から御法度でジークも所持者には厳しく罰している
牢獄の医者であるエリスも麻薬に対しては良い顔など出来るはずもなく嫌悪感を露にしていた
麻薬の出所に関しては現状、まだ何も情報は無いがカイムにも用心しておいてほしいとジークは伝えた
ついでに今晩到着予定の馬車が遅れているようなのでジークはカイムに様子を見てきて欲しいと依頼した
気怠いながらもカイムは承服して現場に向かう
牢獄の最奥付近になってくるとツンと鼻の奥を突く血臭
見るまでも無く惨事になっていることは明白だった
さらに現場に接近すると何やら殴打する音が聞こえてくる
何者かがまだ惨劇を繰り広げている――――
ナイフを抜き覚悟を決めて曲がり角から身を乗り出そうとした瞬間、突如光が一角を覆った
カイムは光を目の当たりにしてある記憶が鮮明に蘇る
忘れることなど出来るはずがない、この光は――――
"大崩落"が起こったあの日、天空を覆った眩い光、『終わりの夕焼け(トラジェディア)』だったのだから
もしやまた大崩落が起こるのではないかという不安に駆られ精神が不安定になる
大崩落は牢獄民にとってそれほどトラウマになるものだったのだ
しかし今はそんなことに気を取られている場合ではない目先の事態の方が重大だ
気合を入れ直したところで何者かの一撃がこちらにやってくる
既の所でなんとか躱し、第二陣を警戒したものの攻撃してきた対象はそのままどこかへ走り去っていってしまった
命を持っていかれなかっただけでよしとして現場の探索に当たる
酷い有様で先の奴にやられたのか死体だらけになっていた
生きているものはいなかったが目を引かれる少女が一人血達磨で転がっていた
前方に手を伸ばし、まるで何かを掴まんとしているかのよう
カイムがその少女に手を伸ばしかけた時、突然少女の体が光を放ち始めた
それは紛れもなく"終わりの夕焼け"と同一のものだった
光はしばらくすると少女の背中へと集束し、羽となった
この少女は羽つきのようだ
驚きなのは一見死んでいるかと思ったがちゃんと呼吸をしているということだった
奇妙な少女を現場から拾ってきたカイムは早速エリスに診せてみることに
不満そうにぼやきながらもエリスは少女の手当をしてくれた
その後ジークを呼び出し、事の成り行きを話す
ジークはカイムが見たという"終わりの夕焼け"に興味を示し、少女が目覚めてから事情を聞き出す事をカイムの当分の任務として与えた
少女のなりを見るからにジークが運営している娼館"リリウム"でも雇ってやれなくもなかったが、羽つきというのがネック最大のネックだった
なので情報を聞くだけ聞いたら後は処分、という判断で落ち着いた
翌朝になっても少女は目を覚まさなかった
朝食を持ってきてくれたエリスに少女の事を任せてヴィノレタまで行って帰ってくると、一悶着起きていた
目覚めた少女とエリスが組んず解れつな状態でもつれ合っていた
エリスが医者という事を少女は信用していないようだ
ひとまずカイムが仲裁して二人を落ち着かせる
話を聞くという段になって少女はどこか怯えているようだった
まぁ目が覚めたらいきなり見ず知らずの場所、見ず知らずの人達に話し掛けられているのだから無理もない
少女を刺激しないようにゆっくりとした口調でカイムは昨晩どのような事があったのか慎重に聴取していく
しかしながら肝心の部分について少女は記憶が曖昧になっているらしく思い出せないとのこと
泣きながら消沈してしまう
また少女は自分に羽が生えている事を今の今まで知らなかったようでカイム達に教えられるや否や、羽つきに差し出されるのを怖がってかパニックになってしまった
羽つきに突き出すのならそもそもここまで丁重にもてなさないことを伝えるとひとまず安心してくれた
ともあれこの少女から事情を聞き出すのはまだ時間が掛かりそうだ
リリウムにいるジークの元へと現場の詳細を聞きに行ったカイムはジークから眉唾ものの話を聞かされる
あの後、現場の捜索を任せていた不蝕金鎖の構成員であるオズの話によればアレをやったのは化け物の仕業ではないか、という案が上がってきた
その証拠に黒い羽が落ちていた
ただのカラスの羽だと思い込んでいたカイムだがジークによると同じような黒い羽が落ちていた案件が他にも存在するという
話半分に聞いていたカイムは何か見落としたものがないか再び現場へ赴く
現場調査をしていると一人の女が話しかけてきた
身なりからするにどうみても牢獄の人間ではなかった
下層か上層の人間なのは間違いない
何かを探し求めているらしいがその何かまでは答えるつもりはないようだ
主から命を受けて来たらしいのだがさっぱり要領を得ない
現場はもうオズ達が粗方片付けてしまったのでめぼしい物は何もないことを伝えると女も諦めたらしく、カイムに表通りまで案内して欲しいと言ってきた
億劫ながらも送ってやるとそこへ黒塗りの馬車がやってきた
女の迎えだった
中に居た女性が女を送ってくれたカイムに感謝の意を込めて硬貨を寄越してくれた
その声にどこか聞き覚えがあるのを感じながら手の中の硬貨を見つめる
聖鋳金貨と呼ばれるそれは牢獄じゃとてもお目にかかれない豪奢なもの
協会関係者である線が濃厚だった
つい先日、お目見えになった聖女なのではないかという疑問が脳裏に浮かぶ
そんなことを考えている内に馬車は女を拾って去っていってしまった
自宅に帰ってくるなりまたもやエリスと少女が一騒動起こしていた
宥めつつ少女に何か思い出しか問い質してみる
相変わらず思い出そうとすると頭に靄が掛かったように記憶が不鮮明になってしまうのだという
ジーク、エリス、メルトも呼んで何とか少女の記憶を引き出すことは出来ないかと思案する
もっと少女に開放的になってもらわなければならないというのが結論として挙げられた
まだどこか怯えが残っているので話し辛いところがあるのかもしれない
だがカイムは同時に一つの考えが頭を過ぎっていた
少女はただ単に知らないふりをしているだけなのではないか?
あの日あったことを話してしまえばもう自分は用済みだということを知っていたとしたら?
とてもじゃないが話せる立場じゃないのは明らか
せめて話さないことで少しでも長生きしたいと考えている可能性がある
カイムの考えは的中していたようで少女は3人の会話を寝ているふりをしながらこっそりと聞いていた
だから余計に話すに話せなくなってしまっていた
となればとことんまで少女に優しく接していく作戦に出た
そういえばまだ少女の名前すら聞いていなかったことに思い至る
少女の名前はティア
本名はユースティアというらしいのだが何しろ親がいないのでよくわからないとのこと
そこからはひたすら同情を買っていく
ティアは牢獄に連れて来られるまでは上層で召使いをやっていたのだが、上層だからといって召使いに与えられたのは過酷な労働であった
どうも生まれながらにして不運な娘なようだ
カイムも自分が牢獄で悲惨な目に遭い過ごしてきた事を聞かせる事で少しずつ情を引いていく
ある程度警戒心が無くなったと思われるのを頃合いに牢獄を案内してやることにした
差し当たってはカイム達が慣れ親しんでいるヴィノレタのメルトに挨拶
ティアはメルトの料理が余程気に入ったのか大絶賛していた
ティアも料理することを知ったカイムは街の市場に連れて行くことにした
予想以上に目を輝かせて品物をあちこち見て回るティアにカイムも気圧されながら羽狩りだけには注意しろと釘を刺しておく
途中で雨が降ってきたのでこの日はこれでおしまい
雨宿りしながら帰宅する
就寝時になってもカイムは常に眠りは浅くしていた
暗殺を生業としていた頃からの癖でいつ何時でも動けるようにしておくためだ
だがこの日ばかりは不覚を取ったらしく深い眠りに落ちてしまう
飛び起きるように朝日に目を覚ますと自分の失態に気付く
ティアに逃げられたのではないかという失態が真っ先に思い浮かぶ
しかしそれは杞憂だったようでティアは呑気に朝食など作ってカイムの目覚めるのを待っていた
朝食を誰かと一緒に食べる事ですら喜びを感じるティア
言動の端々からどことなく希望や羨望のようなものが感じられるティアはカイムとは正反対の人間なのかもしれない
ティアの考え方はどんなもんか知ったことではないが、ここ牢獄では日々の糧を得るのが精一杯の場所だ
カイムは今までの努力あってこそ牢獄ではマシな生活をしている方だが食べ物もロクに得られず餓死する人間なんぞ腐るほどいる
そんな掃き溜めのような場所で訪れもしない夢や希望について語るのはあまりに不合理で無意味だった
それでもティアは自分が今までおよそ幸運と呼べるものに何一つ遭遇していないにも拘わらず『お前には生まれてきた大切な意味がある』と誰かが夢の中で言うのだという
その言葉を聞いたカイムは一瞬ノイズのようなものがちらついたがそれもすぐ消失
目の前にいるティアと食事を続ける
その後エリスが訪問してくれてティアを診察
診察が終わり次第また記憶の件について聞いてみるもまだ思い出せないらしい
牢獄の案内ということで今日もティアを市場に連れてきていた
飯の礼ということでカイムはティアに安物の首飾りを買ってあげた
ティアはそれに大喜びして心底大事そうに何度もカイムに感謝していた
ヴィノレタにティアを置いてジークに定例報告
カイムの見立てだとやっぱりティアは知らないふりをしている可能性大と伝える
ジークはティアについては完全にカイムに任せているようで、それよりも最近羽狩りが牢獄内に数を増やしてきている事を懸念していた
ここ最近防疫局の責任者になった若手改革派のルキウスという人物が羽化病罹患者について積極的に保護をしているようだ
警戒をしておくに越したことはない
羽つきが牢獄からいなくなることはジークにしてみれば嬉しいことではあったが
娼館から帰宅したカイムがティアと話をしている時に時折起こる地震がノーヴァス・アイテルを揺らした
カイムは未だにこの地震の怖さには慣れない
牢獄で暮らしている者にとって大崩落はまだ終わってはいなかったのだ
いつ再発するのか気が気でない者もあちこちにいる
大崩落の時にティアはどこにいたか聞いてみたがよく覚えていないようだった
外が騒がしくなっている中、カイムとティアは大人しくじっと息を潜めて収まるのを待った
朝になってヴィノレタで雑談をしていると間の悪い事に防疫局の隊長であるフィオネが入店してきた
ティアは自分が羽つきであることがバレた時の恐怖に竦んでしまう
カイムはなんとかバレないように平静を装うように伝えたがティアはフィオネとの会話でギクシャクしてしまう
そこはフォローしてあげてなんとか事無きを得た
で、フィオネがここへ来た理由とはここを防疫局の拠点にさせて欲しいとのこと
メルトは渋々ながらも防疫局に協力することを了承した
するとぞろぞろと羽狩りの一団が店内に雪崩れ込んできた
人数から察するにそれなりに大規模な作戦のようだ
面倒事に巻き込まれたらたまったもんじゃないと一足先に店内から出ようとしたカイムとティアだったがフィオネは引き止める
このことを口外される恐れもあるからだ
仕方なくフィオネの言うとおり、作戦終了まで大人しくしていることにした
ティアの羽を見られることだけはどうしても防ぎたかったのでメルトとエリスの機転で二階へと避難させる
しばらくして羽狩り達が一斉に立ち上がり目的の場所へと向かった
カイムは様子を見に行くことにしたが、驚いたことにティアも行きたいと言ってきた
羽つきの末路をこの目で見たかったのかもしれない
防疫局達の仕事の一部始終を目の当たりにしてティアは悲壮な顔をした
羽つき達は保護されたが、羽つきを擁護するものは誰もいなかった
それは羽つきがこの牢獄においても疎まれているからだ
羽化病は伝染するという報告がある
特殊な性癖がある人間以外は匿おうとする者はまずいない
それはティアですらも例外ではなく、情報さえ聞き出せばはお払い箱なのだ
そのことをティアは今回の件を見て身に染みて理解したのかもしれない
その晩、ティアは全てのことを打ち明けた
今まで知らないふりをしていたこと、全部話したら自分は用済みになるということを知っていたこと
だがティアからもたらされた情報はあまりにも少なかった
単純に事態そのものを見ていなかったのだ
怖くてずっと俯いていたのだという
ようやく実のある話が聞けると思ったがあまりにも拍子抜けだった
こんなのに時間を割いてきた徒労感はあった
でも知らないものは知らないのだから仕方がない
ティアのこれからはジークと相談して決めることにしようとしたのだがティアは自分に出来ることはもう何もないと悟るとカイムの家を出て行こうとする
当然の如くカイムは阻止しようとするが飲んでいた茶に眠り薬が混入していて見事に眠らされてしまった
一服盛ったティアはカイムに申し訳ないと思いつつもカイムと別れを告げる
カイムが覚醒したのはエリスに呼び起こされてからだった
後にジークも来て情報の収集は終わったことだけを伝えた
ところがジークはティアを殺さずして逃がしてしまった非を咎めた
ジークの目から判断するにカイムの行動はティアと過ごすうちに随分と抜け目が多くなっているように見えた
情報の漏洩が一番の危惧だ
ティアがどこかで野垂れ死ぬかもし生きていたらカイムが処理しておいてくれとだけ頼んで去った
カイムは居なくなったティアの事を考えていた
情報は引き出した、もう用済みの女だ。だからどこへなりとも勝手に行って出来れば死んでいてくれたらそれでいい。そう願ったはずなのに・・・
どこかティアの物言いに引っかかるところがあったのだ
そこへエリスから一通の手紙
ティアが去る前に渡していったとのこと
手紙にはカイムへの恩義が書かれていた
同時にまたしても『自分には生まれてきた意味がある。いずれ大切な使命を果たす運命にある』と大言壮語としか思えない文章
冷静に考えると大崩落が起きたときと同じ光がティアの体から発せられた
それはつまり"終わりの夕焼け"を放ったティアが大崩落と何らかの関係があることに繋がる
やはりまだティアには聞き出さねばならないことがある
本人も夢で大崩落のようなものを見たと言っていたからだ
エリスは引き止めたが、カイムは雨が降る牢獄を駆け回った
ティアは羽狩りに保護されていた
外套を被っているのでこちらの姿は見えない
ティアを庇っている羽狩りと相対してもう少しで取り戻せる――――というところでフィオネが駆けつけてきた
ティアを連れた羽狩りは反対方向へ去っていき、カイムの前にはフィオネが立ち塞がる
フィオネをなんとか撒いたカイムは再びティアの行方を追う
悲鳴が聞こえた方角へ向かうと先程のティアを連れて逃げた羽狩りが死んでいた
となればティアも・・・
予想に違わずティアは血溜まりに伏していた
到底助かるような傷ではない、ひと足遅かった
生まれてきた意味など何も無かった
こうして無様に死ぬために生まれてきたってのか?
それならそれで救われない話だ
だが死が当たり前の牢獄じゃこんなことは日常茶飯事だ
だから希望など持たずに生きてきたというのに、カイムの内には何か特別な感情が湧いていた
そう、それは自分には決して持ち合わせていない類の――――
そんなことを考えているうちにティアの体が急に閃光を放ち始めた
即死は避けられないはずの傷がみるみる塞がっていく
眼前の異常事態が信じられないほどティアは元通りになっていく
あまりの超常現象を前にカイムは絶句する他なかった
そうして死んだはずのティアは言葉を発したのだ
エリスに診てもらうと何の異常も無いようだった
どういう原理なのか分からないがティアは完全に元通りに蘇生していた
この謎を含めて"終わりの夕焼け"のこともあり、ジークに話してティアをこれから匿うことにした
今度こそ打算無しでティアと過ごすことになった
ティアはそれがとても嬉しそうだった
ティアは本来処分されるべき人間だったがカイムがティアに纏わる現象の数々を独自に調査してみたいということでジークから身請けすることにした
エリスは大層不機嫌になった
羽狩りには最大限の注意を払ってティアには外出許可を出した
主に料理に興味があるティアはメルトに料理について教えを請い着実に力をつけていた
そんな中ジークからまた厄介事が持ち込まれる
例の黒羽の化け物の噂が未だに途絶えていないようで、むしろ増え続けているという
そこで不蝕金鎖に一緒に捕まえようではないか、という提案が防疫局のルキウスからあった
ジークとしてはこの話を受けようと思っていてカイムにも協力して欲しいとのこと
気乗りはしないがカイムは引き受けた
翌日になってジークの部屋に行くとそこにはフィオネが居た
羽狩りの隊長と共同して事に当たれということだ
牢獄の地理に明るいカイムは下層民のであるフィオネにとって助けになる
最終的な目的としては黒羽を"生きたまま"捕獲せよ、というもの
しばらくはフィオネと行動を共にすることになるがそれも致し方ない
羽狩りと組むのは癪に障るがそれも任務だと思えばやり過ごせる
カイムとフィオネは早速ヴィノレタで作戦会議に移った
黒羽の現時点での概要といつどこで現れても対処出来るように両組織の人員には笛を配布することにした
それからは付近の牢獄民に情報収集と行こうと踏んでいたのだが如何せん問題なのはフィオネの服装だった
どうしても羽狩りの制服は目立ってしまうのだ
羽狩りというだけで牢獄民は嫌悪感を露骨にする
これではまともに話を聞くことすら出来はしない
フィオネに服装を変えてくれと頼むカイムだが、これが防疫局の存在をより一層市民に知ってもらうためだと言い張り変える気配はない
フィオネの格好を見るだけで冷たい言葉を投げかけてそれ以来無視を決め込む牢獄民
そんな冷酷な態度な態度を取られてもどこまでも礼儀を尽くすフィオネ
お固いにも限度があるがこれが自分の生き甲斐なのだという
フィオネの兄も防疫局だったので妹のフィオネもこの仕事にはやり甲斐を感じているのだろう
そのため、多少の事で折れる気はさらさらなかった
だが"効率"という点においてフィオネは明らかに損をしていた
翌日になっても同じ事の繰り返しでは時間の無駄である
カイムはフィオネの意固地さに呆れ果てていたがそうでもなかったようだ
一人の少年が羽化病に罹っている人物がいるというので場所を教えてくれた
罠かもしれないと思いつつも放っておくわけにもいかないフィオネは知らせを受けた家屋に入ってみる
するとそこには老婆がベッドと思しき台に横たわっていた
背中を見ると確かに羽が生えていた
老い先短いとなれば防疫局に保護されるのが良いと思って志願したようだ
馬車が来るまでの間にフィオネは老婆の宝物であるブローチを譲り受けた
フィオネは遠慮したがどうせこのまま誰にも使われずに放置されるよりは宝石も誰かに身に付けて貰ったほうが喜ぶと言われればさすがに断るわけにもいくまい
その後老婆は無事に治癒院へと運ばれていった
こうした事例は極希だがこういった厚意ある人々からの志願がある度にフィオネはこの仕事の価値を見出すのだそうだ
カイムもフィオネの言うことには一理あるな、と今回の件で思ったようだ
ヴィノレタにて一息ついたと思った途端、娼館娘のリサが大慌てで駆け込んでくる
ティアが襲われたという報告だった
とりあえずティアは無事だったようだが襲ったヤツは路地の奥に逃げ去ったようだ
エリスが指さした方角へと駆け出すカイムとフィオネ
道中には死体が転がっていた
それも被害者は羽つきだった
羽つきに狙いを定めた犯行なのかもしれない
カイムはついさっきそこで拾った黒い羽をフィオネに見せた
黒羽の犯行の可能性大である
殺害現場はオズ達が後始末をしてくれて今夜のところはお開きとなった
ティアから話を聞く限りではその例の黒羽とやらは言葉を喋ったという
つまり少なくとも"化け物"ではなく人間であるということだ
これならまだやりようはいくらでもある
翌日、フィオネと会うなり妙にしおらしい雰囲気をしていると思いきや少しは考えを改めることにしたらしい
要するに聞き込み用の服を見繕って欲しいということだった
市場でフィオネの私服を調達してから聞き込みを開始
服を変えると驚くほど住民の態度が変わった
羽狩りの制服で出歩いていれば邪険な視線や腫れ物を触るような扱いだったのに見向きもされないほどに牢獄民と同化していた
如何にこの界隈で羽狩りが嫌われているかがよく分かるような変わりっぷりだった
これで以前と比べて作業が捗りそうだ
そしてついに目撃証言があったのでその人物の言い分を頼りに民家に向かってみる
だがその家の住民は既に殺されていた
そこで今夜は打ち切りとなった
次の日にフィオネとカイムはお互いの情報提供をすることにした
下層のフィオネの家まで足を運びフィオネとより綿密な情報交換をする
フィオネは今までの黒羽調査記録を、カイムはオズの報告書と牢獄の細部に至ってまで緻密に書き込んである報告書を提示した
ジークに提供してもらった詳細な地図に黒羽の目撃情報を書き加えていく
するとある憶測が浮かび上がってくる
"防疫局の人間が黒羽である可能性"だ
フィオネは「そんなはずはない。身内を疑っていたらこの仕事は成り立たたない」身内の関与を否定する
あくまで可能性の話だと言ったがフィオネはたとえそれが可能性の話であったとしてもカイムの発言を看過することは出来なかった
防疫局の仕事はフィオネにとって生まれ持っての運命だと確信している
自分はこの仕事に就くために生まれてきた存在なのだと、強く信じている
防疫局に失態があることは自分の確固たる信念が許さないのだ
日が陰ってきたので分析を切り上げて下層から牢獄へ戻ってきたと同時に予め配布しておいた呼子笛の音が響き亘る
一目散に笛の鳴る方へ向かうカイム
辿り着くととても人間には出来る芸当とは思えないほどの跳躍力を持った物体が上空を飛んでいくのを目撃した
フィオネも駆け付けて二人で後を追う
しかし明らかに人間の足では追い付けないような速度で逃げ去っていく
見送る以外に方法がなかった
翌日、証言を頼りに黒羽の住処らしき場所を発見する
そこには黒羽のものと思われる羽が大量に落ちていた
さらに壁になにやら書き殴ったような痕跡が見られた
だが羽の不蝕具合から見るにここにはしばらく来ていないという結論に至る
ところがこの場所でのフィオネの態度はどこかおかしかった
虚ろというか何やら思う所がある様子だった
その点も踏まえてカイムは一芝居打って出ることにする
防疫局内部に犯人がいるのではないか?ということを探り出すためだ
フィオネはご覧の通り防疫局に大して絶対的な信頼を置いている
しかしその盲目的なまでの自信は時に不正があったとしても是として認識してしまうものだ
それ故フィオネには頼めないのでカイム独自に行うことにした
羽つきがいるという偽の情報を流してそれに釣られてきた羽狩りの動向を監視するのだ
辺りが暗くなってそいつはやってきた
見るからに黒羽の体格と一致しているしシルエットもそれっぽい
先手必勝とばかりに不意を突いてナイフを投擲する
命中したのを機に笛を鳴らし、黒羽の後を追う
黒羽はたまらず逃げ去る
ナイフが効いているのか逃げ足は以前ほど速くは感じられない
傷を負っているというのに逃げ足の速い黒羽は路地り曲がりくねりどうにかやり過ごしたようだ
オズと合流したカイムは周辺に捜査を巡らすように伝えた
と、そこでラングやフィオネも合流した
ラングが向こうで落ちていたという黒い羽を差し出したのを見てフィオネは確信に至った
いきなりラングを地面に捻じ伏せ詰問を始める
ラングは失態を犯していた
そもそもその拾ったという羽はフィオネが管理していた羽だったのだ
それは詰め所の金庫に厳重に閉まってあるはずだった
同時にフィオネは各々の羽に印のようなものをつけておいた
さらにその金庫の鍵を持っているのはラングとフィオネのみ
つまりここでその印がついている羽を出すのはどう考えてもおかしい
ラングは印が付いていることに気づかなかったのだ
加えて言うならば先程カイムが投擲したナイフの箇所を見せようとはしない
これだけの条件が揃えば自ずと嫌疑が掛かるのも致し方ない
最初こそ容疑を認めようとしなかったラングだが旗色が悪くなるにつれて本性を現し始めた
だがここに来てさらなる事実が発覚する
ラングは"黒羽の真似事"をしていたに過ぎず、『本物』の黒羽は別にいると言うのだ
ラングのやったことは本物の黒羽が猛威を振るっている中でそれに乗じて羽つきを殺し回っていただけの便乗犯だった
ラングは過去に母親を羽つきに殺されて以来、羽つきを憎むようになった
それで羽つきだけを限定して殺害していたのだという
ラングを連行するという手筈になったところでラングは一瞬の隙を突いて部下から剣を奪い取り自害してしまった
フィオネはいたたまれない気分になった
その一番の要因は防疫局内部から犯罪者が出たことだろう
羽つきを保護する立場であるはずの人間が羽つきを殺し歩いていたのだ
ショックは推して知るべしといったところ
同時に自分が今まで見えていなかったものが見えるようになってきていた
身内への疑念
必ずしも敵は外側にいるわけではない、今回の件のように内側に潜んでいることも十二分に考えられるのだ
フィオネは今までは相当な堅物だったが少しは物の見方を変える事が出来たようである
消沈したフィオネを宥めてあげるとしばらくシュンとしていたが心機一転、本命の黒羽捕獲に気合を入れた
フィオネがどうしてここまで防疫局の仕事に熱意を傾けるのかという身の上話を語ってくれた
フィオネは父親が財務局に努めていた
厳格な人柄で自分にも周りにも誠実であれ、という清廉を貫いている人物だった
父親を目標に日々生きてきたフィオネだったがある日、父親が羽化病に罹ってしまう
隠し通せば少しでも長く一緒に入られたかもしれないのに、本人自ら治癒院へ行くと言ったのだ
フィオネは自分の仕事柄悔やんでも悔やみきれなかったが兄と一緒に泣く泣く父親を治癒院へと送った
それ以来父親が帰ってくることはなかった
こうした背景があってフィオネは防疫局への仕事にやり甲斐を感じている
もはや運命と言ってもいいかもしれない
ヴィノレタで一杯やった後に別れたフィオネの顔からはもう落ち込んだ様子は見られず、毅然としていた
さて、肝心の本物の黒羽とやらはどこにいるのかまだ詳細は掴めない
何より現れる場所が完全にランダムだし、人間離れした動きをするとならばそう簡単にはお縄にはかかりはしない
黒羽も人目につくのは嫌がるのか昼間はほぼ安全と言えた
なので昼間の内に出来るだけ黒羽が住処としているアジトを押さえておくことにした
黒羽のアジトの一つと思われる場所で紙片を発見する
見たこともない文字の羅列だった
エリスの診療所でこの文字に見覚えがあったので二人は早速エリスの元へ向かう
エリス見せたところ、内容は麻酔の精製法だとか
ここで手詰まりになるかと思ったがフィオネによると黒羽が現れた時期に牢獄にある薬品研究を行なっていた施設が全焼したらしい
繋がりがあるかもしれないと思い、早速出向くことにする
跡地では器材一式と黒い粉が入った瓶、さらに地下室から黒い羽が見つかった
何らかの関係があることはこれではっきりした
収穫物を回収して撤収
フィオネと仕事をする機会がめっぽう増えて近頃ティアの事を放ったらかしだったことに思い至る
まぁティアとフィオネを会わせるとそれはそれで問題が発生するわけだからこの場合は助かっているが・・・
この大事な時に良くない事が重なってしまったようだ
まず娼館に遊びに来ていたティアが娼館娘であるリサ、クローディア、アイリスと一緒にお風呂に入ろうとしたところで羽つきだとバレてしまったこと
幸いなことにこの3人はカイムとの馴染みなので口の堅さには定評がある
この3人から漏洩することはまずないと考えていい
それはいいのだが、ティアが羽つきであることを話していた際にフィオネに聞かれた恐れがあるのだ
フィオネがクローディアの外套を返しに来ていたようで、部屋に入る前には無かった外套がソファーが部屋の外に置いてあった
しかしフィオネの姿はない
つまり立ち聞きしてそのまま去ったという可能性が高い
最悪、フィオネとは敵対することも視野に入れておかねばならない
それ以降もフィオネとは調査を共にしたがティアが羽つきということを知ったのか知らないのかの判別は態度だけを見るにはわからなかった
知っているようでもあり、知らないようでもあった
晩に黒羽の目撃情報が入ったので呼子笛の音が牢獄に響く
今度ばかりは黒羽の姿を目視することに成功した
同時に敵意がありありと滲んでいてこちらに襲い掛かってくる
恐るべきパワーを持ち合わせている黒羽にカイムもたじたじ
人外の姿をしているのだから無理もない
人型であるにしろ、本物の黒羽は噂通りの化け物と言っても支障はなかった
フィオネも合流して黒羽と向かい合う
だが複数人に姿を見られるのを嫌うのか黒羽は逃走してしまった
去り際に黒羽は何かを喋ろうとしていたのが気になった
喋りたいのに喋るのが辛そうな感じだった
言葉は問題なく喋れるという報告があったがあれはラングのものだったようだ
黒羽の捕獲は難航を極めた
不蝕金鎖側にも被害が出てきたのでジークは捕縛ではなく殺す算段を立てる
でも防疫局としてはどうしても捕縛したかった
あまり時間を掛けてはいられない
フィオネが捕縛したい理由は実は公的ではなく私的ものだった
一戦交えた時に憶測が確信へと変わったのだ
あれは失踪していたはずのフィオネの兄、クーガー=シルヴァリアに間違いない
フィオネはカイムにこの事を打ち明け、ある取り引きを持ちかける
クーガーを逃がしてもらえるのならばティアの事は見なかったことにしておく、と
やはりフィオネはあの時ティアが羽つきであることを知ってしまった
偶然だったとはいえ、聞いてしまった事実はもう変えることは出来ない
清廉であることを大切にしてきた矜持を捨ててまでどうしても兄を逃したい
何せ今となっては唯一の家族なのだ、どうしても失いたくはない
たとえそれが人に害を為す化け物だったとしても――――
カイムはフィオネとの取り引きに応じ、これからどうするかを考える
黒羽の寝床としている場所に文字らしきもの刻んであった
文字を読めるのであれば会話出来なくても見てもらえさえすれば伝わるかもしれない
フィオネは日時と場所を黒羽のアジトに刻み込んだ
予定の時刻と場所にいて黒羽を待ち続ける
黒羽はフィオネのメッセージをちゃんと読んでくれたのかやってくる
フィオネは必死になって兄に語りかける
フィオという愛称を辛うじて聞くことが出来たので間違いなくクーガーである
もう少しで説得できるかもしれない、というところで両組織の人間が殺到してくる
カイムは逃げ出す黒羽を追い続ける
奥まった場所にて黒羽と対峙する
そこで初めて黒羽は理性らしきものを取り戻し、会話が成り立った
クーガーから知らされた真実は衝撃的なものだった
"治癒院は治療のための施設などではなく実験施設"なのだという
クーガーはその被験者だったのだ
治癒院がどのような治療を行なっているのか調べようとしていたクーガーは捕まってしまい実験材料になってしまった
不幸中の幸いと言うべきかクーガーが実験を受けていた施設がある日火事に遭い、その隙に逃げ出したのだという
この事をフィオネに伝えて欲しいと頼んだクーガーは再び自我が保てなくなってしまい暴走状態へと移行してしまう
クーガーは一刻も早く自分を殺せと命じてきた
このままでは埒が明かないのは明白で、消耗戦では圧倒的にこちらが不利だ
フィオネとは逃がすという約束を致し方ないのかもしれない
逡巡しているところへフィオネが切羽詰まった表情で到着する
※1 フィオネは何としてでも兄を逃したかった
先程と同様に一心に説得を試みる
クーガーの意志とは反して黒羽と化した体は暴走を続ける
もはやこれ以上は無意味と判断したのかフィオネは剣を取る
フィオネが自分自身の手で決着を付けねばならない
羨望と尊敬の念ばかりを兄に抱いてきたフィオネが同位置に並ぶために
覚悟を決めたフィオネは咆哮と共にクーガーへと白刃を突き立てた
クーガーは安堵したように見えた
死ぬ間際になって正気を取り戻したクーガーはフィオネに剣を振る意味、家の名に囚われずに生きて欲しい、自分の目で見たものをこれからは信じろ、と言い残す
兄の死を見届け、脱力してしまうフィオネ
黒羽の事後処理はオズ達に任せて、カイムはフィオネを連れて帰宅する
フィオネの切り傷を手当てしながらクーガーがカイムに教えてくれた伝言をフィオネに聞かせる
フィオネは蒼白になり、信じられないという顔をした
信じたくはなかった、何故なら自分が誇りをもって全うしてきた羽つきの保護が、"羽つきを殺している"ことだったのだから
目の前が真っ暗になった、ここまで絶望的になるのはフィオネにとって初めてだった
しかしそうであるならば治癒院に向かった人々が二度と帰って来ないというのにも合点がいく
じゃあ自分達がしてきたことは一体なんだったのだろうか?知らなかったとはいえ、治癒院へ行くと自分から言い出した父親を止められなかった自分はなんて罪深い人間なのだろう・・・
フィオネは人生を否定されたといっても過言ではなかった
それは今まで盲信してきた防疫局という組織からのしっぺ返しとも言えた
疑う事をせずに正しいことをしているのが常、という堅固な思考を顧みようとしなかった結果でもある
真実を知ったフィオネはがっくりと項垂れ、完膚なきまでに現実という攻撃に苛まれた
事実はフィオネが望んだものとは正反対の結果になった
だがそれでもここでフィオネを潰すわけにはいかない
そこでカイムはフィオネにありったけの悪口雑言を浴びせかける
兄の犬死やら家系を馬鹿にすることをしつこく吐きつける
いくらなんでもそこまで言われては、といった具合にフィオネが激高する
カイムの家から出て行くフィオネを見送りながら、これでいいとほくそ笑む
フィオネとはこれから顔を合わせづらくなるが彼女が生きる原動力を自分に見出すのならそれで十分
翌日、防疫局局長であるルキウス卿直々に呼び出しがあったので詰め所へ向かう
フィオネの処罰は副隊長に降格だけだった
実質的にはお咎め無しにも等しい
ルキウスにも治癒院の事を聞いてみたが防疫局と治癒院の所轄は切り分けされているのでルキウスも詳しいことはわからないとのこと
とはいえ、これにて黒羽事件は幕を閉じた
黒羽事件の後、エリスには例の火災現場から拾ってきた薬物の調査を行なってもらっていた
これとは別に最近この界隈で麻薬が出回っているらしい
麻薬は御法度なのだがその麻薬を捌いているのがベルナドいう人物らしい
ベルナドは元々不蝕金鎖の一員だったのだが、先代のボルツが頭を引退するときにまだ若輩のジークに頭首を譲ったのが気に食わなかったようでジークとは敵対することになる
そして独立したベルナドが作り上げたのが『風錆』という組織だった
不蝕金鎖と風錆は目下睨み合いが続いている
とある日、風錆の人間が持ち込んだと思われる麻薬をリリウムで娼婦をしている女に渡し、それを服用した女が暴れ出しているという報告を耳にする
エリスはその女の手当てをしてやったのだがこの女、どうも麻薬を渡した男に惚れ込んでしまったようである
駆け落ちしようとしているのをもちろん見逃すことなく不蝕金鎖が制裁を与える
麻薬を撒いている男は風錆側の人間だったようでその場では逃がしてやったのだが・・・
後日、ヴィノレタにベルナドご本人が乗り込んできた
麻袋には先の男の死体
この男がカイムという男にやられた、とベルナドに伝えたらしい
ベルナドはそれを聞いてこうして出向いてきたわけだ
しかし生かして逃したはずの男がこうして死体になって持って来られるなんてどう考えても自組織で殺して敵組織に見せびらかす事で喧嘩を吹っ掛けるという常套手段である
売られた喧嘩は買うことにしているジークは真っ向からベルナドと対立する
ここで騒動を起こすわけにもいかないのでベルナドは一旦引くが、店を出る時にエリスを見て嫌味な笑みを浮かべる
ベルナドが顔を見せてから風錆の本格的な攻撃が始まった
直接ジークを狙うのではなく、市場や公共施設などの外堀からじわじわ攻めてくる
反撃はもちろん考えているジークだが今はまだその時ではないと喧嘩っ早い面子を抑える
ジークが手を出しあぐねているのは風錆のメンバーにはかつて不蝕金鎖だったものが多く残っているのだ
身内同士で殺し合いたくはない
ベストな手段としては風錆の構成員が寝返ってくれることだが望みは薄い
ベルナドの息が掛かっているとなれば厄介だ
ジークも手を拱いているわけではなくてちゃんと策を考えている
下層へ行くと言い出したのでカイムは護衛としてジークについていく
牢獄と下層を繋ぐ門は通行出来ないので裏道経由で向かう
一室に案内されるとそこにはルキウスとお供のシスティナが待っていた
商談を終えたジークと共に再び牢獄へと帰る
これからルキウスには影ながら牢獄の援助をしてもらうらしい
組織のことはジークに任せておくとしてカイムには別の問題が発生していた
近頃エリスとの関係がギクシャクしてきていた
相も変わらずカイムのものになりたいと言ってくるエリスに困っていた
エリスはカイムに身請けされてから晴れて自由の身
カイムとしてはエリスには今まで楽しめなかった分だけ自由に生きて欲しかったのだ
ところがエリスにとって自由というものはどうでもいいらしく、元々欲がないエリスには必要とも思っていない
そんな押し問答を繰り返しているうちにエリスはどんどん出会った頃の無感情な状態に近付いていく
カイムに構ってもらいたくてわざとミスをしたり、カイムに叱られることに喜びを感じたりと、今までのエリスとは完全に別人になっていた
医者の仕事の折にはてきぱきこなすが平常時にぼうっとしている事が多くなっていた
一方、不蝕金鎖の旗色は日を追う毎に悪くなっていた
部下からも不蝕金鎖を見限りる者も現れ、残ったメンバーからも不満の声が大きくなってきている
外出時に風錆の刺客に取り囲まれてカイムがいなければ危うくジークは命を落としているところであった
ジークからベルナドとの関係を聞いたカイムはエリスとこれからどう付き合っていけばいいかをジークに話した
エリスを身請けした一番の理由はカイムがエリスの両親を殺害してしまったから
エリスを救ってやったのはその罪悪感を少しでも癒すためだった
依頼されたとはいえ、エリスには申し訳なく思っている
牢獄に蔓延しだした麻薬を回収しているうちに興味深い事例に遭遇する
黒羽の件回収した黒い粉がベルナドが売り捌いている麻薬に混入していたのだ
黒羽とも何か関わりがあるのかもしれないと判断したカイムは風錆の縄張りに侵入して売人から麻薬を買う
一箇所ならず複数の場所でそれぞれ麻薬を購入することにする
帰り際に虚ろなエリスが風錆の区画を放浪していたので引き連れて帰ろうとする
そこへベルナドやってきてカイムに交渉を申し込んできた
カイムは両組織のどちらの人間でもなく、中立の立場にいることをベルナドは知っていたため味方に引き入れようとする
カイムはベルナドを油断させるためにこの場は味方に付く素振りを見せておいた
風錆の売人から買った麻薬の中には黒い粉が極僅かだが混じっていた
オズに頼んで人体にどのような効果を及ぼすかを調べてもらった
結果、致死性がある危険度が高い薬だと判明
これをどういう目的で使用しているのかは今現在ではハッキリしないが効能からしてよからぬことに使われていることは間違いない
夜間になってベルナドと再度落ち合うカイム
情報を提示して協力的であることをアピールしておく
ベルナドと別れた後、帰宅してエリスと向かい合う
エリスには本当のことを包み隠さず話しておいたほうが良いと判断したカイムは、エリスを身請けした理由をついに本人に打ち明ける
だがエリスにとって身請けした理由などどうでもいいことだった
エリスはただカイムに必要とされるだけで十分であり、それ以外のことは初めから考えていない
その相手の言うことだけを忠実に聞く姿はまるで物言わぬ人形に等しく、初めて見たエリスそのままだった
エリスは両親からもまともな教育を受けず、隔離された部屋でずっと一人で過ごしていた
食事など、生きていく上での必需品は全部親が揃えてくれていたが教育に関しては全く教わらなかった
人形は誰かが命令をくれないと動くことすら出来ない
もうエリスはカイム無しでは生きていけないのかもしれない
痛々しいエリスを見ていると自分の過去を思い出す
大崩落で死んでしまった兄のことを
ジークが反撃しないのを良い事にベルナドは不蝕金鎖の領土を好き放題荒らし回っていた
不蝕金鎖の若手のサイが見るも無惨な姿になるまで傷めつけられていた
エリスはエリスでジークを売るためか風錆の管轄下にまで赴くことが多くなっていた
カイムはその度に閉口しながらエリスを連れ戻す
これもカイムに構ってもらうためのエリスの作戦だ
何度も言うようにエリスには自由に生きて欲しい、それしかエリスに詫びる方法がないのだ
ところがエリスは意味深なことを言う
「あなたが本当に謝りたいのは誰?」
そこで頭に浮かび上がる実兄との思い出
何故ここに来て兄との別れのシーンが鮮明に思い出されるのか・・・
カイムが追想に埋没している間にエリスは本当にベルナドの手に落ちたのか、風錆の領土へ進んでいってしまう
追いかける事も出来ずただ呆然と立ち尽くしていた
エリスは戻って来なかった
時間を経てもエリスの言葉が頭から離れない
自分の記憶とエリスに施した償いが複雑に絡み合う
思考していくうちに段々とエリスの言っていた事の意味がわかってくる
カイムの母親は幼い息子二人に再三に渡り『人には必ず生まれてきた意味があり、精一杯生きてその意味を見つけることだ』と言い聞かせてきた
大崩落があった日、不運な事にもカイムの兄であるアイム=アストレアは崖下に落下した
どうにか助け出そうとしたカイムの手を自ら手放したのだ
カイムも道連れになるぐらいならどちらか一人でも生き残ったほうがいい
そしてアイムは死に際に母親の言葉をカイムに聞かせたのだ
"生まれてきた意味を見つけること"
無意識のうちにカイムの胸中には兄の言葉が重くのしかかっていたのだ
生前のアイムはカイムにとっては妬みの対象だった
何をしようにもアイムには及ばず、母親に褒められるのはいつもアイム
普段は嫉妬の対象であったがそれでも窮地の時には咄嗟に手を差し伸べた
自分の代わりに精一杯生きて欲しいという兄の切願に心のどこかでは応えたかった
牢獄暮らしに慣れてしまい、そんなことは考えるだけ無駄だと知った
それでも奥底に残っていたアイムと母親の言葉
カイムは今は亡き兄への謝罪をエリスに投影していたのだ
すなわち、エリスを救った事で少しでもアイムに報いたと信じたかった
悪く言えばエリスはカイムの心を癒すためのダシにされたのだ
エリスはカイムがそれに気付いていないことにがっかりしていた
ジークとルキウスが交渉を始めてからそれなりに時間が経過した
帰り掛けにまたもや夜襲に遭う
ジークだけを先に行かせ、カイムは足止めを決め込む
カイムが娼館街に戻ってくるとついに王手を掛けに来たのか風錆の連中で溢れかえっていた
リリウムとヴィノレタは完全に押さえられ、圧倒的不利な状況にまで押さえられた
そういえばジークの姿もティアの姿もない
逃げおおせたのかどうかは定かではない
他所事を考えていたことが致命的だった
横合いから飛び出してきた謎の女刺客に対しての反応が遅れてしまい、死が間近に迫る
刃が急所を貫こうとしたところでベルナドから待ったがかかる
ベルナドに媚を売っていざという時に出し抜く材料にしようと思っていたがここまで来てしまったらもう後の祭り
ベルナドからすればもうカイムは用済みで手を結ぶ必要性は全くなく、後は処分するだけだった
性根の悪いベルナドはただ単に殺してしまうだけではつまらないと言って余興を用意する
リリウムのジークの私室まで運び込まれたカイムの前にはエリスがいた
ベルナドが考えた興はエリスをカイムの手で殺させるか、さもなくば他の男に犯されてから殺されるかの二択だった
エリスはどうせ死ぬならカイムに殺されたいと懇願するがカイムにとっては苦渋の選択
どちらも選べるわけがない・・・と苦悩しているところで外がにわかに騒がしくなる
大勢の軍団が部屋に押しかけてくる
その先頭に立っていたのはフィオネだった
ここに羽つきが匿われていう報告を受けて保護しにきたというのだ
ベルナドは羽つきなどいない、と鼻高々に言ってのけるが羽狩り達が部屋を隈なく調べると隠し通路があった
隠し通路の先にいたのは――――事もあろうにティアだった――――
ここに来てようやくジークの作戦が功を奏した
ベルナドをこちらの陣営に誘い出し、ティアという羽つきがいることを最大限に利用することによって防疫局を動かす――――これこそがジークがルキウスと練りに練った作戦だった
もちろんティアの事情は先方に報告済みだったので治癒院に送られたりはしない
ベルナドは見事にこちらの罠に嵌ってしまった
無論、ベルナドはここで終わるわけにはいかず這々の体でなんとか逃げ出す
しかし逃走経路に待ち構えていたのはジーク
ベルナドは最後の最後にジークに邪魔されるのが余程気に食わなかったのか逆上して拳で殴りかかる
ジークは難なくそれを往なし、カウンターで殴りつけてベルナドを昏倒させた
頭首が敗北したことによって風錆にいた面子は不蝕金鎖に投降した
ジークの寛大な処置により罰も軽度のものとなり、一件落着したようだ
カイムはエリスの姿を探した
呆然と天を見上げ立ち尽くしているエリス
人形だったエリスは誰かに束縛して欲しかった
エリスに初めて手を差し伸べてくれたのがカイムだった
カイムに所持してもらうことがエリスの本望だった
※2 どれだけ好意を受けようがやっぱりエリスは自由に生きていくべきだともう何度交わしたかわからないやり取りを再び行う
エリスもそこまでして己の主張を譲らないカイムにも自分と同程度の熱意があるのだと感じ取り、ついに折れる
この問題はどちらかが相手の意見を飲む以外に解決する方法はない
お互いに譲れないもがある、結果的にはエリスが一歩譲った
風錆が制圧されたことにより大量の麻薬が押収された
宴のついでに各々が火に投げ入れ処分していく
風錆の件が片付いてからしばらくしてヴィノレタに聖教会を名乗る人物がやってくる
黒羽の案件に当たっていた時に少しだけ話した女だった
彼女はラヴィリアといって、ティアに用があるとこんな牢獄くんだりまでやってきたのだ
出来るだけ内密にしておきたいという意向があるみたいでティアにだけしか内容を話せないという
カイムはティアの兄でティアはカイムの妹という設定にしておいたので、カイムにもこの話を聞く必要があると出任せを言うとラヴィリアは何の疑いもなく信じ込んでしまい一通の手紙を渡す
書いてある文章を読んでみると荒唐無稽で思わず笑ってしまうような内容だった
『ユースティアが天使の御子』という
あまりにも飛躍していたので一笑に付そうかと思っていたのだが差出人の名前を見て目を見開く
第29代聖女イレーヌ、と確かに書いてあった
聖女様直々にティアをお呼びだそうだ
ラヴィリアはその遣いということになる
ティアはともかくカイム達はどうも乗り気がしなかった
最近地震が増えてきていることから、聖女には手紙なんか書いている暇があったらノーヴァス・アイテルを浮かすという本業を頑張ってもらいたいというのが正直なところ
しかしラヴィリアのあまりのしつこさにカイムも首を縦に振る以外に方法が無かった
このままではいつまでも居座る雰囲気だったからだ
ラヴィリアに案内されて上層へ向かう
上層は牢獄とは完全な別世界であった
聖女の待つ聖殿へ行こうとしていたところで、神官長のナダルが立ち塞がる
聖域には聖戎という規則があって一般人においそれと開放することは禁じられている
そうしておかないと聖女目当てで野次馬がたむろするからだ
ナダルはラヴィリアが聖女からの命で動いていることを知ると、聖女に直接事のあらましを伺いに行く
ラヴィリアもそれに付いて行ってしまったのでカイムとティアは待ちぼうけを食らってしまう
ここにいてもしょうがないので二人の後を追うことにした
で、肝心の聖女様がいらっしゃらないのでカイムは適当に散策してみることにした
すると一面花に囲まれた場所の中央で竪琴を弾いている可憐な少女を発見する
牢獄でのお目見えの儀式でも見たことはあったので聖女だとすぐにわかった
聖女は目が見えないがその分、聴力は優れているためカイムの声を聞いただけですぐに以前にラヴィリアを助けてくれた人物だと理解していた
ところがこの"聖域だけは例外"のようで、この区域限定でのみ盲目ではなくなるらしい
聖女はカイムを連れて自室に戻るとナダルに概要を説明した
ティアは天使様の御使いなのでしばらくここに逗留させるという
そして大聖堂に皆を呼び集めて天使が来たことを意気揚々に伝える
だが他の聖職者達の顔は一様に暗い
何故なら聖女の言葉があまりにも現実からかけ離れていたからだ
そもそもどうしてティアを天使の御子と判断してたのか?
その理由が「夢で天使様からお声を頂いた」という実に与太話にも程があるというものだった
さすがにこれにはカイムもやれやれと言わざるを得ない
そんな夢物語を信じろというのが無理なのは当たり前である
ところが聖女は実際に目視したはずのないティアが篝火に麻薬を投じているところを夢に見たのだという
ある程度当たっているものの、やはり夢というのでは覚束ない
カイムはどうしても信じられなくて聖女に本当にティアが天使の御子なのか聞いてみるが答えは同じ
根拠を説明しろ、と言ってみても「私は自分の信仰を裏切るようなことはしない」と言い、まさに自分の言うことは全て真実であると神にでもなったような態度であった
ともあれカイムとティアは次の天使の声が聖女の脳内に聞こえてくるまでしばらく聖殿に居を移すことになった
夢に現を抜かす暇があったら都市を浮かせる努力をしてくれ、地震を治めるのに専念してくれと直接言ってやる
牢獄の皆は大崩落の再発を今一番恐れている
もしまた地盤が抜けるようなことがあればそれこそ、どんな暴動が起きるか知れたものではない
大崩落が起こった原因は『先代の聖女が天使への祈りを怠ったため』というのは周知の事実ではあるが、聖女はその解答にどこか寂しげな顔をする
先代聖女は祈りを怠ったことによりその命をもって償った
下層の崖から真っ逆さまに飛び降りたのだ
カイムも先代聖女処刑の時は罵声飛び交うなかで28代聖女を口汚く罵っていた
しかしそれを聞くなり聖女は意味深な言葉を口にする
「あなたは先代聖女に救われたのです。感謝しなくてはいけません」と
意味がわからず、理由を聞いてみるが今の時点で答える気はないようだ
ティアをここに逗留させる代わりとして教えてくれそうだった
カイムはどこか挑戦的で高慢な聖女が気に食わなかったが乗ってやることにした
とは言ったものの、聖女が夢を見るまでは時間を持て余していたので上層を気ままに散歩していた
そこへ偶然にもルキウスがやってくる
ルキウスはカイムを28代聖女が処刑された絶壁へと連れて行った
下層の大崩落がで奈落の底へと消えていった崖を黙って見つめる
しばらく二人でいるとシスティナがやってきてルキウスとは別れた
聖殿に帰ったカイムは聖女が暇そうにしていたのでチェスの相手をしてやった
相手をしながらナダルから言われた事を聖女に伝えてみる
つまり聖女があまりにも夢物語を公言するとなると民への示しがつかない
夢で見たことなど当人しか知り得ない情報であり、それを民へと説くのならばどうしても信憑性に欠けてしまうのだ
だからせめてもう少し民に聞こえをよくするために多少の嘘を織り交ぜておいてはどうか?と助言する
助言したつもりだったのだが聖女は大層立腹してしまう
信仰に生きる身である自分は嘘は絶対につけないと強く主張
地震の頻度が上がってきていることから聖女への批判が日に日に多くなってきていた
大聖堂前に住民が押しかけてきているのだ
ナダルは過去幾度にも渡ってされているであろう聖女への進言をした
このままでは民の納得を得ることなどできようもない
少し言葉を変えるだけで言いのだが聖女は頑として譲るつもりはない
ナダルは聖女に仕えておきながらロクに仕事もしていないラヴィリアにもきつく当たった
ナダルの言葉に恐縮するラヴィリアとは反対に聖女は毅然としていた
聖女は自分に仕えているはずのラヴィリアがやけにナダルの言い分を気にするので不機嫌になっていた
聖女のラヴィリアに対する態度は何となく冷たい印象を受ける
それはラヴィリアも心の何処かでは聖女の言動を疑っているということを聖女自らが感じているからだろう
聖女があまりにも頑固なので聖女を諌められなかったらラヴィリアに罰を与えることを言い渡すナダル
ラヴィリアは結局聖女にあれこれ言えるわけがなく、まるで望んでいたように罰を受けた
ラヴィリアの罰が終わって少し経った頃、またもや地震が起きた
それなりに大きかったのでまた苦情が飛んできそうだ
だが聖女はそんな中でもチェスをしてくれと言ってくる
何か覚悟を秘めた目をしていた
勝敗がついた後、これから聖女は"不断の祈り"に入るという
次の天使の言葉を聞くまで飲み食いは一切せず、ずっと祭壇で祈り続けるというものであった
罰を受けて疲弊していたラヴィリアにもそのことを伝えておいた
システィナに文で呼ばれたカイムはルキウスと落ち合った
前々から調査を依頼していた事が少しだけ分かったようだ
まず風錆のごたごたの際に襲われたやたらと腕利きの刺客はガウというらしい
ガウは貴族のギルバルト=ディス=バルシュタインに従っているという
"バルシュタインの狂犬"という異名も持っている
さらに確証はないがギルバルトはベルナドに麻薬を渡していた可能性が高い
ギルバルトは執政公でこの国の政治を操る者
下手に探りを入れると返り討ちに遭いかねないので事は慎重を極めた
カイムはこうまでして親切にしてくれるルキウスには前から薄々気味悪さを感じていた
ルキウスはカイムの質問に対していずれガウと刃を交える時が来たらその時には手を貸してもらえると助かると思っていた
そのための投資なのだそうだ
聖女の弁明無しではもう抑えが効かないくらいに大聖堂には住民が詰め掛けていた
ナダルは改めてカイムに聖女をなんとか説得して貰えないか相談を持ちかける
ナダルも裏で何を考えているかはわからないが苦労しているようだ
何も口にせず3日が経つ
ラヴィリアが様子を見に行くと聖女が倒れていたのだが、聖女は強情にも平気だと言ってよろめきながら起き上がり、再び祈祷し始めた
まだ天使からのお声は届かないのだそうだ
いい加減諦めて欲しいものだが聖女は頑なに己を曲げようとはしない
自分の身を挺して聖職者であることを全うすることが聖女の本分なのだそうだ
このままでは頑固者の聖女はどうあっても動かせそうにないので、牢獄に帰るという最終手段を使う
ティアがもうこんな死んでしまうかもしれないような苦行をしているのが見ていて辛いと言い出したのだ
こう言えば聖女は祈りをやめてくれるのではないかとカイムと考えたのだ
不断の祈りをやめることにはラヴィリアも同意だった
ラヴィリアがカイム達の味方をしたことが聖女にとってはいたく気に入らなかったらしく、聖女は見損なったとラヴィリアをお付きから外してしまう
ラヴィリアはそれが相当ショックだったようでふらふらとした足取りで祭壇を後にする
ティアはラヴィリアに付き添った
そこまでして不確かな天使の声を聞くことが重要なのだろうか・・・
こんなことをしている間にも地震が起こっている
都市を浮かせる努力をした方がよっぽど建設的なのではないか、そんな疑問が浮かび上がる
そうして見落としていたとても重要な真実を知る
"聖女が都市をどうやって浮かせている、もしくは浮かせているところを見たことがあるか?"
"そして現に今、聖女は都市を浮かせるためではなく、天使の声を聞くためだけに力を注いでいる"
この2つから導き出せる結論はひとつ
『聖女は都市など浮かせてはいない、ノーヴァス・アイテルは浮くベくして浮いている』だけなのだ
カイムの体中を戦慄が這い回る
じゃあどうして大崩落が起きたのか?理不尽に奪われたものは聖女のせいではなかったというのか?
その事実を裏付けるように聖女は熱病を患ったことがあった
その間聖女はいつもの"都市を浮かせる祈り"をやめてしまったのだそうだ
しかしそれでも都市は何事も無く浮いていた
その時、聖女は悟ったのだ
聖女は都市を浮かせている存在でない――――と
そして聖女の真の目的とは『地震が起こった時の人々の混乱を鎮圧するための"生贄"』であった
そのことを知った29代イレーヌは自分のしていることが全く異なることに見えてしまったのだという
先代の聖女はとても敬虔な人物でとても祈りを怠っているとは思えなかった
なのに処刑された
この時点でおかしいと思ったのだ
熱病に罹っている間に聖女は視力を失った
その時初めて天使の声を聞いたのだという
本当は聖殿でも目が見えなかったのだが天使の声を聞いてからは見えるようになったとのこと
ここに29代聖女の拠り所となるものがあった
天使の声を聞いて視力が僅かながら回復したことが天使という存在を信じるきっかけとなったのだ
一見夢物語に見える聖女の言い分だがちゃんとした根拠があった
周りがどれだけ信じなくても天使の声を信じ続けることにこそ意味がある
とりあえず聖女の言い分は分かったが一旦聖女とは距離を置いたほうがいいかもしれなかった
せっかく祈り続けたのにもかかわらず、聖女は天使の声を聞くことが出来なかった
不断の祈りは中止して大人しく食事を摂る
ラヴィリアの様子を見に行っていたティアが血相を変えて駆け込んでくる
ラヴィリアが部屋が血だらけになって横たわっていた
意識も朦朧としていてはっきりしない
何者かに襲われたのかと考えたがそうではなく、背中を見てみると何か抉り取ったような痕があった
よくみてみるとどう見てもそれは羽の痕だった
ラヴィリアは羽つきであることをひた隠しにしていた
羽つきだとわかったら防疫局に保護されてしまうからだ
聖女のお付きであるには隠し通さねばならなかった
生えてくる度にナイフで切り落としてたそうなのだが、今回のはバッサリやってしまったようで出血量から察するにこのままでは助からない
その時、ティアの手から眩い光が発せられ辺りを閃光が包む
奇蹟に似たような事が起こった
ティアが発した光によってラヴィリアの出血は完全に止まって傷も綺麗に塞がっていた
無我夢中になってやったら出来たというティア
本人以外は唖然としていた
これを見て興奮した聖女は自分の言ったことがようやく真実だったことを現象にて証明した
この力を市民の前で発揮することが出来たらきっと聖女の言葉に耳を貸すだろうと踏み、牢獄にてお披露目を行うことを決める
聖女は自身満々で声高々に演説を始める
今まさにティアの力をこの場で見せよう――――としたその時
最悪のタイミングで大地震が起こってしまう
牢獄の一部が完全に下界に飲み込まれた
集まった牢獄民は口々にがなり立てる
こうなってしまった以上、聖女が何を言おうが信じてもらえまい
ティアを聖職者達と一緒に上層へと逃がし、カイムは被害確認のため牢獄を疾駆する
受け入れられない現実が前に横たわっていた
あるはずの場所にあったはずのヴィノレタが綺麗サッパリ崖へと変化していた
居るはずだった人物、メルトの姿もない
メルトは崖下へと消え、帰らぬ人となった
カイムは絶句して現実をしばらく受け入れることが出来ない
居合わせたメルトがいなかったらカイムも無意識のうちに崖へと落ちていってしまうところだった
それほどにメルトの死は衝撃が大きかった
死というよりは消失、下界へと消えていくものは骨すらも残さない
死んだという実感よりは消えたという虚無感が襲ってくる
ジーク達不蝕金鎖の面子は被害状況を調べるために牢獄中を奔走していた
そして牢獄から波紋のように広がる
『聖女を殺せ!!』
という怨嗟の声
もはや聖女の処刑は不可避なものへとなった
聖女の本分はこのような地震があった時の住民の心の平穏を取り戻すためだけに祭り上げられた存在
カイムは大崩落の時、祈りを怠った聖女を確かに憎んだ
しかし真実を知った今となっては聖女のあまりの救われなさに同情は出来る
聖女の様子を見に行ってからティアの行方を探る
幸いにもルキウスがきちんと保護してくれているようだ
聖女の処刑が決定したことをラヴィリアに告げると、ラヴィリアはとんでもない大金と引き換えに聖女をどこかへ匿って欲しいと言い出す
そして自分が聖女の代わりになると言い出すのだ
実は聖女の姿を間近で見た人間は極一部の人間しかいない
ラヴィリアが扮していたとしても気付かれる可能性はほぼないのだ
本来なら第29代聖女はラヴィリアが務めるはずだった
だが信仰に厚く、取り組みには熱心だった今の聖女の方が向いているということをナダルに進言してラヴィリアはお付きとなった
ラヴィリアは聖女の役目から逃げたのだ
自分には荷が重いと思って肩代わりさせてしまった
だから今こそ本来なるはずだった自分の聖女の役目を果たすことを決意する
それが今まで聖女に言えなかったラヴィリアの汚点だった
カイムはラヴィリアの気持ちを無駄にしないために聖女には内緒にしておく
聖女に知られれば絶対に反対すると分かっていたからだ
明日にも処刑されてしまう聖女は最後の晩をカイムとチェスをして過ごす
本心は死にたくなんかない、でもそれが聖職者としての勤めだとどこまでも志を一貫する聖女
しかし今の聖女はもう聖女などではなく、ただ一介の罪人、コレット=アナスタシアへと成り下がっていた
※3 さり気なく眠り薬を飲み物に混入させておいたのでコレットはぐっすりと眠ってしまった
次に目を覚ましたのは牢獄のカイムの自宅
目が見えないコレットでもこの場の空気が明らかに上層のものとは異なっていることにすぐ気付く
処刑されるのがラヴィリアだということを知って激怒するコレット
余計なお世話だと心底不愉快な様子だが時既に遅し
処刑の儀式はもう下層の現場にて行われようとしていた
聖女に罪を擦り付ける真実を知らない雑多な群衆
かつてはカイムもその群衆の一人だった
コレットを告げてラヴィリアの最後を見届けることにする
民衆の前に登場したラヴィリアは処刑される前にコレットとの想い出の曲を竪琴で演奏する
コレットがどれだけ邪険に扱おうが決して見放すことをしなかったラヴィリア
確かに後ろ暗い事があったかもしれない、罪の意識に苛まれていたかもしれない
しかしそれ以上にコレットに対する愛情があった
コレットはここに来て初めてラヴィリアの大切さを身に染みてラヴィリアの元へと駆け寄っていく
カイムが止める間もなく、群衆の中をするりと通り抜けていく
自分の信じるものだけではなく、他者の信じるものも見なければならない
物事を客観的に見ることを理解したコレットの目に光が再び宿る
迷うことなくラヴィリアに一直線に向かっていき追い縋る
まさかここにコレットが来ることなど想定していなかったラヴィリアは驚愕する
このまま一人で生きていくよりは二人で一緒にいなくなってしまいたい、と言うコレット
二人ともカイムには申し訳ないと思ったが抱き合いながら崖下へと落下していく
亡き者へとなるはずだった二人が目を覚ましたのはカイムの家
落下したはずの二人は直後に起こった地震のせいでギリギリ岩場へと引っかかったという
九死に一生を得た二人だが全身は骨折だらけでボロボロ
ラヴィリアはコレットを庇ったためさらにひどかった
コレットが目を覚ましてからやってきたのが怒り心頭のジーク
そう、真実を知らない者にとって未だ「聖女は都市を浮かせているはずの存在」だと確信している
ジークは納得の行く説明を要求していた
だが「聖女が都市を浮かせていない」という証拠はない
もしそうだとするなら、この理不尽な仕打ちの怒りのやり場がない
証拠がないことにジークは激怒した、まぁ言っても信じて貰えないのは目に見えている
信じる事が出来るのは直接同伴したカイムくらいのものだ
だからカイムがそんな出鱈目な話を信じて聖女を救ったことを批判している
ともあれ理由が答えられないのならばそれ相応の報いは受け手もらわねばならない
コレットとラヴィリアはこれからジークの管轄下に置かれることになった
カイムはジークに問われた「じゃあどうやって都市が浮いているんだ?」という疑問を突き止めるため、貴族たちの住む上層へと向かうことにした
ルキウスの家に呼ばれたカイムは単刀直入にどのようにして都市が浮いているかを聞いてみる
ルキウスは確実に何かを知っているようだが一朝一夕には語れないといった様子
それにカイムにして欲しいことがあると申し出てきた
ルキウスは王宮に仕えている身だが水面下では内部を探ろうとしている
もしこの事がギルバルトにでも気取られたら消される可能性は高い
だからその時の護衛をして欲しいというのだ
さらにルキウスは独自の調べで、"十数年前の大崩落は人為的なものである可能性が高い"という
そんなことが許されるはずがない――――
どうやらそのことに一番深く関わりがあるのだがギルバルトらしいのだ
身辺警護を口実にカイムには王宮内部で自由に動ける駒となってもらう
一室に案内されたカイムはここにいるティアの様子を見に行く
結構久しぶりに会うがティアは無事でいてくれた
夜になってシスティナと共に下層のある場所に向かう
馬車で何かを運んできた御者が崖下に何かが入った麻袋を投げ込んでいる
引き摺っているところを見ると重量感があるのですぐ人間が入っているものだと分かった
死体処理をしている御者をシスティナは仕留め、カイムに死体の背中を見せる
複数あったが全員羽つきだった
治癒院が何らかの実験を行なっていることはこれでほぼ確定である
翌朝、王宮へと向かった一向は早速ギルバルトと出会す
威厳のある風貌、いかにもといった男だった
カイムは敵対心を表に出さないようにひとまず挨拶をしておいた
システィナとルキウスは各々庶務に追われていたため、手持ち無沙汰になったカイムは場内見学と洒落こむ
屋上で敷布を干していた者がシーツを落としてしまったようでそれを腕に巻きつけて確保してやる
すると何故かやたら尊大な召使いの少女が話しかけてきた
牢獄出身ということを伝えると食いつきがよく、教えてくれと興味津々
しかしこの娘、召使いにしては無駄に態度がでかい
カイムは明らかに年下であろう召使い風情に少しだけむっとしながらも、名前を教えてくれというので教えてあげた
このときカイムはまだこの少女が王女であることを露ほども知らなかった―――――
リシア王女が式服に着替えて大広間に来てカイムの前に来たとき、カイムは慄然とする
まさかとは思ったが、年端もいかなさそうなこの少女が王女だとは予想外だった
敬語などではなくなんとも馴れ馴れしい態度で話していた事を詫びる
無礼を働いたということでカイムは瞬く間に有名人になってしまった
システィナに目立つ行動は控えるように、と言われた矢先にこの体たらく
ギルバルトにも一目置かれるのが一番の懸念だ
リシアに仕えている近衛騎士団長のヴァリアスの眼が光る
ところがカイムの処罰は至って軽度なもので、ただリシアの話し相手になる、という寛大な処置だった
リシアは堅苦しい王宮の中で気軽に話せる人物を求めていたのでカイムには二人でいるときは馴れ馴れしく、普段通りに話して欲しいと言った
リシアが牢獄の現状を知りたいのは『王は全ての国民の父である』という父親の教えをきっちりと守りたいからであった
カイムは今の牢獄の状況やこの国の在り方についてリシアに色々と質問してみる
だが返答は誰でも知っているような当たり前の事ばかりだった
さらには捏造されているような受け答えもあった
リシアの口ぶりからすると世間知らずもいいところ、今のままではお話にならない
でもリシアは気を悪くせず、これからも色々聞かせてくれとその日は別れた
リシアの部屋を出るなり辺りに殺気が満ちているのを感じ取る
ガウがカイムを獲物でも見るような目つきで見ていた
なにやらガウはカイムの事が気に入ったらしくて、早く殺り合いたいらしいが城内では抜くことを禁止されているのでこの場は顔合わせといったところ
ガウは政治とかその辺の難しいことに興味はないようでただ単に強いヤツと殺し合いたいだけらしい
黒い粉が混じっている例の薬は『福音』ということや、それが治癒院で作られているということを敵でありながらも教えてくれた
ルキウスに今日の事を報告しておく
リシアはあまりにも世事に疎すぎるため、一度牢獄に連れて行って現状を見てもらった方が良いと考えた
ギルバルトの話によると牢獄には十分な物資が供給されているはずらしいのだがとんでもない
確かに供給はされているとてもじゃないが牢獄民が食べ物に困らないといった物量ではない
リシアはギルバルトの言っていることを完全に鵜呑みにしてしまっているようで、いいように操られている可能性が高い
実際、リシアの言っている事とは正反対だ
国王陛下が病に伏せてからはリシアが代理国王となった
年配の庭師に国王陛下について聞いてみる
リシアは国王は家族想いの優しい御方だと言っていたが、庭師の話によると厳格で自分にも臣下にも厳しい人であるとのこと
国王陛下のことも全然食い違っていた
こうなるとリシアは印象操作をされている可能性大だ
なんとかリシアを説得し、牢獄に行きたがるように仕向ける
その気になってくれたようでリシアならではの作戦で王宮から抜け出す
下層にすら降りたことのないリシアは商人が売っているものにも興味津々である
普段お目にかかれないものが見れたのか少し満足気だ
しかしそんな余裕も牢獄の惨状を見て一変する
大勢の乞食が跋扈し、上層民からすればありえないほどの地獄絵図と化していた
エリスのところへ案内する
たまたまアイリスがいたので二人に王女を紹介
アイリスが娼婦をやっていることを伝えるとリシアは不憫な目を向ける
余りある資産でアイリスを娼婦から脱却させてやろうと提案するがよくまぁ軽々しくそんなことが言えるものだと言わんばかりにリシアに茶をぶっかけて嫌悪感を露にした
アイリスの両親は貴族だったのだがギルバルトによって殺された
それからはアイリスも牢獄民の仲間入りだ
だからアイリスにとって王家は怨恨の対象でしかない
牢獄で築き上げた生活こそがアイリスにとっての全てだった
故に金でポンと解決されるというのは侮辱以外の何物でもなかったのだ
今日牢獄で見たことは忘れない、とリシアはしかと心に刻んだ
執政公の言っていることを全て信じろとは言わないにせよ、少しは疑ってみることが肝要であることをリシアに伝える
何もかもを信じてしまえば見えるものまで見えなくなってしまう
リシアは変わりたがっていた、今までの無知な自分とは決別したかった
思い立ったが吉日とばかりにすぐさま会議を結構するリシア
いつもと雰囲気が違うリシアに執政公も何かを悟る
今まで細かな点は会議にて取り上げなかったが現状を知るためには普段蔑ろにしている点まで厳しく追及するべきだと前向きな心がけで話すリシア
しかしながら最初こそ勢いが良かったものの、やはりギルバルトは手強くてリシアの言論を上手く丸め込んでしまう
国王陛下の話題になるとどうしてもリシアは尻込みしてしまう
ギルバルトは国王陛下が病であることを利用してリシアに付け込んでいた
自分に不利な話題になると何かと国王陛下という単語を持ち出す
リシアが国王陛下に並々ならぬ愛情を抱いていることは確かだからだ
ギルバルトを崩していくためには国王陛下の容態、リシアが国王に会ってどのような状態であるかを知る必要があると判断
以降もリシアはギルバルトと正面から向き合っていくが知識の差や押しの弱さもあり弱みを握れない
落ち込んでいるリシアの救いとなっているのがカイムの存在だった
リシアはカイムと雑談するだけで楽しんでいるようだった
カイムの生い立ちについても聞きたがった
牢獄の惨状をこの目で見て殺しなど無い世を作りたいと心から願った」
カイムは稼業が殺し屋だったことは伏せたがそれを見越してか一通の手紙が送られてくる
手紙の主は明らかにカイムの素性を知っている人物であった
リシアは手紙に書かれている文章を見てカイムを詰問する
カイムは誤魔化しきれなかったので正直に殺しをやっていたことを告白
リシアは大変残念そうな顔をし、腹を立ててしまう
もうカイムとは会いたくないとも言って追い出してしまった
待ち構えていたかのようにガウが現れて嘲笑する
手紙の主はガウだった
どうもカイムにご執心らしい
一方、ティアはカイムが王宮に行っている間、ラヴィリアを治療した摩訶不思議な能力を使って羽つき達を治療していた
ティアには羽つきを治療する能力があって献身的なティアのことだから当然力を惜しみなく他人のために使う
ティアはティアなりに生き甲斐を見つけていた
ルキウスによると執政公は随分とノーヴァス・アイテルのについて精通しているらしく、"どこのどの部分が落ちるのか"も把握しているような口振りだったという
ルキウスの方は順調に事を進めているようだがカイムの方がリシアと会えないとなると出来ることが限られてしまう
そこでルキウスは王城にある地下を探索してみて欲しいとカイムに伝える
特定の人物しか入る事ができない場所らしいので何があるのか確かめたいのだそうだ
ティアも連れてその場所に侵入してみる
延々と続くような螺旋階段を降りていくが時間も差し迫っていたので一度引き返そうとする
ところがその瞬間に謎の物体が襲いかかってきた
粘液質の液体が無数に襲い掛かってくる
一体一体ならいいが数が多すぎてとてもではないが防ぎきれない
しかも触れた瞬間に蒸発するほどの高温だった
逃げようにも退路を塞がれ頭上からすっぽり覆われそうになってしまう
死を覚悟した瞬間にティアからまたしても例の光が放たれ驚くことに黒い液体そのものを全部浄化してしまった
ティアの背中には羽が生え、黒い粘液をその翼に吸収していく
辺りの粘液を全部取り込み終えるとティアは疲れ果てて気を失ってしまったので背負ってまた襲われないうちに地下道から退散する
帰りに衛兵達に見つかってしまったがリシアが機転を利かせて部屋に入れてくれる
修羅場はなんとか乗り切った
やはりまだ機嫌が悪そうなリシアだったがカイム達のやろうとしていることは気になっているようである
カイムは義憤に駆られて動くような人間ではなく物事を諦観している節があったが、コレットを通じて考え方を変えることにしたのだ
自分が何もしなかったことで後になって自分に返ってくるのが怖い
リシアにとっては耳が痛い話だった
別に好きで王家に生まれたわけではない、自分だって一般家庭で育ち庶民の味わいを知りたかった
でも王家に生まれてしまったからには特別な権利があるし後継ぎをしなければならないことも重々承知している
そして自分の発言にはこの国の命運を左右するだけの効果があることも・・・
わかっていながらも思うようにならない事がリシアを苛む
カイムは駄々をこねるリシアをもう一度諭しながらも執政公とは戦うべきだと伝える
ティアはしばらく寝かせておいたら目を覚まし、何やら妙に現実味のある夢を見たのだという
ネヴィル卿という人物と若き日のギルバルトとの会話
その中で出てきた『クルーヴィス』という単語
会議の場でリシアはふとクルーヴィスのことについてギルバルトに尋ねてみる
その瞬間、ギルバルトは硬直してリシアをゴミを見るような目つきで射抜いた
ギルバルトにとってまさかその名を口にするものが自分以外にいるとは思わなかったのだ
そのことをルキウスに報告したのはいいが、いよいよやることがなくなってきたカイム
それでもルキウスはカイムを重用しようとする
近々決行予定になっている武装蜂起に参加して欲しいというのだ
ここまでして自分が必要とされる謂れがどうしても見つけられない
そこでルキウスが突然呟いた言葉―――――
『お前は自分の生まれてきた意味を見つけられたのか』
目眩がする
かつて自分の兄が死に際に言い残した言葉
それを復唱する男が目の前にいる・・・それすなわち、ルキウス=アイムであることの証明なのではないか
ルキウスによればあの後、奇跡的に岩場に引っかかって助かったというのだ
路頭に迷っていたところをネヴィル卿に拾われ育てられたのだという
ルキウスが兄であるというハッキリとした確証はないが嘘にしては妙に詳しかった
それでカイムはルキウスがアイムであることをほぼ確定したのだろう
しかし複雑な気分である
かつて生き別れたはずの全く想像もしていなかった再会
牢獄で育ったカイム、運がよく貴族に拾われて貴族として育ったルキウス
今となっては兄弟という実感があまり湧かない
が、ルキウスがカイムにここまで執心していたということはルキウスは最初に会った時から弟に間違いないということを知っていたのだろう
利害が一致しただけで協力していただけだったが血縁者が一人でも生きていたことは不幸中の幸いと言ってもいいのだろう
ギルバルトが食事会を開くことになった
会議室ではルキウスが一つの提案をする
国王陛下の容態が長らく回復していないことを取り上げ、腕利きの医者をこちらで手配してはどうかと進言してみる
ギルバルトは言葉巧みにかわすかと思ったが意外なことにルキウスの提案を受け入れた
そんな折、カイムの元にまたガウから手紙がやってくる
リシアの命に関することだったので真偽はともかくリシアの部屋に行ってみた
リシアは何者かに拘束されていた
背後に殺気
仮面をで顔を覆った何者かが襲い掛かってくる
なんとかやり過ごしたがあまりの熟練された身のこなしに捕縛することは出来なかった
襲撃犯が落としていった封蝋用の指輪には執政公の印が押してあった
ルキウスは計画通り牢獄からエリスを連れてきて国王陛下の容態を診察させる
エリスの見立てではどうみても薬物中毒だという
国王陛下は完全に邪魔者扱いされていたことが判明した
ギルバルトがこの国を牛耳っていることがどんどん明るみになってくる
だいぶと衰弱しているみたいで治すことはもう不可能だという
言葉もまともに喋れない状態の国王陛下が苦し紛れに言った言葉があった
ヴァリアスに任せてあるとかなんとか譫言のように言っていたのをエリスは聞いたらしい
リシアは早速ヴァリアスを呼び出してこのことについて聞いてみる
ヴァリアスは国王陛下から預かった一通の手紙をリシアに渡した
手紙に目を通していたリシアは嘆いた
リシアを次期国王に任命するということ、"リシアが国王陛下の娘ではなく、不義密通の子であった"ということ
そんな事が知りたかったわけではなくてリシアはただ国王陛下に愛されている事が知りたかった
ギルバルトから聞かされていた言葉とは全く逆の真相が国王陛下の手紙にはあった
だがこれは今まで国の実態を知らなかったリシアの自業自得でもある
どうしても一人で背負うべきことがある、とカイムは敢えてリシアに厳しく接する
エリスが国王陛下を診察した後になって容態が急変し、現在危篤状態にあるということがわかった
ギルバルトは既に手を打ってあった
こうやって報告することによってルキウス達に非があると周囲に思わせようとしたのだ
どこまでも狡猾で頭が回る男だった
ギルバルトは本格的にルキウスとカイムを消しにかかって来た
ルキウスの館に変えると廊下は血塗れ
ギルバルトの刺客が奇襲を仕掛けてきていたのだ
システィナが護衛についていたので無傷で済んだ
夜間になって再び襲撃があった
どうやらシスティナがいると分が悪いと踏んだのか留守の時間帯を狙ってやってきたようだ
ルキウスはともかくカイムがそこいらのチンピラ如きに遅れなどとるはずもなく、呆気無く始末完了
と思ったのだがルキウスが仕留めたはずの敵がまだ辛うじて息があったらしく余力を振り絞ってルキウスの背中を斬りつけてくる
まともには食らわなかったが支障が出るくらいのダメージは負ってしまった
武装蜂起間近だというのにこれは痛い失態となった
傷を負ったばかりだというのに以前から時折聞こえてくる鈴の音に身を震わせるルキウス
この鈴の音がなったときのルキウスはどこか恐怖に怯えているようで冷や汗をかいている模様
奥の部屋から戻ってきたルキウスは事情を聞かせてくれた
大崩落でカイムと別れたあと、ネヴィルに拾われたルキウスはさぞ貴族ならではの豪華で何一つ不自由ない生活を送ってきたと思うのが普通の感想だろう
が、そう上手い話が転がっているわけがないのが現実
ネヴィルは本来、国の執政公だったのだがとある一件で隠居させられてしまう
かつてギルバルトと政争を繰り広げていたが敗北してしまったネヴィルはギルバルトに失脚させられてしまった
それ以来、人格が破綻してしまい息子であるルキウスに復讐をして欲しかった
肝心の"本物"の息子であるルキウスを大崩落で亡くしたネヴィルは心が病んでしまっており、アイムの事を最愛の息子、ルキウスと勘違いするようになったのだ
何度もルキウスではないと弁解したアイムだったがネヴィルは全く聞き入れてくれない
生きていく上では仕方ないと観念したアイムは"ルキウスになりきる"ことを決意する
それからというものネヴィルに殴られ怒鳴られ必死でルキウスになろうとした
カイムとアイム、どちらが苦労したかなんて比べても詮無い事だがルキウスはルキウスなりに苦しんでいた
のうのうと暮らしていたわけでは無かったことを知ったカイムは少々同情する
翌朝になってルキウスに逮捕命令が出た
ギルバルトが牙を向けた
カイムにはリシアの説得に向かってもらう
やはり王女の言葉の影響は大きいのだ
私室に忍び込んだカイムはリシアに協力を申し出る
リシアはまだどうするか決めあぐねているようだった
ここでギルバルトを仕留めなければこの国に未来はない、だが果たしてギルバルトを打ち倒した後、ルキウスがギルバルトのようにならないという保証はどこにもない
リシアは繰り返しを恐れていた
今や国の実態を知ってしまったリシアにとって何を信じればいいのかが曖昧になっていた
その中でもとりわけカイムだけには他の者より信用しているようだった
要はリシアは頼れる誰かを必要としていたのだ
本当は王としての正しい道筋を誰かに提示して欲しかったのかもしれない
カイムはリシアに父親のような国王になれ、と命令する
王家に生まれたからには王位を継承するのは致し方ないこと
王の道は常に孤独
臣民から崇められることはあっても特定の誰かに懇意にすることは許されない
全ての国民に平等であれ、それこそが国王が全うすべき"王は全ての国民の父である"ということだった
『誰も信じるな。お前が見聞きし、自分の考えのみで裁断を下せ。全員を疑え、疑った上で誰が正しいのかを自分で選び抜け』
それがカイムが与えた幼き王への助言だった
リシアは得心がいったというように態度を改め、少しでも国王陛下に近づくために強い意志を顕現させる
一皮剥けたリシアはまるえ別人のように毅然としており、躊躇がまるでないようだった
差し当たってはまずヴァリアスを仲間に引き入れることがある
ヴァリアスはギルバルトにもリシアにも協力せず中立的な立場にあった
リシアがヴァリアスを説得して味方に引き入れようとするがまだ王として未熟さを感じ取ったのかヴァリアスは承諾してくれない
武装蜂起が間近に迫っているためカイムはティアを連れて牢獄に戻ることにした
カイム達が牢獄についたとほぼ同時にルキウス達の主戦力、防疫局とギルバルト率いる軍団との戦いが幕を切った
防疫局側はフィオネが先陣を切ってギルバルトの息のかかった兵士をなぎ倒していた
フィオネにとってこれほど価値のある戦はないだろう
今まで信じていた事が全くの紛い物だとわかったのだ
義のために思う存分剣を振るうフィオネは生き生きとしていた
ルキウス軍が優勢かと思われたがギルバルト軍からガウが出陣してきてからはフィオネも手傷を負わされ、一気に情勢は不利となった
一足飛びでルキウスとシスティナの前にやってきたガウ
いとも容易くシスティナを退け、ルキウスの眼前に迫る
あと少しで生命を絶たれる―――――というところで遅れ馳せながらカイムが間に合う
ガウは心底嬉しそうな狂笑を浮かべる
3対1でも圧倒的優勢に見えたガウだがさすがに旗色が悪いかと思ったのか一旦身を引く
状況は圧倒的に不利だった
ルキウス軍が戦況を覆すためにはヴァリアスの力無くしてはありえなかった
リシアはもう一度ヴァリアスの説得に向かう
ヴァリアスは直立不動の姿勢でリシアを待ち構えているようだった
同じ国王軍同士で戦い血を流す―――――リシアに全てを背負う覚悟があるのかどうかヴァリアスは見極めようとしていた
口先だけならば協力はしない、でもリシアの厳格なる態度は王の気質を確かに備えていた
全責任はリシアが持つと自信満々に言ってのけた
ヴァリアスは成長したリシアを心から喜び、忠誠を捧げることを約束した
奸臣ギルバルトを討つべく、ついに王国きっての精鋭近衛騎士団が行動を開始した
ヴァリアスが動き始めてからはあっと言う間に戦況はひっくり返った
ギルバルト邸に押しかけて投降させようとするが肝心のギルバルトの姿がない
地下道が敷設してあったようでそこを通じて王城へと移動していたらしい
王城がもぬけの殻となったところを見事に制圧されたというわけだ
一向も隠し通路を辿り王城へと戻る
ギルバルトの行方を手分けして探すというところでガウが立ち塞がる
今の人数では圧倒的にガウの方が不利である
そこでガウが取り出したのは例の薬物、『福音』
黒羽が化け物に変貌したと思われるアレである
ガウは己の体など顧みず服用した
化け物にさえなりはしなかったが尋常ならざる戦闘能力が見て取れる
※4 ここはヴァリアスに任せて他の者はギルバルトの行方を追うことにした
ヴァリアスはどこかの一室の鍵をリシアに渡す
それはとある研究施設への扉の鍵だった
解錠した先には高く聳え立つ尖塔
空中に吊られたような橋を渡り塔の室内に入ったところにギルバルトが待ち構えていた
ギルバルトはいきなり本題から話し始めた
何者がこの都市を浮かせているのか?
カイムが最も知りたくて止まなかったことだ
ギルバルトは平然と『天使が浮かせている』と言ってのけた
ノーヴァス王家に代々秘密に伝えられていた真実であり、500年前に人間に愛想を尽かした天使は天界へと去ろうとした
しかし人間は天使を捕まえ拘束した
そして天使の力を借りることによって都市は浮遊しているという
御伽話のようで真実味が全く湧かない話だがギルバルトは至って真面目そうに語る
天使の力を使ったまではいいが歳月を経て段々と天使の力が弱くなったことで新しい天使を生み出す必要があった
そのために実験台となったのがギルバルトの最愛の妻、クルーヴィスだった
クルーヴィスはネヴィルによって強制的に実験候補に抜擢され、ギルバルトはネヴィルを憎んだ
ネヴィルを追い払った後、ギルバルトはクルーヴィスを蘇生させるために着々と準備を進めてきた
ところが実験は失敗に終わり、集めた天使の力が暴走したという
"終わりの夕焼け(トラジェディア)"が確認されたのはその直後、次いで大崩落(グラン・フォルテ)が起こったのだ
つまり、大崩落はギルバルトの実験失敗によって引き起こされたものだった
ルキウスが人為的なものだと言っていた予想は当たっていた
クルーヴィスのためならば非人道的であろうが何だろうがお構いなく実行する
そのため他の人間が犠牲になろうが知ったことではない
カイム達が怒り狂う中、ギルバルトは野望が潰えるのならばせめてこの都市一体を巻き添えにするつもりで、地盤を管理しているであろう装置に手を伸ばす
というところでまさかのシスティナの裏切り
システィナはルキウスを人質にとりギルバルトの元へと寝返ってしまう
実はシスティナはギルバルトの数多い子供の一人だった
ここに来て予想だにしなかった裏切りにこちらもどう動くべきか対処に困った
けれどもこのシスティナの行動はギルバルトを油断させるための演技だったようで隙を突いてギルバルトを斬りつける
システィナがギルバルトの娘であることは本当だが忠誠など誓ったつもりは毛頭なかった
システィナが仕えるべき御方はルキウスと決まっていたのだ
ギルバルトを討ち果たしたことによりこちらは一段落
あとはヴァリアスの方が心配である
ヴァリアスとガウの戦いは熾烈を極めた
ガウの恐るべきスピードをヴァリアスは捌くのだけで手一杯だった
ガウは福音の副作用で内蔵が無茶苦茶になっていたので時間的余裕はあまりない
ヴァリアスの方も体力的には長く保ちそうにない
ガウがヴァリアスの懐に入り込み刃を突き立てる
同時にヴァリアスもガウの頭に短剣を差し込み、二人はもつれ合いながら倒れた
ヴァリアスが死ぬ直前になんとか間に合ったリシアは泣きながらヴァリアスの死を見守った
ギルバルトを倒したことにより新たな政治の幕開けとなった
国王陛下も崩御され、リシアは戴冠の儀をもって正式に国王となった
リシアはここまで漕ぎ着ける事が出来たのはカイムのお陰だと特に褒め称えてくれた
ルキウスはネヴィルにギルバルトを倒したことを伝えると心底嬉しそうにしていた
どこか狂ってしまったネヴィル卿、いい加減ネヴィルとの因縁も断ち切るべきだと判断したルキウスはシスティナと共にネヴィルを介錯してやる
ルキウスはネヴィルとのしがらみに終止符を打った
武装蜂起の間、牢獄で待機していたティアはカイムと共にルキウスの屋敷に呼ばれる
ギルバルトの言っていた事が真実ならばこの都市の寿命は短い
残された時間は多くないことが分かれば自ずとやることは決まってくる
そこでルキウスが注目したのがティアの御子としての力だ
ティアは誰かの為になるのなら協力することにやぶさかではなかった
またルキウス邸で厄介になるので一旦牢獄まで荷物を取りに戻ることにした
止まない風のように 空を舞う鳥もやがては地へと落ちていく
いつかあなたは知るのでしょうか 永遠に飛び続けるもののあることを
誰の背にもある崇高なる意思(つばさ)
飛んでください どんな不条理の嵐の中でも
高く遠く 万象の理さえも貫いて―――ティアメインの話になると急に演出が凝り出すwww ここから物語の核心だってハッキリわかんだね ギルバルトが討たれて以来、政治はルキウス主導で行われていた
ティアはギルバルトがいた研究室で研究員監視の元、実験に協力している
ルキウスはカイムとティアにノーヴァス・アイテルの心臓を見ておいて欲しいと塔の上部へと案内する
文字通りそこには天使が柱に括り付けられていた
だいぶ衰弱しているみたいで生きているのか死んでいるのかも外見だけでは判別がつかない
だがノーヴァス・アイテルがまだ浮遊しているということは少なくとも天使の力は残っているのだろう
ティアは主柱に磔にされている天使を凝視していると前々から聞こえていた天使の声が頭の中で聞こえてきたようだ
念波みたいなものを送ってきているのかもしれない
当面の目的はティアの体を調べて都市を救う方法がないか模索してみるようだ
ティアは賛成してルキウスの力になろうと意気込む
カイムはティアが先ほどの天使のような処置をいずれ取るつもりなのかとルキウスに聞くが危害は加えるつもりはないとティアの身を案じてはくれるらしい
天使の力が弱まってきているのは明白だったので地震の回数が多くなってきている
コレットの次の聖女も崖から身投げして住民の非難の対象となった
それでも暴動は徐々に増えてきているらしく、鎮圧する手段も講じておかなければならない
リシアは血を流すことを極端に嫌ったがあまりにも程度が酷くなった場合は致し方ない
カイムは牢獄にいるジークの元を訪れ、上層で行われているノーヴァス・アイテルを救うための実験の話を伝えておく
しかしジークは実験が本当に牢獄が全て下界に飲み込まれてしまう前に成果を上げることが出来るとは限らないと否定的な意見を漏らした
生まれてからこの方ずっと牢獄で暮らしてきたジークにとって牢獄の住民の事を守るのは当然の義務である
上層よりは牢獄の事を優先的に考えるのは自明の理だった
牢獄民の怪我の手当をしていたエリスから奇妙な情報を入手する
最近牢獄に"黒い霧"が蔓延りつつあるのだという
触れると全身に火傷みたいな痕が残るらしい
王城の地下道で見た、粘性の液体と関係があるのかもしれない
実験室にてティアは羽つきの治療を行なっていた
治療を行う度に翼に黒い液体が蓄積され、今となっては随分と大きくなっていた
多少の苦痛を伴うこともあるそうだ
実験室に泊まり込むことも増えた
久しぶりに外出許可を貰えたのでカイムと一緒に牢獄を練り歩く
ティアはまだヴィノレタが無くなった場所を拝んではいない
変わり果てた地形を見て、悲哀の色を浮かべながら落ち込んでいるティア
料理を教えてくれたメルトはもういないことを実感した
頭を撫でて慰めてやってから無沙汰にしていたカイム宅に寄る
ティアはだいぶ埃っぽくなっていた部屋を掃除する気満々
カイムはシスティナからコレットが出してくれた手紙を受け取っていたので住んでいると思われる場所へと訪問する
ラヴィリアとコレットは二人で健やかに生活を営んでいた
ジークに娼婦にさせられたかと思ったがそうでもなかったようだ
ほとんど隠居に近い形の生活だったが細々と暮らすことに特に異存はないようで二人ともどこか楽しげである
二人に挨拶して帰宅したカイムはティアと一緒に夜まで時間を過ごし、例の霧が出るという場所まで行ってみる
しばらく待機しているとどこからか焦げるような音が聞こえてくる
死体の中に入り込んでいた"黒い液体"はカイム達に襲いかかってくる
一応物理攻撃は効くのだがそれは少量での話
なんと液体は下界からひっきりなしに這い上がってきていたのだ
この数を相手にするとなるといくら体力があっても足りないので撤退を決め込む
ところがティアの方が腰が抜けてしまったようでその場で立ち竦んでしまう
その間に黒い液体はまるで聳え立つ壁のように巨大化し、二人を包み込んでしまおうとする
逃げ場はなく死という単語が頭にちらついた時、ティアから燐光が放たれる
極彩色の光は液体を全て浄化し、その力を以てしてティアの翼に吸収されていく
運悪くその姿を牢獄民に目撃されてしまったのだが気絶してしまったティアの事でそれどころではない
死に物狂いでエリスに様子を診てもらう
命に別状はないことがわかって一息ついた
ティアが目覚めてから話をしてみてあることが発覚する
記憶が忘却している恐れがある
ヴィノレタが崩れた場所で拾った石のことを覚えていなかった
ルキウスにもその事を報告しておく
力を行使していくと段々記憶が損失していくのではないか?という疑念が湧く
実験のやり方に不服そうにするカイムだが残された手段が少ない現状、ルキウスはやめるつもりはないらしい
それもこれも全ては都市を救うため
詮無きことでもある
カイムは筋が通っているルキウスの言を肯定せざるを得なかった
その晩また地震が起こる
どれだけ回数を重ねても未だ慣れることのない恐怖
翌日は牢獄民達が関所の扉の前にたむろしていた
牢獄民達を安心させるため、また新たな聖女のお目見えが催される
しかしここに来て絶妙なタイミングで大地震が到来
また牢獄の一部が下界へと消えていく
地震が収まると同時に牢獄民達の叫喚が響き渡る
牢獄の終わりを悟った住民達が一斉に下層へと雪崩込もうと関所に押しかける
視察に来ていたリシアをとりあえず下がらせ、フィオネとカイムは牢獄民達に必死になって落ち着くよう宥めに掛かる
だがこうなってしまうともはや武力行使にて止めるしかない
極力殺さぬように国王サイドの人間は応戦した
それでも死人が出ることは避けられず、牢獄民達との間には亀裂が入ってしまった
牢獄民達を最終的に鎮静させたのはジークだった
不蝕金鎖の頭首でなければ止めることは出来なかっただろう
ジークはカイムに会うなり虚しそうな顔をした
ジークが言うにはカイムは全く変わってしまったようで、ちっとも自分の足で立てていないと思わせぶりな台詞を残して去っていく
リシアは今回の騒動で血が流れたことに大変立腹した
ルキウスを呼びつけ叱りつけるが、より多大な犠牲を出すよりは少量の犠牲で事を収めた方が良いと判断した
大事の前の小事を重んじるルキウスの意見は釈然としないが理に適っているためリシアは歯痒い思いをしながらも受け入れる
都市を存続させるための実験はいよいよ重大な局面を迎えようとしていた
ティアは目に見えて苦悶の声を上げるようになってきた
カイムにとってティアの悲鳴は痛々しい以外の何物でもなくいたたまれない気持ちになってしまう
牢獄でエリスやコレット達の様子を見に行く
最近になってコレットがまた天使の言葉を聞くようになっていたらしく、メモを取っていたので見せてもらう
しかも夢には情景まで出てくるらしく、話から察するにどうみても天使が縛り付けられている塔を指していた
コレットの夢はやはりただの夢物語ではなかった
またティアには天使自らの声が明確に届くようになってきており、ティアを誘惑するような言葉を投げかけてくる
人間に虐げられてきた我々天使は今更人間などに協力する必要はない、と
ティアは声に抗いながら必死に堪える
時間が差し迫ってきているのでルキウスは多少強引だが強攻策に出た
ティアを覚醒させるために牢獄に連れて行き、大量の粘液を浄化させるのだ
苦痛は伴うだろうが量が多ければそれに非礼して翼も大きくなる
ルキウスはティアをこの都市を浮かせるための原動力にすることに迷いがなかった
そしてその晩、コレットは見るもおぞましい夢を見てしまう
そのことをカイムに手紙で伝えるとカイムはコレットがティアの液体浄化をしている場面を夢にて確認したと理解した
急ぎ足でコレットとラヴィリアの元へ向かったが二人とももういなくなってしまっていた
上層に戻ったカイムがルキウスと現況について話しているところへ嫌な報告が届く
"牢獄民が武装蜂起した"というのだ
先頭に立つのはジークであった
ジークは国王軍と徹底的にやり合う腹積もりだった
関所を抜かれるとまずいのでルキウスの指示の元、なんとか食い止めようとする
しかしリシアは戦いは無益であることを主張し、牢獄民に言い聞かせる
代表の者と話し合いがしたい、と申し出るリシアの前に名乗りを上げたのは―――――
第29代聖女、コレット=アナスタシアその人だった
カイムも含め、国王軍に衝撃が走る
確かにコレットは処刑されたはずだった、ここにいないはずの人物のはずだった
だが現にこうしてコレットは首謀者となって牢獄民を率いている
これはジークの巧妙な作戦だった
聖女を表に立てることによって民衆を活気付ける
聖女がバックにいるとなれば民衆の戦意は倍増する
コレット達が掲げるのは天使の開放であり、散々人間達によって甚振られた王家に対する人間への宣戦布告だった
かたや天使を救うために蜂起した群衆、かたや都市を浮かせるためには致し方ない処置だという貴族達
双方は真っ向から対立していた
牢獄民達の勢いは留まる事を知らず関所を突破してしまった
下層がこれからは戦場となるのだろう
ルキウスに策はあるようだが勢い付いている反乱軍を並大抵の方法で止めるのは困難のはず
ティアともうだいぶ会っていなかったので顔を見せに行く
ティアはカイムが来ると嬉しそうに破顔した
研究所の中にずっと居ては気が滅入ってしまうので気晴らしに王城内を散歩する
一夜を共にした二人
カイムに好意を抱いてしまったティアはこれ以上甘えてしまうと都市を救うための研究に支障が出てしまうかもしれないと言い出し、もう会わない方がいいと言ってくる
およそティアらしからぬ堅固な意志にカイムも賛同する
戦況は国王軍の劣勢だった
もはや上層に到着するのは時間の問題と言えた
リシアは自分が処刑を受けることも辞さない勢いで無条件降伏を決意する
だがここでまだ終わる気はさらさらないルキウスは部下にリシアを拘束させ別室へと隔離させてしまう
システィナが何やら準備が整ったというのでルキウスに確認を取りに来る
ルキウスがシスティナに指示を出して少しすると、都市全体が振動し出す
大地震と共に今まさに戦いを繰り広げている反乱軍の中枢に大きな穴がぽっかりと空いた
この都市には<解法>という機能が備わっていて、"任意の場所を沈下させることが出来る"らしいのだ
そして牢獄とは使い捨ての燃料のように『落とされる場所』だというのだ
カイムは怒りに任せてルキウスを殴りつける
天使の力は時間が経つほど弱くなってきていたため、都市の総面積を少なくすることで天使への負担を軽減する必要があったのだ
だからといってそれが許されることであるはずがない
ルキウスはどこまでも合理主義者だった
都市の存亡のために常に正しいことをし続ける
そのためならばどれだけの人間が犠牲になろうと構わない
ルキウスには決して歪まない強さがあった
それに比べてカイムは『自分が何をどうしたいのか』についてまだ答えが出せていなかった
カイムの行動はその時々によってそれぞれ違っていたのだ
手段は多種多様であるにせよ、最終的な目的が定まらない
夕日が差しかける頃になってジークを説得することを考えつく
天使の力の限界が間近に迫っている今となってはティアの天使化は一刻を争う
純度の高い『福音』を使ってティアの覚醒を促す
あと少しでティアがこの都市を救う存在となり得る
ティアの体から閃光が放たれると辺り一面を白の世界に染め上げる
その光を見たカイムはようやく気付く
自分はティアをなくして生きていくことは無理だ
何より"ティアを失くした後の言い訳として、『都市存続のために仕方ないことだった』"と自分に言い聞かせることが許せない
ようやくカイムにもやらなければならないことが確定した
反乱軍は部隊を削られながらも上層にまで進軍してきていた
もはやここまでと行ったようにリシアが降伏しようとする
そこへまだ降伏してもらっては困る、と現れたのが『福音』を使用したシスティナ
人の形をしているが魔物と呼んでもいい戦闘力だった
せっかく争いが収束するかと思われたのにまた火が点ってしまった
同じ都市に住む者同士で一体いつまで不毛な争いを続けなければならなのか・・・
リシアは絶望にも似た感情で命が失われる戦場を見ていた
カイムはルキウスとティアの元へと辿り着く
ルキウスはティアを今すぐにでも天使にさせたかったようで剣でティアの体を刺し貫いていた
苦痛を与えることでティアの覚醒を促進させているのだ
ティアを救うことを明確な目的にしたカイムはルキウスと対峙する
お互いの主張がぶつかり合い、兄弟での殺し合いが始まった
軍配は最初からカイムに上がっているようなもので、戦闘経験の少ないルキウスはあっさりと敗北してしまう
しかし今生の別れとばかりにカイムに柔和な態度で話しかけるルキウス
カイムが油断した隙にまだ諦めていなかったルキウスは短剣をティアへと投げつける
ティアは天使の声を聞く
磔刑にされているこの天使こそが初代イレーヌなのだそうだ
イレーヌはティアにノーヴァス・アイテルの成り立ちを事細かく伝える
どう考えても人間側に非があったがイレーヌはかつて人間に復讐をすることを望んでいた
ティアはイレーヌの言葉に耳を貸して受け入れてしまう
それ以降は自意識を保てず天使の思考に乗っ取られたように言葉を紡ぐ
人間への報復が始まろうとする中、カイムはティアの自我を取り戻すため近付きながら語りかける
触れようとすると腕や足が千切れ飛んだがそんなことを気にしている暇はない
何としてもティアを救い出すことが先決であった
カイムの呼びかけがティアに通じたのかティアは少しずつカイムの事を再認識していく
ティアを拘束している管状の物を全部取っ払っていく
もう都市の命運など知ったことではない、ティアとこうして最期を迎えられたらそでいいのだ
それこそが今カイムが求めて止まない唯一の本音だった
ノーヴァス・アイテルがどんどん落下していく
恐らく下界にある混沌の闇に飲まれ、消える運命になるのだろう
例の黒い粘液が待っていましたとばかりに襲い掛かってくる
ティアはやはり自分にはやるべきことがある、といってカイムを突き放す
カイムはティアの名を何度も呼ぶがティアは自分にとって最後の使命を全うすることを決意
最大級の光に包まれてティアの姿が見えなくなっていく
下界に飲み込まれたと思われた都市はきちんと存続していた
ティアの力が混沌を全て浄化してくれたのかもしれない
驚くべきことに都市の先には地平線がどこまでも続いていた
浮遊都市であったからこそ、人は生きていられたはずなのに地上でも問題はない
人類は救われた
しかしどこを探そうが肝心のティアの姿はどこにもない
ティアの名前を何度か呼ぶうちにどこからかティアの声が聞こえてきた
姿こそ見えないもののティアは『この世界と一体になって存在しているのだという』
体は失くなってしまったが風水土となってこれから生きていく
カイムの声はいつでもティアに届く、ティアは事象の中にいるのだから
ティアは生まれてきた意味をカイムを、ノーヴァス・アイテルを救うことに見出した
カイムはティアに生かされたこの生命を大切にして生きていくことを誓う
牢獄民も国王軍も争い事どころではなく、新しい世界でどうやって過ごしていくかを考える必要があった
ティアが創ってくれたこの世界を決して無駄にしてはならない
ノーヴァス・アイテルの新たなる世界の幕開けだった
END
※1 フィオネの手を家族の血で濡らすわけにはいかないと判断したカイムはクーガーを自分の手で殺める
捕縛出来なかったのは誠に残念だがあの場合仕方がなかった
兄の言葉を聞いて防疫局の仕事に自信が持てなくなってしまったフィオネは呆気無く退職する
黒羽事件を通じて少なくともフィオネの家庭に首を突っ込んでしまったことに変わりはない
防疫局の仕事が生き甲斐だったフィオネはカイムと一緒に牢獄の見回りや用心棒に転身
新しくやるべきことを見つけたので生き生きとしてきたフィオネ
カイムと一緒に日々を暮らすことで恋心を芽生え二人は惹かれ合おう
ジークが二人に結婚式でも挙げないかと相談してきた
突然の事だったが、ここまで親しくなっているのだから全く問題はなかった
カイムとフィオネは幸せを噛み締め、集まった皆から盛大な祝福を受けた
END
※2 長年拒んできたエリスの情をついに受け入れることにしたカイム
いくら何でも邪険に扱い過ぎた
そろそろ受諾してあげなくてはエリスも救われない
ようやく自分の愛情がカイムの心を射止めたのか心底嬉しそうに微笑むエリス
愛し合い、子宝を授かったエリスはカイムと過ごすこれからの未来に一層期待した
END
※3聖職者としてのみ生きてきたコレットはカイムに出会うことで自分がこれまで持ち合わせていなかった価値観を知識として取り入れた
新しい観点を教えてくれたカイムに対して特別な感情が発露していた
コレットの気持ちを承諾したカイムは下層でラヴィリアと3人で住むことにする
世俗の暮らしは二人にとって斬新なものだったようで聖職者では決して味わえない実感を感じていた
END
※4 自分にとって慣れ親しんでくれる人はいつまで経っても現れることはなかった
王女ということでどの人間も他人行儀に振る舞う
そのような緊迫した空間でカイムの存在はリシアにとって気兼ねせずに話せる相手だった
色々アドバイスしてくれたこともあり、自分の身を任せられると決断したリシアはカイムに好意を告白
カイムは歳相応の弱さも含めて受け入れてやることを決めた
ギルバルトを討伐し、国が落ち着きを取り戻してからカイムはリシアの補佐をしながらこれから生きていく
END
■シナリオ感想
シナリオ構成は枝分かれルートになっていて"他のヒロインの好感度を全部ブッチする" とティアルートに到達www 逆にティアに辿り着く前に他のヒロインが好きになってしまったら方向転換することも可能
だが正直ティアルートは最後にとっておくべきティアルートは最初にやってしまうとどうしても話の本筋になっているので、他のヒロインのルートがやる気的な意味で削がれると思うw
他の4人はさして問題ないので好きな順番でやってもいいけどやっぱり理想的なのは順番通りに攻略していくことだと思う
フィオネ個別→エリス個別→コレット、ラヴィリア個別→リシア個別→ユースティア、といった具合に
この作品はティアのルートを終わらせるまで全部話がリンクしているので、個別の長さは大したことはなくて個別入ってからはかなり短い
ほとんど一本道のゲームだと思ってる
ただ個別に入るまではそのキャラの生い立ちや詳細な背景を知ることが出来るので章扱いにした方がいいかな
どうしても各キャラのルートを章分けするのであれば、
4章(リシア) >5章(ティア) >3章(コレット 、ラヴィリア) >1章(フィオネ) >2章(エリス) ●4章 王の在り方についてひたすら追求するのは一番好みであった
リシアの幼いながも必死に国王に近づこうとする姿勢、でも現実はそう甘くない
王家に生まれたからには否が応でも王になる使命がある
民衆を動かす事が出来る力、それをどのように行使するかによって人物の器量が問われる
そこでリシアが苦悩し、その先に見つけた答えがリシアの自信に繋がったのが良かった
王の有り様を悟ったリシアの豹変ぶりがとっても凛々しくて好きです
リシアのシナリオやってるときはFate/Zeroのライダーの話を思い出したよ
●5章 断片的に評価するならティアのルートは二の次になっちゃうなぁ
ティアのルートは一貫してその真価を発揮するからしょうがない
とりあえずティアのルートは南條愛乃の叫び声が痛々しくて耳を塞ぎたくなってしまうww
本当にあの叫び声は苦痛そうで聴いているユーザーも辛いんだよ・・・マジで・・・
それだけ演技が上手いってことだね、GJです
●3章 聖戎に縛られて生きていきたコレットとラヴィリアは多少融通の効かないところがあるにせよ、コレットの芯の強さには驚嘆するべきものがある
あそこまで信念を曲げないのはすごいわ、それが後になって報われたってのが俺としては非常に嬉しい
同時にラヴィリアも自分なりのコレットに対する親愛の念を持っていたけど後ろめたくてどうしても話せなかった
お互いの気持ち理解していなかったことですれ違ってしまった二人だけど、最後には昔の二人みたいに親しくすることが出来てよかった
個人的には処刑場で落下した時に個別ルートなら生存、そうでなければ死亡って事にしておいたほうが好みだったんだけど、コレットが死んじゃうと後々のシナリオに影響を及ぼすから生存してなければいけなかったんだよね
ルキウスもそうだったんだけどさ、
崖に引っかかって生き残るパターン多いよwwwwwwwww なんでそうタイミング良く崖に引っかかって落ちないんですか(正論) 捻くれてるかもしれないけどこの辺りがどうしても「少し出来過ぎじゃないですかねぇw」と思ってしまった
●1章 フィオネが信じていたものが水泡に帰して目的を見失ったという事がね、フィオネには申し訳ないけど俺が最もフィオネルートで光るところだと思うんだよ
つまり何でもかんでも盲信してしまうと真実を見失うってことだね
リシアのルートでも共通しているけど疑心を持つことは大切なことだ
何が本質かなんて見極めるのは大変だけどフィオネの防疫局に汚いところはない、っていう盲目的観念を兄が変えてくれたというのがいいね
フィオネの目を覚ましたというか、家系に縛られすぎていたフィオネの鎖を断ち切ったというか
●2章 エリスの両親を殺してしまった罪としてカイムはせめてエリスに自由に生きて欲しかった
でも物言わぬ人形として隔離されていたエリス誰かの指示無しでは生きられなかった
カイムは知らぬ間にエリスにアイムの思想を押し付けていた
やっぱり心のどこかではアイムを慕っていたという情があった
なんだかんだでアイムの生き方を守ろうとしていたところが好き
エリスに対するカイムさんの態度ちょっと冷た過ぎんよ~
ていうかエリスが一番可哀想な扱い受けてんだよなぁw
あんだけラブラブな恋慕を体現しているというのに、なんだかんだ言い訳して逃げてるカイムさんちょっと情けない・・・w
エリスとくっつくのが一番自然だと思うのは俺だけでしょうか
本人が全く気にしてないんだからいい加減過去の事は水に流してやれよw
■キャラ ガウ・ルゲイラ >>>>>>>>>>>>>>>>>以下、すぐにケツを差し出す雌豚共(※うそです) >>>>>>>>>>>>>>フォオネ・シルヴァリア ≧リシア・ド・ノーヴァス・ユーリィ >メルト・ログティエ ≧コレット・アナスタシア >クローディア >ユースティア・アストレア >アイリス >システィナ・アイル >ラヴィリア >エリス・フローラリア >リサ ▲ガウ・ルゲイラ Q.このゲームのヒロインは?
A.ガウさんです Q.それサブキャラですよね?しかも悲惨な最期を迎えてしまいますよね? もう一度聞きます、このゲームのヒロインは誰ですか?
A.ガ ウ ・ ル ゲ イ ラ だ ろ う えー、見事一位に輝いた俺の愛してやまないガウさんは『超脇役』 キャラで出番もそれほど多くはありません しかも死んでしまいます それでも―――――
「ガウ・ルゲイラ!君の存在に心奪われた男だ!!(グラハムリスペクト)」 正直なところユースティアやってる最中に「結構キャラ多いのに好みなキャラいねぇなーこのゲーム」と萎えていたんですよ でもね、ガウさんが初登場した瞬間に「ちょwwwwwww誰この人wwwwwwwww超俺好みやんけwwwwwwwwwキタワァ!!wwwwwwww」って発狂したw カイムと同類の女アサシンでたぶん作中で一番強い人
狂気に満ちた殺人狂という設定もたまらなく好きです
俺はこういう頭イっちまってる異端児に惹かれるんだよ!
設定上、本当は男キャラの予定だったらしい
けど急遽変更されたんだとさ、嬉しいなぁ(うっとり)
とりあえずガウさんの"頭部に剣を突き立て脳漿をぶち撒けさせながら殺した" ヴァリアスは絶対に許さない 俺は心底ヴァリアスを恨んでいるwwwwwwww
あぁ^~ガウさんに告白されちゃったよ/// 俺もガウさん大好きです!! 声優は海原エレナ
海原エレナはロリキャラやるよりこういう凛々しいキャラやってくれた方が好き
ガウさんのHシーンはま~だ時間掛かりそうですかね~?(急募)
ちなみにガウって名前を聞くと
FF6のガウが真っ先に出てくる俺www ルゲイラって聞くと
アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラが脳内から出てくるwwwwwwwwwwwwwwwww それは『ノゲイラ』だろ!いい加減にしろ!ノゲイラさんマジ好きなんだよ
柔術マジシャンって異名が最高ですよね
必殺仕事人みたいに技を決めるところがたまらんです
いかん、Prideの話に脱線してしまったようだ
ともあれ俺はこの作品でガウさんを愛しています
福音使用時のガウさん
ウルトラマンよろしく戦闘時間が限られているが戦闘能力はずば抜けて上がっている
この状態のガウさんが作中で最強かな
▲フィオネ・シルヴァリア 防疫局の隊長であったが副隊長に降格、個別ではしがない牢獄民w
真面目一徹な性格で不正を許さない
堅物ではあるが儀を何よりも重んじる
剣の腕も立つようでカイムには及ばないものの、善戦してみせた
▲リシア・ド・ノーヴァス・ユーリィ 王女様
容姿に似合わぬ言葉遣いが可愛くて好きです
立ち絵が他キャラと比べてよろしい
私服よりも式服の方が好み
▲メルト・ログティエ メルトさん死ぬなよ!ホントこの人は死んじゃいけない人物だったろ・・・
ヴィノレタが落下したのを見て俺も「あーメルトさん死んじゃった」って萎えたwww
元娼婦で人気もナンバーワンだった
相当SEXがお上手なんですね
過去にジークとカイムが好きだった御方でもある
▲コレット・アナスタシア 聖女様であったが一般市民に成り下がる
ラヴィリアとは旧知の仲
姉妹のようにいつも一緒にいる
コレット「私、セックスするのって初めてなの」
ちゅるるっ、れるるっ、ぴちゅっ、れりゅっ、ちゅるっ、じゅるるっ 遠野そよぎの名演技ならぬ、名フェラ改め『バキュームフェラ』 素晴らしいwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww やっぱそよそよフェラうめぇわwwwwwwwwwwwwwwww 処女でこのテクニック・・・ッ!! これがベテランエロゲ声優の本気ですよ
エロに懸ける情熱が違うw
コレットだけ唯一興奮したわwwwww
さすがである
夏野こおりといい勝負っすね^^
▲クローディア現役娼婦でメルトなき今、一番の稼ぎ頭
体つきも容姿も端麗で客からの受けがいいんだと
クローディアのエロシーンも中々よかった
愛称はクロ
▲ユースティア・アストレアタイトルにも使われているように本作のメインキャラ
アストレアとう姓はカイムから貰ったもの
エリスから"小動物"と言われているだけあって身長149cmしかない
"メインヒロインが最下位に来るという俺特有の現象"には該当しなかったようで何よりですwwwww ▲アイリス クローディアと並んで現役娼婦
ぶっきらぼうな態度が印象的
たまに口を開いたかと思うと暴言が飛んでくる
最初の『知るかダボ』 って台詞で腹筋崩壊するくらい笑ったwwwwwwwwwwwww ダボってたぶんね、関東では使わない罵倒言語じゃないかな
たぶん大阪よりなんで三重県でも使わないんだけど久しぶりに聞いたから爆笑した
俺はこういうロリキャラで口悪いキャラは大好きwww
「しね」 「くたばれ」 「不能野郎」 アイリスたんもっと罵ってくれ!!▲システィナ・アイル ルキウスのお付き
ルキウスを慕っていたが結局それは実らずに死んでしまう
システィナさんはつれない態度で毒舌をさらっと言う所が好きかな
福音使用後のシスティナさん目怖すぎんよ~ ▲ラヴィリア 姉妹と仮定するならコレットが妹でラヴィリアは姉
愛称はラヴィ
天罰!エンジェルラビィを彷彿とさせるっ! ラビィじゃなくてラヴィだろ!いい(ry あうあうあー(^q^)
このままでは間違いなく死ぬ。人間ってこの出血量で生きていられるものなんですかね・・・ ▲エリス・フローラリア メインヒロインなのに下位になっちゃったエリス
容姿は結構好きなほうなんだけどなぁ・・・なんていうんだろ、小姑みたいな性格してるのが好きになれないw
愚痴をこぼしながらもやることはやってくれるので良い娘ですヨ
牢獄には貴重な医師で頼りにされている
▲リサ 最下位はリサちゃん
娼婦三人娘の一人
とにかく騒々しいキャラでいつも元気に走り回っている
俺が一番好まないタイプかなー
■曲、BGM OP
VIDEO 挿入歌
【ニコニコ動画】【ニコカラ】Tears of Hope -ティアズ・オブ・ホープ-/ЯIRE(歌入り) 挿入歌のClose My EyesとEDの親愛なる世界は見つからなかったOTL
OPのAsphodelus(アスフォデルス)クッソいい曲w エロゲ名曲リストに殿堂入りするレベル なーんか歌い方がCeuiに似てるなぁーでも気のせいか・・・ と思って歌手見たら本当にCeuiだったwwwwwwwwwwwww この人の歌い方は伝勇伝のOP聞いて好きになったんだよ
バックコーラスとも相まっていい曲に仕上がっている
現在120回くらいループしてるわww EDの親愛なる世界へ、よりは挿入歌のClose My Eyesの方が好き
BGM
・Far Afield ・Una Atadura ・Ash ・Crawler ・Amaranth ・Crossandra ・Dot Brain ・Heavy Strokes ・Stairs ・In the Spiral ・Around Flower BGMの種類結構多くて好きなヤツだけでもこれだけある
凝ってますね
■総合 良い作品でしたねぇ
ユースティアは今までのオーガストと違うコンセプトで萌え系路線からガチシナリオ系のプロットで作られた作品らしい
内容的にも決して温い展開ではなく数々の犠牲があってその上に人々は生きている
ノーヴァス・アイテルという浮遊都市での騒乱を描いたというのも好感
こういう純ファンタジー系は例えば魔物を倒して旅する系の作品だと際限なく物語を続けられるだろうけど、ユースティアは"都市を解明して存続させること"が最終的な目的になっているからね
焦点を絞っているため綺麗に纏まっている
目的がハッキリと提示されていると締めも気持ち良く終わるね
最期のティアが犠牲になってノーヴァス・アイテルを救って終わったというのも個人的にはとても好きな展開
とにかく終わり方がすごく気持ちいい
確かに多くの犠牲を伴ったことは揺るぎない事実なんだけど胸がスッキリするような終わり方なんだよw
ユースティアは世界観の良さにも定評があって雰囲気が素晴らしい
俺もそれは実感してた
これはファンタジーならではの特権だと思う
不満なところを挙げようかと思ったけどこれといって不満なところが現状見つからないww
本当にちゃんと筋が通っている作品なんだなぁ、と今感想書いてて実感してるw
無理矢理作るとすれば"あくまで私的"だけど、強烈にグッと来るシーンがなかったことか
その代わり一貫してずっと面白いよこの作品は
中弛み感一切無し、断言します
先が気になって仕方がないくらいにのめり込む
そういう意味では割と非の打ち所ないのかもねぇ
絵については好き嫌い分かれるかもしれないけど、
真面目な話、絵やその他の要素で敬遠するなんて勿体無いという思考に今の俺は塗り替えられているので瑣末なことである
いや違うな
『シナリオさえよければ他はどうでもいい』 と言った方が正しいwwwwww「絵が好みじゃないんだから他も糞だろwwwプゲラwww」とか抜かしてた頃の自分を殴り飛ばしたいw 自分のこの思考転換を今となっては本当に嬉しく思っている
話がいいのに他が駄目だからといって避けたくはないからね
逆にシナリオの完成度が低かったら多少は絵とか他の部分にも目が行くのはしょうがないけどw
閑話休題おまけ要素もちゃんとあって全部クリアしてからタイトルのオーガストロゴをクリックするとメタ話が見れるw
こういうところで凝っているのもいいなぁ
オーガスト作品は初めてなので知らなかったけど、他の作品にもあるらしいね
ボリュームも結構あって俺はたぶん50時間くらいやってたんじゃないかと
早い人でも30時間くらいは掛かるのかな・・・?
5ヒロイン分+αなのでやりごたえも十分
オーガストは比較的アニメ化には寛容なので2~3年内にはアニメ化するんじゃないかな 2クールでやって作画が『キャベツ』 みたいにならなければそれなりに成功するとは思ってる 1クールだと絶対に無理だろw どうやっても尺が足りん
あと今までやったエロゲの中で一番環境が良いエロゲだった
コンフィグが滅茶苦茶充実してて至れり尽くせり状態w
まさかエロゲでマウスジェスチャが使える日が来るとは思いませんでしたよ
俺いっつも火狐ではマウスジェスチャ使ってるからこの機能すっげぇ嬉しかった
称賛に値します、システム面に力を入れてくれているのがはっきりわかんだね
評判に違わぬ出来、1145148101919点また一つ、名作を知ってしまったぜ 【ニコニコ動画】初ひで(・ω・) 穢翼のユースティアをやる動機となったのが年始に見たこの淫夢動画 かなりのお気に入りです やっぱり俺はホモ S(神) Ever17 -the out of infinity- Steins;Gate この世の果てで恋を唄う少女YU-NO BALDR SKY Dive2 "RECORDARE" WHITE ALBUM2 -introductory chapter- WHITE ALBUM2 -closing chapter- 家族計画 ~絆箱~A(優良) 車輪の国、向日葵の少女 G戦場の魔王 装甲悪鬼村正 11eyes -罪と罰と贖いの少女- 素晴らしき日々~不連続存在~ グリザイアの果実 キラ☆キラ euphoria BALDR SKY Dive1 "LostMemory" そして明日の世界より―― 真剣で私に恋しなさい! 最果てのイマ 英雄*戦姫 リトルバスターズ!エクスタシー あやかしびと -atled- everlasting song この青空に約束を― narcisu narcissu SIDE 2nd 穢翼のユースティア←NEW B(良) CROSS†CHANNEL 車輪の国、悠久の少年少女 CHAOS;HEAD 俺たちに翼はない 3days -満ちてゆく刻の彼方で- Rewrite BALDR SKY DiveX "DREAM WORLD" 天使のいない12月 WHITE ALBUM 輝光翼戦記 銀の刻のコロナ Sugar's Delight もしも明日が晴れならば 沙耶の唄 C(普) 装甲悪鬼村正 邪念編 家族計画 ~そしてまた家族計画を~D(微) fortissimo//Akkord:Bsusvier 余談:結構前にクリアしたのにFPSハマってたせいで感想書くの遅くなりました、てへぺろ☆